05 しおり
しおり
男が竜輝との訓練中に、突然怒鳴り込んできた美女。
男は、あっけにとられた。
けれども、直ぐに冷静に対応する。
どうやら、この屋敷の後継者でもある姉らしい。
『会いたい』と思っていただけに幸いだった。
「そうですが、なにか?」
「なにも言わぬ、さっさと帰れ」
男に対する突然の解雇予告に驚く。
けれども、ある程度予想したことだ。
男は、竜輝を残して少し離れた別の場所に移った。
竜輝に話を聞かせたくないからだ。
男の申し出に、姉の方も同意した。
二人は、すんなり場所を移して改めて話を始めた。
「女中さん、申し訳ないけど席をはずしてもらえないか。お姉さんと話がしたいので
ね。それと、護衛の人も5分ほど休んでもらえますか」
姉の方の合図で、女中の人はそそくさと席を外す。
けれども、護衛は動く気配もない。
護衛達は『自分達が認識されている』とは気付いていないらしい。
そのため、動こうともしなかった。
これから話す内容は誰にも聞かせたくない。
普通なら『不可能』と判断して、危険除去に走るのが目に見えるからだ。
目の前の『竜輝の姉』は本能的に悟っているのだろう。
だから、男を遠ざけようと乗り込んできたのが判った。
「さて本題に入る前に野暮用を片付けるので、ちょっと待っていただけますか」
そういって男は手を軽く振る。
手先から 睡眠弾を二つ放つ。
無属性の、無力化魔法だ。
護衛の隠れているところに確実にヒットする。
気配は完全に消えた。
それを見ていたしおりは驚きの声を放った。
呼び動作や詠唱無しのいきなり攻撃だ。
攻撃された方はいきなり術中に落ちる。
それが、どれほど高度な事なのかは携わるものなら判るのは当然だった。
「あなた、なにもの!」
「魔獣ハンターといえば信用するかな」
「まさか、伝説の、それじゃ弟を狩りにきたの」
そう、世界には男の伝説が広まっている。
やはり、この姉は竜輝の正体を半ば気付いていた。
表の世界の怪事件がいつの間にか解決している。
そんなことがあちこちでおきていた。
世間の噂では『魔獣ハンターがいてそれを解決している』ということだ。
「まさか!弟さんは魔獣じゃない。れっきとした人間だよ」
「でも、あなたは竜輝の性質を見抜いたように見えたけど、げんに人払いをしたのは、
始末するつもりなのでしょう」
「しおりさんは物騒ですね。力を制御できれば別に怖いものでもなんでもないこと、
それよりしおりさんは、竜輝の力を知っているようですね」
「うすうす気づいていたわ、ほかの人の力を吸い取らないように私が見張っていたけ
ど、大きくなるにつれてもう私の力では限界と思っていたの」
「弟思いですね。惚れてしまいそうですけど、残念、先約がいるようで」
突然言われたことに驚くとともに急に顔を真っ赤にする。
「ばかなことはいわないでよ、あいつはただの幼馴染よ」
「まあ、無理に否定することはない。彼は立派な男だ。将来一族を背負って立つのだ
から、悪い話じゃないでしょう」
「彼を知ってるの」
「その辺は想像におまかせします。今は竜輝の話でしょう」
「ええ、そうでしたわね。どうするつもりなの」
「竜輝は、無意識とはいえ先天的な天才です。いま能力を開発しなければ周りから、
化け物扱いをうけ魔獣となってしまう。しおりさんはそんな竜輝を見たい?」
「まさか、そんなことって」
そういいながら弟のほうを見る。
二人の位置から、声は聞こえない。
けれども、顔は見えるところだ。
竜輝はしっかりこちらを見ていた。
竜輝はそんな姉をみて不安そうな顔をする。
「わたしなら確実に教育できる。ただ秘密なのでこの離れに人の出入りを一切無くし
てもらいたい。半径200メートルに人が居ないほうがありがたい」
「護衛もなの」
「もちろん、はっきり言えば命の保障が出来ない」
「まさか、竜輝に危害が及ぶことなの」
「いや、護衛の人に竜輝の無意識攻撃が行われてしまう。今は力が弱いから体調を崩
す程度だが本格的に修行すると生命力そのものを吸い取ってしまう」
「あなたは竜輝をそんな怪物にするつもりなの」
「だから耐性の無いものが近くに居てはまずい」
「弟は人間なのよ。そんな怪物にしてくれなくてもいいわよ」
「そうじゃない、竜輝の器を一度全開にしなくては収まらない問題です。一時的に能
力を封じることなど簡単です。でも成長に伴って器はどんどん大きくなっていく。
そのつど封じていくつもりですか?」
「ええ、やりかたさえ教えてくれればそれでもいいわよ」
「わかってないね、風船を膨らますわけじゃないんだ。そのふくらみは一瞬で起こる
こともある。それこそ君自身を飲み込んでしまうこともありうる」
現実に飲み込まれている姉だ。
それでも、何とかしようとする姿は立派だ。
しかし、それは哀れを通り越して滑稽だった。
「まさか」
「いままで、魔獣はそんな中途半端な人たちが封印したことにより出現している」
「ではやはりあなたが魔獣ハンター!」
「竜輝の器はこの里全員の魔力を飲み込んでもまだ足りない」
「そんな大きいの」
「当然足りない分は生命力を吸い込んでいく。その結果どうなるか」
「弟を倒すためには・・・まさか」
「予想通りだ。すでに君のからだにも影響は出てるだろう。本能が抵抗してるから体
調不良程度ですんでいるが」
「それじゃこの家でみんな不調なのは」
「いや違う、この里のみんなだ」
男は調査結果からすでに影響が多岐に出ていることを知った。
魔獣の影響はテリトリー内なら距離に関係がない。
幸運? にも村を囲む結界があった。
それが、竜輝のテリトリーを制限していた。
「まさか、そんなことが」
「それが現実だ。一匹の魔獣は大きさによって里を飲み込み餓死していく」
「竜輝がそんな・・・」
「だから結界をすでにはった。あとはその中に人が居ないようにしてほしい」
はっきり言えば、関係ない人間が死んでも良い。
しかし、将来竜輝がそのことを知ったときのことを考えれば、被害は無い方がいい。
「わかったわ。あなたを信用したわけじゃないけど、さっきの技をみせられたら、
あなたは只者じゃないのがわかるから、お父様に話してみるわ」
「ああ、そうしてもらえば助かる」
そういってにっこり笑う。
娘はそれを見て顔を赤らめうつむいてしまう。
「それじゃ、竜輝をお願い」
娘は、そういって離れていった。




