表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/113

第四幕:プロローグ「双極」

ここから一旦ガンドックを離れてユーゴーが主役です。

本来の主役達は幕間でのんびりと旅を続けます。

引続きよろしくお願いしますm(_ _)m

神聖アルカディア帝国。

 超古代文明の遺構を基盤とし、魔導工学の粋を集めて築き上げられたその版図は、今や大陸の半分を飲み込もうとしていた。

 この国において、文明の血筋とは「マナ」そのものである。マナの多寡が、そのまま社会的な地位を規定し、その者の価値を決定づける。

 帝都アルカディアの深部には、国家の基幹システムである超大型魔導演算回路が鎮座している。

 政治の最適解から、物資の流通、果ては国民一人ひとりの適正に至るまで、あらゆる事象は演算によって管理されていた。それは一見すれば理想的な秩序だが、その実態は「予定調和」という名の冷たい檻だ。

 効率化こそが正義であり、演算が導き出した答えに異を唱える者は、社会の歯車から外れた「不確定要素」として切り捨てられる。

 その徹底した管理思想は、軍事の現場において最も顕著に現れていた。

 帝国の主力機アイアン・グレイに搭載された自律演算型術式チップ。それは、パイロットが思考するよりも速く、魔導障壁の展開や最適な攻撃軌道を選択し、自動的に戦闘を遂行する。

 戦場はもはや個人の「武」を競う場ではなく、演算の精度と物量をぶつけ合う、無機質な処理プロセスへと成り下がっていた。

 そんな帝国の北東部、凍てつく風が吹き荒れるシュバルツ辺境伯領。

 中央の華やかな「演算社会」の恩恵を拒絶するかのように、白銀の魔導鎧ギアが雪原を蹂躙していた。

 シュバルツ家直属、白銀騎士団。

 その指揮官であるユーゴー・フォン・シュバルツは、コックピットの中で静かに神経を研ぎ澄ませていた。

 彼の身体には、帝国の高位貴族としても規格外の、巨大なマナが内蔵されている。しかし、彼はその力を、帝国の技官たちが推奨する「術式の高出力化」には一切回さない。

「……マナの供給を、筋肉組織および神経回路に固定」

 ユーゴーが行っているのは、膨大なマナを自らの肉体強化へと変換し、神経の伝達速度を限界まで引き上げること――。

 彼は演算チップによる自動操縦を好まない。むしろ、すべての演算リンクをオフにし、自らの感覚のみで鋼鉄の巨躯を操る。

 四歳のあの日、黒城くろき勇吾としての記憶を呼び覚ましてから十二年。彼が積み上げてきたのは、魔導の研鑽ではなく、魂を磨き上げ、肉体という「物理」で世界を捉えるための過酷な自己研鑽だった。

 帝国の騎士たちが機械の補正に身を委ね、自らを「部品」へと貶める中、ユーゴーはあえて「個」の武を突き詰め、自らの手で障壁を砕き、自らの足で大地を震わせる。

 その姿は、魔導演算を絶対視する帝国の中央から見れば、制御不能な「異端」であり、同時に畏怖の対象でもあった。

「ユーゴー様、また演算リンクを遮断されましたね。帝都の監察官たちが、貴方の戦い方は『非効率で野蛮だ』と報告を上げておりますわ」

 モニターの端、皇室から遣わされた通信官の冷ややかな声が響く。

 だが、ユーゴーはその忠告を一顧だにせず、機体を加速させた。

 彼が守っているのは帝国の法ではない。ただ一つ、かつて自分の手で壊してしまった「最高の親友」への、果たされることのなかった約束だけだ。

 そんな中、ユーゴーの元に一つの戦果報告が届く。

 バベルの裾野。戦災の吹き溜まりと呼ばれる無法地帯で、帝国の分遣隊を単機で壊滅させた機体の記録。

「……《カグツチ》」

 マナを吸収し、ただ質量と速度という「物理」だけで帝国の理を粉砕したという、深紅の機体。

 帝都の演算回路は、それを「解析不能なイレギュラー」として警戒し、各方面へ排除命令を出している。

 ユーゴーは、その報告映像に残された、無骨な、それでいて研ぎ澄まされた戦い方を目にし、言い知れぬ高揚を覚えた。

 マナという偽りの万能を否定し、純粋な破壊力を叩きつけるその挙動。

 それが、かつて自分が一生をかけて追いかけ、届かなかった「あの少年の背中」を彷彿とさせることに、彼はまだ気づいていない。

(……面白い。マナを否定するその赤、俺の『重さ』が通じるかどうか、確かめさせてもらうぞ)

 純白の雪煙を巻き上げ、白銀の機体は黄金の陽光を背に受けて進む。

 

 帝国は演算によって未来を定め、世界を均一な灰白色に変えようとしている。

 しかし、その支配の網の目から零れ落ちた二つの魂が、今、それぞれの「物理」を掲げて、引き寄せられるように動き出していた。

 第四幕。

 それは、物語の双極。1人の英雄の「剣」によって紡がれるもう一つの物語。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ