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暁の王朝  作者: 水前寺鯉太郎
暁の王朝

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16/22

右将軍の憂鬱、沈黙の砂粒


 右将軍――。

 その肩書きを帯びてからの日々、洪道允ドユンは常に、体に合わない重い鎧を着せられているような感覚の中にいた。

 平壌城、謁見の間。

 かつて市場で声を張り上げていた道允の口から出るのは、今や「徴収」「配分」「抑止」といった、冷たい無機質な言葉の群れだった。

 正面に座る李昭俊ソジュンは、王冠の重みに耐えるように背筋を伸ばし、かつてないほど「王」として完成されていた。

「道允。民の不満は承知している。だが、国という器を固めるには、今は耐える時期なのだ」

 ソジュンの声は、かつての友に語りかけるものではなく、臣下に下す「宣言」へと変わっていた。

 月が一度巡るたびに、道允は右将軍の地位を捨て、市場の雑踏へと逃げ込んだ。

 そこで出会った老針売り。かつて「お前の針は折れない」と笑ってくれたあの男が、ある日からぷっつりと姿を消した。

(……折れたのは、針じゃなく、あの爺さんの心か)

 空っぽになった露店の場所には、別の商人が入り、冷徹な税吏が歩調を揃えて巡回している。

「五年、か」

 道允は、ソジュンから提示された「五年」という数字を噛み締めた。

 それは王にとっては刹那の整備期間だが、今日を生きる民にとっては、命を削り落とすに十分すぎる残酷な年月だ。

 夜、軍師ハジュンの部屋を訪ねた道允の目は、かつて戦場で見せた鋭さを失い、迷い子のようになっていた。

「兄貴。……ソジュンは間違っていない。だが、正しさが人を殺すこともあるんだな」

「道允。革命は一瞬だが、統治は永遠に続く戦いだ。ソジュンは今、歴史という名の敵と戦っている。お前はその背中を支えるのか、それとも……」

 ハジュンの問いは、夜風よりも冷たく道允の胸に突き刺さった。

 1394年、秋。

 ようやく収穫の時期を迎え、少しだけ明るい兆しが見え始めた頃。

 王宮の会議で、ソジュンが静かに、しかし断固とした口調で告げた。

「――遼東りょうとうへ遠征軍を出す。この国の威信を、天下に示す時だ」

 広間に衝撃が走った。

 道允は、自分の耳を疑った。

 民の腹がまだ満たされていない今、さらなる戦を、さらなる税を強いるというのか。

 道允は顔を上げた。

 その視線の先にいるのは、かつて共に笑った油売りではない。

 「国家」という名の怪物に取り憑かれ始めた、一人の孤独な支配者の姿だった。

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