決裂、双龍の挽歌
1397年、秋。洪家村を包む風は、収穫の喜びではなく、鉄錆の匂いを運んできた。
「……やはり、平壌の空気は腐り始めていたか」
チョルスが取り押さえた暗殺者の「官給品の短刀」を見つめ、ハジュンが苦く呟いた。
道允は、その刃を一瞥しただけで、視線を再び門下生たちに向けた。
「先生、戦いますか」
17歳の門下生が、震える手で木刀を握り直す。
「……戦うんじゃない。お前たちが学んだ『自分を守る権利』を行使するんだ」
衝突は、一瞬だった。
山岳地帯特有の霧と泥、そしてサイゾウが教えた「数の無効化」。
官兵五十人は、一度も私学校の門を潜ることなく、転がるように村を去った。
だが、その背中を見つめる道允の瞳に、勝利の光はなかった。あるのは、かつて共に国を興した友への、底知れぬ哀しみだけだった。
平壌城、王宮。
ソジュンの元に、ウンシルによって一枚の書状が届けられた。
臣下たちが「道允が反乱の準備をしている」と騒ぎ立てる中、ソジュンは震える手でその封を切った。
『……お前が命じたとは思っていない。だが、お前が座るその椅子は、もう民の泣き声が聞こえないほど高くなりすぎたようだ』
書状の中に、一本の「針」が落ちていた。
かつて市場でソジュンが買い、道允との絆の証としたあの日の針。
ソジュンはそれを握りしめた。針の先が手のひらに食い込み、鮮血が滴る。
「……道允。お前は、今でも俺を刺しに来てくれるのか」
洪家村。夜。
道允は、かつて義賊の旗を掲げた時と同じ、古びた着物に身を包んだ。
隣にはハジュン。後ろには、かつての戦友たちと、新しき息吹である門下生たちが並んでいる。
「ソジュンと戦うためじゃない。民が民として生きるために、俺たちはもう一度、王宮へ歩く」
道允が前を見据えた。
その先にあるのは、かつて二人で描いた「新しい朝」か、それともどちらかが倒れるまで続く「終わらぬ夜」か。
1397年、秋。
高句麗の遺児たちが作り上げた若き王朝「朝鮮」は、建国わずか五年で、最大の自壊の危機を迎えていた。
北の空に輝く北斗七星が、これから始まる血の雨を予感させるように、冷たく凍てついていた。




