01 プロローグ
私の最初の小説、雅雄記の前身に当たる草稿です。
お蔵入りさせるのもなんですので、この場で発表します。
プロローグ
男が一人森の中を歩いていた。
街から遥かに外れた山奥だ。
男はある使命を帯びて動いている。
それは、この世界に産まれた魔獣の存在を消滅させる役目だ。
魔獣が産まれてしまえば、それは殺すしかなかった。
魔獣が産まれれば、周辺の生命力を奪い去り自らそれを悲観して死んでいく。
そんな悲劇を防ぐために男は活動している。
魔獣の生態は世間に知られて無い為、あらぬ誤解を受けて秘匿されてしまう。
その結果が前述の悲劇に繋がった。
しかし、今回は偶然が幸いする。
そのため、魔獣になる前に出会うことが出来る。
切っ掛けは、「ある隠れ里で患者を診てくれ」と呼ばれた医者が居た。
その医者が知り合いの医者だ。
男は、その場に偶然居合わせた。
男は、その手紙にまとわり付く魔獣の気配を察知できたからだ。
さすがに、その医者は動くことが出来ない。
男は、患者に来てもらうように手紙を託されて村に向かった。
男は、森の中の小道を歩いていく。
森の奥はさらに木が小道にかぶさるように近づく。
やがて、その道は獣道となって森の中に消えた。
案内の地図が無ければ『道を間違えた』と思うほどだ。
厳重な里への入り口を守っているのが良くわかる。
件の医者がその里を知ったのは偶然だ。
薬草採取の途中、森の中で動けない若者を助けた。
それが、きっかけだ。
その男は里の主の息子の一人だった。
その男は、ある子供の治療を頼みたくて連絡してきた。
里の医者では治せない患者だ。
そこで、外部の医者を頼った。
手紙には訪問日しか書かれていない。
しかし、魔獣ハンターの男は、その手紙から魔獣の匂いを嗅ぎ取った。
そして、医者に教えられた場所を現在辿っている。
男を助けた場所を教えてもらったからだ。
案の定、男を助けた場所からは微かな残滓が感じ取れた。
普通のものなら感じ取れない。
しかし、魔獣ハンターといわれる男だ。
そこから気配を辿るのは簡単だった。
男は、道なき道を辿っていく。
道は、巧妙に隠されていた。
しかし、明らかに人が何度も出入りしている道だ。
それも、かなりの魔力を感じる。
だから、隠れ里の意味がわかる。
人に隠れて生活する魔法使いの一族だった。
人は自分に無い物を恐れる一面がある。
それは、魔法に置いても同じだ。
魔力の無い人間にとって、魔法を使える存在は化け物同様。
その結果、排斥にあって人里から離れるようになった。
件の医者は、魔法の素養が全然無かった。
そのため、魔法の有無に全然気付かない。
それゆえ、村の物も恩人に対して秘密の約束だけで帰したのだろう。
けれども、男には魔力の有無がはっきり判る。
おまけに、術師が通った残滓も判るほどだ。
その後を辿るのは簡単だった。
魔獣は、そんな魔法師の隠れ村の中に産まれた『鬼子』ともいえた。
育て方さえ間違わなければ、そんなに怖い物ではないのだが・・・
成長と共に、周りの魔力を吸い尽くしていく。
魔法師の魔力はある意味生命力とも言える。
それを、吸い尽くされたら死ぬしかなかった。
今回の子供は、まだそんなに力を発現していない状態だ。
今なら間に合うかも知れない。
そう思って、男はこうして急いで足をのばしてきた。
魔獣が覚醒すれば、終わりだ。
村など簡単に飲み込んでしまう。
そうなれば、悲劇しか残ってなかった。
男の目の前の森には結界が張られている。
混乱と排除の結界だ。
普通の者なら森の中で道に迷う。
そして、村から離れるように仕掛けられていた。
案内が無ければ、確実に迷う結界だ。
しかし、男はそれを気にせず踏み込んでいく。
結界より遥かに強い力が結界を黙らせて進入を果たした。
男は、やがて川に出る。
大きな川ではない。
そこからは、視界が開けて道? もあった。
明らかに人が通って滑らかになった岩が点在していたからだ。
男は、ところどころに突き出ている岩伝いに川を渡っていく。
渡り終わったところでようやく村に入った。
男を包んでいた雰囲気が消えて、結界を抜けた事が判る。
どうやら、川を境に結界が張られているらしい。
そのため、そこに人がいる気配はそとに洩れなかった。
逆に言うなら、男のサーチ範囲に村の存在がはっきりと判った。
男には昔来た思い出のある村だ。
周辺の地形が変わっていたので、判らなかった。
しかし、村その物は昔の面影を随所に残していた。
その当時は住人の力もそんなに強くなかった。
それが、今では結界さえ貼れるほどに発達している。
その意味するところは切磋琢磨する環境の存在だ。
男は領内に入ると使い魔を放つ。
そして、情報収集に動き出した。
ここは辺境の村だ。
しかし、誰もその存在すら知らない魔法の村だった。
魔王戦争の確執の時代、戦うために広がった魔法の概念がある。
敵の魔王や使役する魔獣が居た時代なら重宝された魔法師達。
しかし、平和の時代には無用の長物だ。
いや『兵器』としてあまりに強力だった。
それは、その能力から迫害と隷属の歴史をたどる。
本人の意志を奪って、誓約に縛られるか排除されるかの二択だ。
その結果、力のある者は力を隠して活動するようになった。
能力が隠せない者は、人も居ない山奥に隠れ住むようになる。
やがて隠れる者同士つながっていく。
そして、魔法を使えるものが村を作るほどになった。
やがて、選別された者が集まったことで能力が強まっていく。
本来、不必要なら消えていくのに皮肉な物だった。
一度その流れを掴んだ魔法使い達に後戻りは出来ない。
彼等は急速に人口をふやしていく。
そして魔法も体系的にまとめられる。
そんな形で、より強くなっていた。
魔法使いの目標はかつての英雄の伴侶『あかり』だ。
彼女は多くの国でその魔法を駆使して荒れた大地を蘇らせた。
勿論、英雄の活躍がメインだ。
けれども、魔法使いにとって彼女こそ憧れだった。
そんな魔法使いが作る村や、隠れ里が多いのは当然だ。
しかし、皮肉なことにそんな村でこそ魔獣が産まれる可能性が高かった。
魔獣は、魔力の弱い村では絶対に発生しない鬼子だった。
一度魔獣が産まれれば、その村は壊滅だ。
男はそんな村の成れの果てを数個見ている。
そして、哀れな魔獣に止めを刺してきた。
今回は『間に合って欲しい』という思いだった。