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第15話



すでに、この身は悪魔と化している…。




欲しいもののためなら、喜んで悪魔にでもなれるのだ。



残酷だろうが、非道だろうが何も感じない。

行く手を阻む邪魔なモノは残さず排除するのみ。


何であろうと、誰であろうと…。




さあ…。

終焉への準備を始めようか………?











レイの婚約者を招いての食事会から、早1週間が経っていた。


アリサは、兄の婚約者であるライザに嫌われているのが気になって、

レイにそれとなく彼女の話をしてみるものの、

いつもいいようにはぐらかされてしまい、肝心なことは聞けずじまいだった。



やはり、自分には婚約者のことを触れて欲しくないのかもしれないと思い、

最近ではその話題は避けるようにしていた。



「やっぱり結婚の話とかって触れて欲しくないものなのかしら…。」



アリサは花に水をやりながら、思いを巡らせる。



レイにだって、干渉されたくない部分もあるのだろう。

妹のアリサがうるさく聞いていたら、不愉快な気分になるのかもしれない。



「妹だからって、なんでも聞いていいわけではないのね…。」





そう考えると、レイが遠い存在になってしまった気がする。



嬉しいことも悲しいことも、楽しいことも辛いことも、

自分にはわからないことも、感じた思いは全てレイに話していた。


どんな思いでも、レイは真剣に受け止めてくれるから、なんでも言いたいことは言えた。

もう、今までみたいな関係ではいられないのだろうか…?



「結局私は、兄さまに依存してしまっているのだわ。」






目の前を黄色い蝶が二羽(頭)ひらひらと飛んできた。

戯れるように、蝶達は花の上を舞う。



「仲の良い蝶々…。」



あちらこちらを自由に飛び回る蝶に、思わず顔がほころぶ。



花畑を駆け回る子供みたいだ。

一方が逃げるともう一方が追いかけて、追いついたら今度はくるくると回る。


こんな光景を自分も見たことがある。

というよりは、体験したことがあるはずだ。



「子供の時の私と兄さまみたいね…。」



昔は現在よりも、まだ身体が丈夫であったから庭で追いかけごっこもできていた。



「そういえば、イカリソウによく似た花畑で遊んだような気もする。」



場所はこの屋敷ではなく、どこかの野原のようなところではなかっただろうか…?


あまりにも遠い記憶すぎて、明確には思い出せない。



子供の頃の記憶や思い出なんて、その時、その場限りの出来事だから、

大人になってから過去をたどろうとしても、なかなか容易ではないだろう。



「思えば、あの頃が一番幸せだったかもしれない…。」



屋敷の外には出られなかったが、それでも自由があった。

思うままに走れたり、言いたいことも言えた。


今の自分は、家の負担にならないように遠慮と我慢ばかりで、

完全に縮こまっている。






「…っ。苦しい…。」



ぎゅっと締め付けられるような苦しい痛みが、胸の奥で起こった。



まただ…。



最近、発作の頻度が狭まり、体調を崩すことが多くなった。

発作の苦しみも、段々と身体が耐えられないものへと変わってきている。


そろそろ気付かない振りも出来ないのだろう…、

自分の身体のことは自分が一番よくわかっている…。



「あと少しなのかしら…。」



命の期限が迫ってきている。





苦しみしかない人生ならば、もう終わりにしたい…。

終わることで解放されるのなら、そちらを選びたい……。



いつから、こんなにも死を感じるようになったのだろうか………。








アリサは、また外で倒れないように屋敷へと戻ってきた。


応接室へ入ると、母がソファーに座ってお茶を飲んでいたところだった。



「母さま、いらっしゃったんですね。私もご一緒してもいい?」

「もちろんよ。アリサの分も用意してちょうだい。」



母が控えていたメイドにアリサの分のお茶を用意させるように、指示をする。


アリサは、母の向かいのソファーへと座る。



「母さまがこんな時間にいらっしゃるなんて、珍しいですね。」



お茶の時間は必ずと言っていいほど、

母は他の名家のご婦人方の家にお邪魔しているので、一緒にお茶をするのは久しぶりだ。



「今日はたまたま、暇だったのよ。」



アリサが母と話しながら、ティータイムを楽しんでいると、

メイドが「奥様」と声を掛けてきた。



「どうかしたの?」

「先程、奥様宛てに小包が届きました。」



メイドがそう言って、小さな箱のような包みを母へと手渡す。








「送り主の名前がないわね。」



アリサが包みを見てみると、タイプライターか何かで母宛ての名前は書かれていたが、

送り主の名前が記されていなかった。



それに、プレゼントや贈り物にしては包装紙が質素でなんとなく妙な感じだ。



母は「何かしら?」と疑問を口にしながらも包みを開けると、

白い箱と白い封筒が出てきた。



まず、母が白い箱を開けると、透明な液体が入った小さなガラス瓶が箱の中に収められており、

見た目は香水のように見える。



「香水…?」

「のように見えますね。」



続いて、同封されていた封筒の封を切って、手紙を取り出す。


母はそこに書かれている文字を目で追っていくが、

その表情は徐々に強張っていった。




そして、ひどく驚いた表情に変わった。




目を見開いて、持っていた手紙を握りしめながら、手を震わせる。






「……。」

「どうしたの、母さま?」



呼びかけると、はっとしたようにアリサの顔を見た。



「母さま、なんだか幽霊にでも遭遇してしまったような顔をしてますけど?」



血の気の引いた、青い顔をしている。

送られたきた手紙にそんなに驚愕することが書かれていたのだろうか?



「何が書かれていたんです?」



手紙の内容を見ていないアリサには、母の状況がさっぱりわからない。



「…べっ別に、何でもないわ!

お友達がサプライズでプレゼントを送ってきたから、驚いただけよ!」

「…そうですか。」



友達から送られてきたプレゼントなら、

普通は嬉しくて喜ぶものなのではないだろうか?


アリサが見る限りでは、母からそんな様子は一切しなかった。



疑いの目を母に向けると、「本当に、突然でびっくりしちゃったわ!」と、

笑った。



「返事を書かなきゃいけないから、私はこれで失礼するわね!」

「え…?はい…。」



まだ、お茶の途中だというのに、それを中断して、母は自室へと向かっていった。





おっとりとしている母にしては、やけに慌てているように感じられた……。

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