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第13話



レイには、アリサがバルコニーに出ているのが見えていた。




部屋の電気は付いてはいなかったが、

月明かりに照らされた彼女の顔は、はっきりと確認できる。


光を纏っているようで、輝いてまぶしい。

自分にとっての、ただ一つの光……。




「レイさま、私達いつになったら結婚できるのかしら?

早く日取りを決めたいわ。」



アリサに気を取られていたが、今はライザと一緒だったのを思い出す。

隣に居る女よりも、離れているアリサの方が気になる。



「お友達もたくさん呼んで、盛大にしたいですわ!」




さっきから…いや、初めて会った時からぺらぺらとよく喋る女だと、

レイは思った。

煩くてしょうがない。


ライザは、はっきり言ってレイの一番嫌いなタイプだった。





それでも彼女は必要なだ…。


あしらってばかりもいられない。





犬だって、褒美をやるから飼い主に従順なのだ。

本当なら、触りたくもないが、彼女にも必要ならやらないといけない。


それに…今なら、ちょうど気を紛らわせそうだ。




ライザを引き寄せると、すぐに背中に腕をまわしてきた。


レイの前では、初な女を演じているようだが、こういう時になると、

そうかそうでないかがすぐわかる。


相当男慣れしているんだろう。



顔を持ち上げて、口づける。


どんなに激しいキスをしても、何も感じない。

だから、のところへ意識を持っていく。



愛しい人の身代わりだと思えば、我慢もできるものだ……。









アリサは火照る自分の顔を両手で押さえる。

よりにもよって、一番見てはいけない場面を目撃してしまった。


自分の兄のキスシーンなんて…。




「もう…。なんで、私外に出てしまったんだろう…。」



完全に予想外の出来事で、頭が混乱する。




屋敷の中の世界しか知らないアリサが、

レイ以外の異性と関わったことなどあるはずなかった。


ましてや、キスなんて考えられるわけない。



「兄さま…こっちを見てた…わよね……?」



キスの相手はライザであったのに、彼女ではなくアリサを見ていた。

とても熱い熱い視線を向けていた。



「なんで…。どうして、あんな顔で……。」





体中に絡みつくような、舐めるような…。



アリサは口元を押さえる。

キスをされてもいないのに、唇を意識してしまう。




男女の仲を目の前に見てしまったから、動揺しているだけだ。

誰だって、あんなところを見てしまったら、自分と同じ気分になるはず…。



「落ち着くのよ、私…。

偶然に兄さまがこちらに来て、目が合ってしまっただけなんだから…。」



混乱する気持ちを落ちつけようとしていた時、部屋をノックする音が聞こえた。


ノーラがドレスの着替えを手伝うために来てくれたのだろうと、

アリサはドアに向かう。



「はい。今開けます。」



ガチャリと開けたドアの前に居たのは、ノーラではなかった。








「…兄さま。」

「なんだ?驚いた顔をして。」



タイムリーな訪問相手に、落ち着きかけていた気持ちがまた乱れ出す。

この状況でまさか、レイが訪ねてくるなんて思ってもいなかった。



“どうしよう…。さっき私が見てしまったことを聞きに来たのかしら…”



例えそうだとしても、偶然の出来事だったのだから、そう言えばいいだけだ。



「いえ…。

あの…、何か用事でもあるのですか…?」



動揺を悟られたくなくて、必死で表情を繕う。



「外に居たら、お前の部屋の窓が開けっぱなしになっているのが見えて、

風邪を引く前に閉めろと言おうと思ってな。」

「あ…窓……。」

「まだ、開いてるじゃないか。」

「はっはい。今閉めますね!」



アリサは慌てて窓へと向かう。



“窓ね…。さっきの事聞かれたらどうしようかと思ったわ……”



ほっと胸を撫で下ろすと、背後から忍び寄るように声がする。





「…さっきの見てた?」

「えっ!?」

「キス…。」



自分でもびっくりする程の大きな声が出てしまった。



「あっ、あの…私は……。」



恥ずかしくなって、アリサは窓を閉めずにそのままバルコニーへと逃げるように出る。

見てしまったものは見てしまったのだから、素直にそう言えばいいが…言えない。



「バルコニーに出てただろ?」



部屋の中に居たレイの声がまた、背後に聞こえる。

それもすぐ後ろから…。



「ぐっ偶然…だったんです…。別に見るつもりはなくて…。」

「それにしては結構長い間、見ていなかったか?」

「そんなっ…。」



アリサは少しでもレイから離れようと前に進むが、

いつの間にかバルコニーの柵ギリギリのところまで距離を詰めていた。



「しっかり見てただろう?」



バルコニーの柵を握っていると、後ろから手が伸びてきた。

レイは自分の身体でアリサを囲むように柵へ手を掛ける。


これでは前にも後ろにも引けない。



完全に背後を取られてしまったアリサは、固まってしまう。



「あっ、あの…。」

「アリサ…。」



レイは前に乗り出すように、顔をアリサの耳元に寄せる。

吐息交じりの囁くような声に、アリサの身体はびくっとなった。






「覗き見なんてはしたないな…。興味あるの?」






耳元にあった顔が、今度は徐々に下へと降りていく。






「お前にもしてやろうか…?」






その言葉と同時に、首に唇を強く押し当てられた。



「…っ!」



レイの唇は這うようにアリサの首筋をたどる。

首元に辿り着くと、ドレスから覗いていた鎖骨のくぼみにキスをした。



「あ…。」





感じたこともない感覚に、アリサは総毛立つ。

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