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07 男の正体

男の正体



選択の余地のない不毛な会議。


その結果は当然の結果をもたらす。


翻意を促すのではない。


受け入れさせるための話し合いだ。


「当然だ、言うこと聞かなければこの家の全員を殺しても実行するつもりだったのだ

 からな。協力してくれるならいい結果を期待してもいいぞ」


殺すだけなら、別に警告を出さずに治療を開始すれば済むことだ。


そうなれば、竜輝は間違いなく暴走する。


それが、竜輝を殺す引き金にもなった。


「ばかにするな!全員を敵に回して勝つつもりか」


「当然だ、私自身竜輝を恐れていない。なぜなら失敗したら殺すまでだ」


「そんな!」


しおりが抗議を仕掛ける。


「当然じゃないか、放置すれば地上から人が消える魔獣なのだぞ」


「あなたはそんな魔獣より強いの?」


「別に強いわけじゃない。殺すことが出来るだけだ」


「殺すことが出来るのに、強くない?」


「不思議でもなんでもない。本人が自殺する手助けをするだけだ」


「自殺? なの」


「当然じゃないか。自分のせいで大好きな姉と母親を殺せばまだ九歳の子供だ!」


これが、竜輝を殺す裏技だった。


「死にたくなるというわけね」


「だからこの時期しか出来なかったというのが本音だ。成功すればみんなが助かる。

 失敗すれば里の壊滅だけですむ」


「世界は助かるということなのね」


「ああ、だから引き受けた」


「冗談じゃない!、そんなことはゆるさんぞ」


「お父様は黙って、サイゾウ話は聞いたわね。館の全員を集めて、緊急招集よ」


近くの茂みから返事が聞こえた。


「了解しました。30分後に広間にて」


どうやら今の話はしおりの護衛にすべて聞かれていたようだ。


「あとのことは責任もって私が処理します。『名も無き方』にすべてをまかせます。

 弟のことをよろしく」


「ほう、私のことを知っていたのか?」


「ええ。サイゾウの情報網に入っていましたわ。サイゾウから先ほど警告を受けたの。

 彼を敵に回すなとね」


「賢明な判断だ。俺も安心して作業にはいれる」


そういい残して庭にもどった。




30分後、広間では頭領ではなくしおりが全員に事情を説明していた。


だれも反対するものはいない。


この『しおり』という娘がいかに館を支配していたか。


それを物語るものだ。


だれよりも厳しい修行をこなしていた。


魔術だけでなく体術まで身に着けている。


それでいてやさしい性格に皆が心酔していた。


今回も事情を隠すことなく説明した。


そのことに、より皆は納得したのだ。


なまじ頭領が説明したよう方法。


『ただ近づくな』では誰も言うことは聞かなかっただろう。


竜輝の命と、そして本人の命をかけた修行が、始まろうとしている。


下手すれば、里のすべてが呑み込まれるかもしれない。


『邪魔するな』といわれれば当然のことだった。




そして新たなる指示もだされた。


『他の家からの斥候も入れるな』


その命令の元、しおりは他家にたいしても依頼書を出す。


その依頼書を持って用人達は奔走をはじめた。


しかし、その者より早く男の使い魔が別の者に手紙を渡している。


その結果、使いの者たちが着く前に各家は了解を出していた。




水の家以外は当主の上に隠居がまだいた。


その隠居たちがそろって動く。


『これから水の家の離れから500メートル以内に立ち入らないよう、入ったものは

 破門ではなく抹殺』と言われていたからだ。


『破門』というのは単に追い出されるだけだ。


しかし、『抹殺』というのは違う。


家の秘密などを知って逃げ出したものに対する処分だ。


身内からも殺し屋がくるばかりでない。


他家に逃げ込むことも許されない処分だった。


もし他家が匿えば、その者は家ごと抹殺されても文句をいえない。


その者を雇った家として糾弾され抹殺されてしまう。


当然、里には居られなくほどの厳しい処分だ。


それがいとも簡単に通告された。


依頼された用人たちの方が首をかしげながら帰ってきたほどだ。




この名も無き男は、実は過去に里に来ていた。


そして各家の隠居たちの代にて里に莫大な恩恵を施した前例がある。


そのとき出したお礼状に端を発する。


『いかなることがあってもこのものが持ち込んだ依頼に対して一件だけ守れるものが

 あれば従う』


そのような、手形が発行されていた。


男の使いから、その手形が各家に配られた。


だから、皆が従うのは約束だった。


逆に水の家のものにはその辺の事情はわからない。


約束した相手がすでに死亡していたからだ。


サイゾウというのはその頭領についていた護衛だ。


だから、当時の事情の一部を知っていた。


三十年を過ぎて、ようやく来た約束手形の情報に驚く。


男の情報は、すでに手にいれていた。


他家の情報交換からもたらされた物だ。


その情報と今回の依頼が一致した。


そして得た結論は、あの家庭教師が只者ではないということだ。


そして、しおりが語ったことが事実なら里の危機もうなずける。


『竜輝様が魔獣になるかもしれない』


そんな話だ。


館の影の支配者であるサイゾウが、全員に手配したのは当然だった。






男は庭に戻った。


いまだに風船を維持している竜輝の結果に大いに満足する。


思ったより基礎的なことを覚えている証拠だった。


「いいぞ、いい感じだそのままそのイメージを今度は片手で持ち上げてごらん」


そういっていままで両手で持っていたのを片手に持たせた。


それもなんなく出来た。


「今度はそのイメージを体を通して反対の手に移してごらん」


いわれた竜輝は言われたように考える。


しかし、うまくできないまま風船は消えた。


反対の手にはなにも出てこなかった。


「あせることはない、風船はいくらでもあるから」


そういってまた風船を手に持たせた。


だがある程度の術者なら気付くだろう。


それが『すごい物騒なもの』と一目で気づく。


家が一軒吹っ飛んでもおかしくないほどの力のかたまりだ。


だが子供にはそれを見抜く力はまだ無い。


だから、きれいな毬と見ていた。


手にしても違和感はなく今までと同じだ。


それもやはり消えてしまった。



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