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第27章:完璧な案内人、あるいは死神の欠伸


 酒場の床で「女神様ぁ、もう一杯……」と寝言を言っているギリアスを跨ぎ、一行はカウンターのマスターに詰め寄っていた。

「マスター。悪いが冗談抜きで、この森の『まともな』案内人を紹介してくれ。……さっきの死神の噂も気になるが、俺たちには時間がねえんだ」

 バルガスが焦れたように言う。

「……まともな、か。だったら話は早い。ちょうど今、仕事から戻ってきたところだ」

 マスターが入り口を指差す。

 そこには、ギリアスとは対照的な、非の打ち所のない「プロ」の佇まいをした男が立っていた。

「――お呼びでしょうか」

 男の名は、マルク。

 整えられた短い金髪に、清潔感のある深い緑の狩猟服。背負っている魔導長弓マナ・ボウは手入れが行き届き、鋭い光を放っている。

 彼は3年前にこの街に流れ着いて以来、誠実な人柄と確かな狩りの腕で、モスサイドの住人から絶大な信頼を得ている「一番の腕利き」だった。

「初めまして。ハンターのマルクです。……皆さんの船、ガンドック号ですね。北嶺から来られたとか。……あの難所を越えてきた方々を案内できるなら、光栄です」

 マルクは穏やかな微笑みを浮かべ、シエラに丁寧に一礼した。その仕草には気品があり、ギリアスに足元を這いずり回られたシエラにとっては、まさに「救いの手」に見えた。

「……話が早くて助かるわ。私たちは森の深部、この座標にある古代遺跡へ行きたいの」

 シエラが提示したデータに、マルクは一瞬だけ目を細めたが、すぐに快諾した。

「そこは確かに『死神』の噂が絶えない危険な場所です。ですが、私の知る獣道を通れば、帝国軍の監視を避けて安全に到達できるでしょう」

 ロキも、マルクが腰に下げている最新鋭の整備道具を見て、感心したように頷く。

「へえ、いい道具使ってるな。……あっちのゴミ溜め(ギリアス)とは大違いだ」

 一行は即座にマルクと契約を交わし、翌朝の出発を決定した。

 

 ◇

 ガンドック号がモスサイドを出発する直前。

 カイはふと、酒場からフラフラと出てきたギリアスと目が合った。

 ギリアスは壁に寄りかかり、昼間からシケた葉巻を吹かしながら、こちらを眺めている。

「……あんた、本気か? 坊主」

 ギリアスが気怠げに尋ねる。

「え?」

「あの『お利口さん』について行くのかって聞いてんだよ。……あいつの靴、見てみな。森のハンターにしては、汚れ方が『不自然に綺麗』だぜ」

「……何が言いたいんですか?」

「いやぁ……。あー、めんどくせ。……いいよ、好きにしな。……ただ、これだけは覚えとけ。……森で一番怖いのは、死神じゃねえ。……『自分を導いてくれる光』だ」

 ギリアスはそれ以上何も言わず、また欠伸をして酒場の中へと消えていった。

「カイ! 出発するぞ!」

 バルガスの声に呼ばれ、カイは首を振ってガンドック号へ乗り込んだ。

「……考えすぎだよね」

 

 ガンドック号のブリッジ。マルクはバルガスの隣に座り、流れるような手つきで森の航路を指示していく。

「……次の分岐を左です。そこなら、帝国のセンサーも届きません」

「頼りになるぜ、マルク!」

 誰も気づいていない。

 マルクが、自身の襟元に隠された超小型の通信機を、指先で三回、リズムを刻むように叩いたことに。

 ――ガガッ。

 その信号は、森の上空に潜むベルティナの偵察艦へと直通していた。

(――ターゲットを、予定通りの殺戮圏キルゾーンへ誘導中。……掃除の準備を)

 マルクの瞳から、先ほどまでの「誠実なハンター」の温かみが一瞬で消え、諜報員としての冷徹な色に塗り替わる。

 

 ガンドック号は、緑の迷宮の奥深くへ、自ら罠の中へと突き進んでいく。

 

 一方、モスサイドの酒場。

 ギリアスは、ツケを払えと怒鳴るマスターを無視して、窓の外をぼんやりと眺めていた。

「……あーあ。……あんなお高い酒を積んでる船が沈むのは、もったいねえなあ」

 彼は壁に立てかけてあった、ボロ布に包まれた「長細い鉄の塊」を、初めて愛おしそうに撫でた。

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