二人の邂逅、双龍の盟約
1374年、春。平壌、チャン夫婦の酒場。
暖簾を揺らしたのは、春の夜風だけではなかった。
李昭俊が店に入った瞬間、喧騒が止まった。かつての市場の油売りは、今や南の山々を焦がす冷徹な革命家の眼差しを宿していた。
「……油売りが、平壌まで何の用だ。ここは油より酒の方が旨いぞ」
道允は杯を置かず、不敵な笑みを浮かべた。
「針売りの酒は毒が多そうだからな。薄めるために南の油を持ってきた」
ソジュンが静かに笑う。六年。空白の時間は、互いの背負った「業」の深さを確かめる一瞬の沈黙で埋め尽くされた。
酒場の中は、高句麗を震撼させる怪動たちの巣窟と化した。
岩のようなチョルスが、トシゾウの腰の太刀を鋭く睨む。トシゾウは無言で酒を煽り、指先でわずかに鯉口を切って「いつでも相手になる」と伝えた。
一方、軍師ハジュンは、サイゾウが差し出した智異山の戦域図に目を落とした。
「……地形を罠に変えたか。美しいが、非情な策だ」
「勝機を拾うには、情を捨てるのが最短ですので」
サイゾウの淡々とした答えに、ハジュンは「沈」姓の若き医者、承浩を見やって目を細めた。
(……沈か。この男の目、どこか俺の親族に似ているな)
夜更け、二人の英雄は平壌の夜風に吹かれていた。
「ソジュン。俺は針売りだ。曲がったことは縫い合わせ、腐った肉は切り落とす。だが、その後にどんな服を仕立てるかは分からねえ」
道允は、自分の荒れた拳を見つめた。
「お前は、この国の先に何を描く」
「……王宮を、民の家にする。重税のない、子供が飢えない、言葉が武器にならない国だ」
ソジュンの言葉は静かだが、鋼のような質量があった。
「俺が王座に座るのは、その座を解体するためだ。道允、お前の体が必要だ。俺の理想には、血が、力が足りない」
「いいぜ。お前が民を忘れない限り、俺の拳はお前の盾になってやる」
道允が差し出した拳に、ソジュンが静かに手を重ねた。
「約束する。もし俺が道を誤れば――その時は、お前の針で俺を殺せ」
その握手は、古い高句麗の終焉を告げる弔鐘であり、新しい時代の産声であった。
酒場から漏れる歌声と笑い声。だが、二人の見据える先には、これから始まる「怪物」呂卓との、文字通り血で血を洗う最終決戦が待ち受けていた。




