11 死病
死病
竜輝は、姉しおりの妊娠を知って少し動揺気味だ。
男は竜輝を落ち着かせるため深呼吸をさせた。
生々しい姉の様子を知ってかなり混乱している。
数回深呼吸して、ようやく落ち着いたのでいよいよ本質に迫った。
男は、竜輝に姉の頭を見せる。
「ここをしっかり見てみろ、わかるか?」
竜輝は、いわれて覗き込んでいるのが見える。
しかし、人間の頭の中は複雑だ。
素人が見ても判るものではない。
「複雑でよくわからないけど」
「どういう風に見える?」
「灰色のもやの真ん中に黒い塊が見える」
「その黒い塊を吸い出したいが出来るか」
「やってやれないことはないけど大きい」
「ただし、その黒い塊は吸収してはいけない」
「どういう意味です」
「それは危険なものだ。回数は多くてもかまわないから吸い出したら直後に手から吐
き出せ」
治療の根本的なものだ。
体内の異物を排出するだけなら、男でも出来た。
また小さな被害を与える毒物程度なら吸収分解できる。
しかし、今からの物は分解できない。
致死を呼ぶ悪質な物だ。
竜輝の呪いの本質的なもの。
たとえ竜輝が作った物でも、竜輝に害を与えるのは同様だった。
だから、竜輝の身体を通すだけで対外に排出する必要があった。
このために、体内を素通しする魔法をとことん教えておいた。
一応、竜輝の物だから竜輝に対して無害なままに通せる。
そうは言っても、男がやるより無害と言うだけだ。
根本的には触らないほうが良い。
男がやったら、男の中に取り込まれてしまう恐ろしいものだった。
だから、竜輝にしか治せない。
「やってみるよ、いいですか?」
「やれ!」
そういって作業を始める。
竜輝の手から黒い気がにじみ出てくるのが見える。
それは黒い血のようなもので手から離れると消えずに滴り落ちうねっている。
吸い出しても吸い出しても作業は終わらない。
はじめてからすでに30分たっている。
ぼちぼち館が異常に気づき始めるころだ。
ここまで、道場で魔力を抑えるように作られていたから発見されなかった。
しかし、今使っている魔法はあまりに異質なため確認が来る頃だ。
引き上げようか迷ったところだ。
今回、一度で治す必要は無い。
回数を掛けて治す方法もあるからだ。
ただし、無駄が多いのと患者への負担が大きい。
出来れば、使いたくないだけだ。
男は、去就に迷っていた時だ。
「終わった」
そういって竜輝が立ち上がる。
男の予想以上の早さだった。
「よし 目を覚まさせるぞ、引き上げだ」
そういって眠っているしおりに活をいれる。
まだ意識が朦朧としているところで
「十分楽しませてもらったぞ。それじゃ後で離れ跡に来てくれ。事情はそのとき話を
する」
男と竜輝は、そう言って引き上げる。
道場外に人の気配が増えてきた。
後には朦朧としたしおりと床に広がる染みを残す。
勿論、服を着せている暇はないので下着姿のままだ。
この後のことを処理するべきか?迷った。
でも彼女の姿では言い訳は通りそうもない。
男の言い訳は有無を言わさずある結論に至りそうなのですばやく逃げ出した。
烈火のごとく怒ったしおりが離れ跡に飛び込んできたのは30分ぐらい後だ。
身内とはいえ、男達のまえに下着姿を晒してしまったので当然ともいえる。
しかし、離れが消えていることに驚いて声もない。
ようやく、声を取り戻して怒りが爆発だ。
「いったいなにをしたの!下着の乱れは感じられなかったから赦すけど、事情を説明
してもらうわよ。私の裸は高いからね」
竜輝は姉の剣幕に逃げ腰だ。
「竜輝のはじめての経験を体験させてやっただけだ」
男は正直に答えた。
「竜輝の初めての経験? まさか、」
「いやらしい誤解をするな治療だ」
真っ赤な顔で怒る顔もかわいいからからかいがいもある。
「治療ってなにをしたの」
「おい竜輝、説明してやるのも治療師の仕事だぞ!」
そういって竜輝を促す。
「お姉さま、ごめん」
「いいわよ、それより何をしたの」
「うん、最初にわき腹の火傷の跡・・・」
「え、見たの、でも直っていたように・・・」
色素が沈着したままなので、見た目は変らない。
ようやく気づいたようだ。
当然、乳房をしっかり見られたことに気付いたようだ。
「みたわね!」
「はい、見なくては直せないので」
「竜輝はいいのよ、そこの朴念仁よ」
「俺のことか、当然だ、医者が患者のことを診るのに色情狂のように言われるのは
心外だな」
「姉さま、異常はないよね」
不安そうな竜輝の声に慌てて返事をする。
「ええ、いつもなら引きつる感じがきれいに消えているわ」
「当然だ、竜輝の治療は完全だったからな。今の黒い染みも数日で消えるはずだ」
「え、この痕も消えるの」
「当然だ、場所が場所なので細かい治療が出来なかっただけだ」
「そう、消えるのね」
「きれいな玉の肌が復活するんだ」
「このー!、少しは見直したのに」
そう言って、しおりはまた怒り始めた。