幕間:鋼の獣、あるいは《加速》の代償
教国へと続く荒涼とした大地を航行するガンドック号の艦橋に、警告音が鳴り響いた。
だが、その音を聞いた瞬間のバルガスやシエラの反応は、驚きよりもむしろ、吐き捨てるような忌々しさに満ちていた。
「全周レーダーに反応。……識別、スカベンジャー・レイス。数は『群れ』の規模。……最悪ね。あいつら、この辺り一帯を自分たちの『餌場』に決めたみたいよ」
シエラが不機嫌そうにモニターを睨みつける。
スカベンジャー・レイス。数千年前の超古代文明が遺した自律型警備兵器の成れの果てだ。主を失い、命令系統が狂い果てたそれらは、もはや「鋼の獣」でしかない。自己増殖と自己改造を繰り返し、生命のマナを感知すれば無差別に喰らい尽くす、この世界の「掃除屋」として広く知られている。
「またあの鉄クズ共かよ! ったく、このルートは安全だと思ってたんだがな」
バルガスが豪快に、けれど慎重に操舵輪を握り締める。
「ロキ! 対スカベンジャー用のジャミング弾を装填しろ! カイ、カグツチを出せ! 既知の相手だ、弱点は分かってるな!?」
「了解! ……関節の接合部、そしてマナの吸入孔。……リト、修行の成果を試すには、これ以上ない相手だね」
『ええ。非効率な旧時代の遺物なんて、今の私たちの「熱」で焼き払ってあげましょう』
カイが K-Link を接続し、カグツチがカタパルトから射出される。
空中で姿勢を制御し、着地と同時に右脚の K-Link で衝撃を吸収。ギリアスとの修行で培った「重力との対話」が、一分の狂いもない着地を実現させていた。
ガァァァァァァァンッ!!
着地と同時に、カグツチは右腕の重りを巨大な「鞭」として振り回した。
スカベンジャー相手には、魔法の熱線よりも物理的な質量攻撃の方が有効であることは周知の事実だ。奴らの装甲は、物理的な衝撃に対しては驚くほど脆い。
「リト、左旋回全振り! 重心を右腕に乗せる!」
『了解。……あなたの身体と、機体の慣性を同期させるわ。振り回されなさい、カイ!』
カグツチが独楽のように回転する。
数トンの質量を持つ「動かない右腕」が、超高速の遠心力を伴う破壊の鉄球へと変貌した。
ガンドック号に張り付こうとしていた蜘蛛型のレイス三機が、その一撃を受けて紙屑のように拉げ、荒野の彼方へと吹き飛ばされる。
「……ふん。……あー、ようやく『理屈』が体に染みてきたようだな」
艦橋でモニターを見守るギリアスが、僅かに口端を歪めた。
カイは止まらない。
空を覆う翼型のレイスが放つ弾幕を、K-Link を通じた超常的な直感で回避し、最短距離で懐へと潜り込む。
「もっとだ……もっと速く!!」
カイは漆黒の太刀を逆手に構え、振り回される右腕の接合部へあえて刃を接触させた。
ギィィィィィン!! という摩擦音と共に、作動オイルが爆発的な燃焼を起こす。
より研ぎ澄まされた「紅蓮のレガリア」が闇を切り裂いた。
ゴォォォォォォォォッ!!
一閃。
スカベンジャーの群れが、紅蓮の熱波によって一気に蒸発していく。
『カイの「神童の眼」が、スカベンジャーの行動パターンの数秒先を捉えているわ。……ロキ、あなたが調整した K-Link のフィードバック、期待以上の効果ね』
リトの声には熱が宿っていた。
だが、整備区画でモニターを監視していたロキの表情は晴れない。彼は、カイの動きが「速すぎる」ことに、言いようのない戦慄を覚えていた。
「……リト、これ以上はまずい。カイの神経系がカグツチの演算速度に追いつきすぎてる。……あいつ、自分が『人間』であることを忘れて戦ってやがるぞ」
ロキの危惧を余所に、カグツチは最後のレイスを粉砕し、ガンドック号のデッキへと着艦する。
「掃除完了。……シエラさん、急ごう。奴らの増援が来る前に」
ガンドック号が加速し、その宙域を脱する。
だが数刻後、静寂を取り戻した戦場に、帝国の正規軍が誇る重厚な駆動音が響き渡った。
「……掃討完了から数分か。残された痕跡は……物理摩擦、および遠心力による破壊。……ふん、野犬の群れがレガリアの『右腕』を拾ったという報告は、真実だったようだな」
残骸を見下ろし、冷酷な笑みを浮かべたのは、帝国第二騎士団分隊長、ゼノスだった。
彼はモニターに表示されたカグツチの戦闘ログを凝視し、かつてバベルの泥の中で見逃した「欠陥品の少年」の姿を思い描く。
「逃がさぬぞ、カイ。……貴様のその偽りの翼、今度こそこの私が、根元からへし折ってやる」
ゼノスの瞳に、歪んだ執着の火が灯った。
ゼノスさん覚えてない人は第一幕へ




