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Short Short Circuit

おくすり

作者: 境康隆

「何? あなた、微熱なの? 微熱ぐらいで薬が欲しいなんて。あまり薬に頼っていると、いざ本当に大変って時に効かなくなるかもしれませんよ。えっ? 今日は大事な会議がある。一生に一度の大勝負。昇進がかかってる。薬に頼ってでも万全の体勢で臨みたい――ですって。むむ。我が家のローンも大変だしね。微熱ごときに昇給の機会を邪魔されるのは確かにダメね。分かったわ。お薬探してみるわね。これね。はい。どう? 熱は治まった? えっ? すっと熱が退いていくようだって? よかったわね。これで私のへそくりも――いえ、我が家のローンも安心ね。あら。どうしたの? 顔色が急に悪くなったわよ? 何? 腹痛ですって? 緊張じゃないの? でもあなたは、そんなタチじゃないわよね。薬のせい? 効用を見てくれですって。どれどれ。あっ! 確かに体質によりまれに腹痛をもよおすことがあります――ですって。大丈夫あなた? ダメっぽい? 困ったわね。ああ、お腹痛にいい薬があるのよ。はい、これ。どう? 治まった。あっと言う間に痛みが退いたですって? よかった。あら。あなた震えているわよ。どうしたの? 寒気? 急に? まさか――あっ! この薬にも副作用の注意書きがあるわ。特定の薬と併用されますと、悪寒などの副作用を引き起こす恐れがあります――ですって。もう! もっと大きな字で書いて欲しいわよね。こういうのは。あなた大丈夫? 少し横になった方が。あっ、ダメね。我が家のローンがかかっているものね。薬で何とかしましょう。はい、寒気に効く薬よ。あっ、飲んじゃダメ! えっ、遅かった? もう飲んじゃった? ごめんなさい。耳鳴りの副作用があるって、大きな字で書いてあったの。で、どう? 凄い耳鳴りだって? まあ、どうしましょう? 耳鳴りの薬は確か――はい、これ。えっ? もう薬はいいって? 何を言っているの。ローンが払えなかったら、私のへそくりを崩さ――あら、気にしないで。えっ、耳鳴りでよく聞こえなかったですって? それは何よりね。とにかくそんなんじゃ会議に出られないでしょ? はい、飲んで。どう? 頭痛? 今度は頭痛? 頭が割れるように痛い――ですって? どうすんのよ、そんな様で。会議どころじゃないでしょ? 我が家のローンは? 私のへそ――あっ! 頭痛の薬あるわよ。私がよく飲んでいるやつ。何? 私は頭痛持ちだったかって? 毎日家計簿とにらめっこする度に、言い様のない頭痛に襲われるのよね。誰の稼ぎのせいかしら。とにかく、このお薬は効くわよ。私のお墨つき。えっ? もう、薬には頼りたくない。このまま会議にいくって――ですって? ダメよ。薬に頼っててでも万全の体勢で臨まないと。さあ、我が家の家計の為にも、私の頭痛の為にも、何より虎の子のへそ――いえ、とにかくこの薬を飲んで。飲んだ? 頭痛がすっと治まっていく――ですって? そう。それはよかった。あっ? でも一つ言い忘れていたわ。この薬、飲むと私はいつも副作用があるのよね。どう、あなた? 微熱とか感じない?」

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― 新着の感想 ―
[一言] ブラックな『ねずみのよめいり』のような話ですね。新作落語を聞いているようで楽しめました。
[良い点] 最初読みづらいなぁーって思いましたが、途中からそれが面白味に繋がり、嫁の小言の臨場感が味わえて楽しかったです。 [気になる点] ないです。
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