10 初体験
初体験
竜輝の姉、香里のわき腹に引きつった火傷のあとが痛々しく見えた。
「どうだ見えるか。これが!」
竜輝は、いままで猛然と抗議のまなざしだった。
それが、その傷を見たとたん変わった。
「おそらく子供のころの荒行で失敗したあとだろう」
「でもこんな傷をおってたなんて」
男は知らないが、竜輝を庇ってつけた傷だった。
「だいぶ我慢してただろうな、とりあえずここから始めようか簡単そうだからな」
「何をするの」
「なにをいってるんだ竜輝が直すんだよ」
「そんなことが出来るの?」
「あたりまえだろう、心を静かにして彼女の姿に魔法イメージを重ねてみろ」
いわれたように今までの修行の成果で座禅を組み彼女の姿を精査していく。
「あ、ここに黒いイメージがある。」
そういって、指差したところは傷のところだ。
「いいぞ、どうする、そのイメージにいつものやつを少しあててみろ」
「え、そんなことをしたら・・」
「大丈夫だ、竜輝はもう十分調整が出来るようになっているから」
「そう、なんか不安だけど」
そういいながらも、言われたことを忠実にやっていく。
竜輝の敬愛する姉ということで、今まで以上に慎重になっている。
逆にいえば、『最適の患者』と言えるわけだ。
どうにか作業を済ませたようだ。
「どうだ、黒いイメージは消えたか」
「うん、消えたよ」
明るい返事が返ってきた。
一番判りやすい重症な傷だからそのイメージもはっきりしていた。
部位が部位なだけに彼女も他人に見せたがらず重傷に変っていた所以だ。
『重症』と言われる傷があっさり直されていく。
竜輝が彼女を助けたいという思いが再生力を加速していたからだ。
「よし、上出来だ。それじゃ今度はここを見てみろ」
そういって指差したところはつま先だ。
「黒いイメージは無いけどくすんだ感じだけど」
診る事を覚えた竜輝はその力を一気に発達させていた。
そのため、軽症と思われる些細な傷も診れる様になっていた。
「いいぞ、そのとおりだ、そこに同じように意識を集中してみろ」
言われたことを素直に実行していく。
「ほう、うまいものだな、きれいに直っていくぞ」
先ほどまで少しいびつに変形していたつま先がきれいに整形されていく。
「それじゃ、本格的にいこうか」
そういってズボンをとりさる。
まぶしいばかりの素足が見えた。
「なにをするの、そこまでしなくても」
目の前には下着だけの美女が横たわっているのだ。
姉のこのような姿は見たことのない竜輝は恥ずかしさに顔をそむける。
「こら、治療をするものが患者から目をそむけてどうする。しっかり見ろ」
そういわれて目を戻す。
「ここをよくみろ」
と指を指すところみる。
膝のところだ。
「わかるか、さっきと同じように感じてみろ」
そういわれて同様に見ているようだ。
「あ、わかった、ここだ」
そういって指をさしたところは同じところだ。
「どうするか、わかるか。今回は少しやり方が難しいぞ」
重要な間接部位なので、形状のイメージが複雑だった。
「わかります、余分なところを取らないといけないのですね」
左右の足を比較して違いを見つけたようだ。
「そうだが、出来るか」
「どうやるのですか」
「消滅イメージは出来るか」
「物を消すのですか」
「そうだ、ただ今までは火や電気や水を使っていたが」
「何を使うのですか」
「子供の頃黒いイメージがなかったか?」
「あ、あります。なにもかも吸い込むような」
「そうそれを使えばいい。余分なものをそのイメージで吸い出してしまえばいい」
「そんなことをして大丈夫なのですか」
「そのために私がいるんだ。独りでは絶対にできないことだ」
「わかりました。やってみます」
そういって集中する気配が回りに立ち込める。
患部の骨が消えるのわかった。
意識があれば悲鳴を上げただろう。
しかし、麻酔をかねた強烈な当身に意識は簡単には戻らない。
「よし、では余分に取ったところと足りないところをイメージで補充してここは終了
だ」
男は、すごい難しいことを言っている。
しかし、ここで緊張させてはかえって失敗するので軽く流すように言う。
そして、事実竜輝は簡単に治療させてしまう。
それだけ、竜輝の力が強いからだ。
緊張さえしなければ、なんら問題はなかった。
簡単な治療や判り易い治療を重ねて自信を付けさせていく。
最後に、最難関の治療を行う予定だった。
「終わった」
そういって、息を吐くのが聞こえる。
「ところで、ここの白い点はなんですか」
そういってお腹に指をさして示す。
「決まってるだろう、新しい命だ」
「ええ!、新しい命って」
「なんだ知らないのか。女の人は子供を産むことを」
「知ってるけど、なんで姉さまが」
「ここから先は大人の話だ、次に行くぞ!」
男は、先の行動を促す。
竜輝がそれを知って動揺していた。
竜輝は、結婚もしていない姉が妊娠していることに驚く。
男には大体の事情は察することが出来た。
このような場合、どちらが残酷なのかよくわからないところだ。
死への思い出にと恋人と関係することだ。
本人は後悔したくないから、思いっきりの初体験なのかもしれない。
しかし、残された男はどう行動するべきなのか?
そういう意味で『残酷』というのだ。