15 旅立ち
旅立ち
長老としては、しおり嬢が死んでも縁を持ちたいのが本音だ。
男が勧める縁談なら文句なしで受け入れるつもりだった。
水の家にこの男が付いているとなれば、そんなところだ。
そのことが手に取るように判る男にとって話は簡単なことだった。
「とりあえず、茜嬢にあってみてから返事したらどうだ」
「ええ、でも・・・好きになってくれるかな」
「心配するな、縁というものはそんなものだ。茜嬢とのお見合いの席としようか」
そういって話を進めるようにもって行く。
待つこと数分、やはり出てきた娘はあの娘だった。
竜輝も半ば予測していたことだ。
「茜ともうします。よろしくお願いします」
そういって 被り物をとった娘はあっと驚く
「どう、足の具合はよくなった?」
「ええ、なぜか足の痛みは消えて思うように動くようになったの」
「お医者様に見てもらおうとしたら、なぜかばたばたと」
「大丈夫、足はもう治ったから自由にすればいいよ」
「本当に直ったの?でもお医者さまは不治の病だとかいってたのに」
「うん、そうだよ姉さまと同じだったけど魔法で直したの」
「魔法で、そんなことも出来るの?」
「うん、簡単だったよ。でもさすがに疲れたけどね」
二人の会話を聞いていた侍医は青ざめていく。
長老は不治の病といわれてた孫の足が治ったのことに半信半疑だ。
侍医にすぐに足を見るように指示をだし別室に娘をつれだした。
しばらくすると侍医の男は首を振りながら
『信じられないことに完治していました』と報告してきた。
それからは火の家はざわつくこと数分。
ようやく落ち着いたとき娘が戻ってきた。
「ところで竜輝くん、茜を嫁にもらってくれる。竜輝くんにはいっぱい感謝してる
のでこれぐらいしかお返しできなけど」
「うん、いいよ、またいっぱい遊ぼう」
美貌の片鱗が見える茜からそのように誘われてうれしい竜輝だ。
子供のやりとりに打算はなくすんなり婚約は成立だ。
その後は二人を並べての歓迎の宴となる。
余興で火の家の術者の実演がはじまった。
しかし、竜輝の見せた炎のほうが大きく立派だったことで当主はますます喜んだ。
次の日には行列をしたてて水の家に悟としおりの婚儀の連絡を行う。
その日のうちの婚約成立だ。
母親の治療も数日後には済ませた。
そうして、すべてが順調にいったところで主役退場の時間が迫ってきていた。
竜輝を河原に散歩に連れ出して話をする。
「お母さんの病も治したし、あとは時の流れに身を任せるだけだな。浮気をするな
よ。」
「浮気だなんてまだまだ先のことだよ」
結婚は竜輝の成人を待つことになった。
まだ、村の中は勢力争いの真っ只中だ。
結果的に最強の火の家が中堅の水の家と縁戚を結んで争いは収束を迎えようとして
いた。
「竜輝の力を手に入れようと他の家も画策してくるからな」
「そんな」
自分が争いの中心になることに対して自覚の無い竜輝だ。
「それで、この紙に書かれている人を助けてやってほしいのだ」
そこには30人ぐらいの名前が書き込まれている。
「それはいいけど、なぜなの」
「それらの人は感受性が強かったので、お前の無意識の毒を吸収してしまった人だ。
責任上助けてやってほしいのだが、頼めるか」
その中には、水の家と敵対している家もあるぐらいだ。
竜輝の魔獣の力は人間関係など関係なく力の強いものを求めたからだ。
「僕のせいなの?」
正直に言えば、茜もその被害者の一人だ。
マッチポンプという言葉が当てはまる。
自分で原因を作って自分で治していたのだ。
今までは、無意識の竜輝がしていたことなので意識させないようにしておいた。
しかし、もう別れ時だ。
真実を教えておかないと、掛け引きの道具されてしまう。
このように伝えておけば、治療したことを恩着せにすることはないからだ。
「秘密にしてるが間違いない。損は無い話だと思うがな」
治療を受けて恩を感じない人間は居ない。
結果的には詐欺に近い物だ。
「はい、間違いなくやります」
そこには、頼まれたことは確実に行なうという決意のようなものが見られた。
それを見ると男は昔の自分を見るようだった。
「それでな、ここで初めてあったときのことを覚えているか」
「はい、もちろんです」
「それじゃ、川の動かし方を教えようか」
「え、出来るの?」
「ああ、あの時は魔法力が無かったが今なら出来る」
そういって力のポイントを教えていく。
要領を覚えていくとそれは簡単にできてしまった。
水の流れを根本的に変えるのではなく、微妙にそらしていくことだ。
初めは微量でも少しづつ大きくなって最終的に川は大きく蛇行していた。
今まで川底だったところが表に出ていた。
「あのときの答えがこれだ」
「ええ、いまならわかります。いかに無駄に力を注いでいたか」
「すべては自然に逆わらずあるがままに動かしていく。魔法というのは魔法じゃな
い、自然の摂理さ」
男は暗に川の流れも人の流れも同じだと示したのだ。
まだ若い竜輝に人の世の動かし方を暗示していた。
急に変えようとすれば、無駄に力を使ってしまうことを教えた。
「はい!」
竜輝もわずかそれだけの示唆で師匠の真意を汲み取れるほどになっていた。
「それじゃ、達者で暮らせよ。俺はもういくから」
「師匠、みんなには言わないのですか」
散歩に出かけるような印象で出てきたのだ。
そのまま、旅立つとは考えてもいなかった。
影の者達が急ぎ屋敷に走る気配が感じられるが手遅れだ。
「ああ、流れる雲は一時は留めることができてもいつかは流れていくもの。縁があ
ればまた会うこともあるさ」
そういって村を後にする。
男の師匠から頼まれたことだ。
『同じ境遇の子供をできるだけ助けてやって欲しい』といわれていたのだ。
男も同じ魔獣の生まれだった。
すでに発現して、竜輝など比較にならない魔獣になっていた。
自分の親を!、そして村さえも飲み込んで発狂するだけだった。
それを、師匠である老人が命がけで助けてくれたのだ。
その師匠の頼みなので男は新たなる魔獣の子供を求めて旅立ったのだ。
それが、今は亡き師匠に返せる唯一の恩返しだからだ。
その後
竜輝がリストの家を回るうちに 竜輝の力は村中に知れ渡った。
今度は、竜輝の力を利用しようと暗躍が始まる。
しかし、終生竜輝は茜ひとりと添い遂げた。
子供には恵まれたが誰もその力を継げなかった。
竜輝自身が村の実権を握っていたときは争いも無く平和な村になる。
やがて、隠れ里から普通の村として活動を開始したのだ。
噂を聞いて隠れていた魔法師が集まってくる。
発展して町と言われるほどになる。
竜輝が亡くなったことにより町が危機になることもあった。
竜輝の後釜の権力争いだ。
しかし、竜輝が残した種は深く静かに各家を繋いでいた。
竜輝に助けられた子供が成長して竜輝の遺言を実行したのだ。
それは、醜い争いを繰り返す大人達の引退排除の勧告だった。
やがて、その町が魔法の使える町と認められるまでに長い時間がかかる。
そこの町が出身の勇者が出現して、世界に羽ばたいたのは遥か先のことだ。
魔獣退治の勇者として!
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
この話は雅雄記を書く前の構想の作品です。
そのため、話の流れに強引なものばかりで煮詰めてあ
りません。
拙い作品ですが、私としては思い出深い作品なので、
あえて掲載しました。
現在、私はノクターンのほうでも活動しています。
(どちらかといえば、あちらが主です)
しかし、十八歳未満の方は見ることが出来ませんので、
ご注意を申し上げます。
『tuka22』と言う名前ですので興味があったら覗い
て見てください。
長い間、応援ありがとうございました。
これからは、ノクターンの方で応援を
よろしくお願いします。