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第26章:亡霊の網、あるいは冷徹なる解析

シルヴァン樹海の上空、高度八千メートル。

 雲海に紛れるようにして、帝国の隠密偵察艦『アイ・イン・ザ・スカイ』が静かに滞空していた。

 その艦内、窓一つない冷徹なブリーフィングルームでは、数時間前に全滅した第4機甲中隊の「末路」が、ホログラム映像で繰り返し再生されていた。

「――マナ反応、皆無。熱源感知、皆無。音響センサーによる弾道逆探知も、着弾後の衝撃波によって無効化されています」

 報告を行うオペレーターの声には、隠しきれない困惑が混じっていた。

 映像の中では、堅牢なアイアン・グレイの頭部が、まるで目に見えない巨人の指先で弾かれたように物理的に粉砕されている。

「……魔法ではない。ただの鉛の塊による、超長距離狙撃ね」

 部屋の奥、長い脚を組んでモニターを眺めていた女が、冷淡に口を開いた。

 帝国の諜報部隊『幻影スペクター』を率いる指揮官、ベルティナ少佐だ。

 彼女は、最新鋭の魔導義眼デバイスが埋め込まれた左目で、拡大された弾丸の破片を見つめていた。

「この時代に火薬と鉛を使う狂人は、世界に数人もいない。……まして、三千メートル先の移動目標を、補助演算なしで撃ち抜く化け物となれば、一人しか心当たりがないわ」

「では、やはり例の……『灰の狙撃手』だと?」

 部下の士官が、恐る恐る尋ねる。

「三年前、我が国の国境守備隊を単騎で足止めした、正体不明の傭兵。……生存者の証言によれば、彼は『あくびをしながら、一度もリロードせずに小隊を沈めた』そうよ」

 ベルティナは立ち上がり、空中に入力パネルを展開した。

「だが、どれほど凄腕のスナイパーでも、弾丸を飛ばすのは『物理』の法則。ならば、その法則の外側から攻めるのが我々のやり方よ」

 画面に、複数の新しい機体データが表示される。

 アイアン・グレイのような重装甲ではない。極限まで贅肉を削ぎ落とし、カマキリのような鎌状の腕部と、六本の多脚を備えた漆黒の機体――隠密特化型ギア**『スペクター・ボーン』**。

「光学迷彩は当然として、今回の標的は『勘』で撃ってくる。……ならば、こちらも『幽霊』になりきりましょう。大気中のマナを操作し、熱、音、そして空間の屈折を完全に掌握する。……物理の目では、我々を捉えることはできない」

 ベルティナの瞳が、冷酷な光を放つ。

「それから……ちょうどいい『餌』が森に入ったようね」

 モニターの隅に、モスサイドの駐機スペースに鎮座するガンドック号の衛星写真が映し出された。

「『カグツチ』……。北嶺でウラジミール卿を退けたという、例の赤いガラクタね。……彼らに死神の注意を引きつけさせなさい。死神が引き金を引いた瞬間、その硝煙の匂いを辿って、私たちが後ろから首を刈る」

 諜報部隊『幻影スペクター』。

 彼らは、騎士道などという飾りは持ち合わせていない。

 目的のためなら、少年たちの希望も、隠遁者の安眠も、すべて冷徹に踏みにじる。

 ◇

 その頃、酒場『古木のうろ』。

 カイたちは、床でヨダレを垂らして寝ているギリアスの横で、これからの作戦を練っていた。

「……ねえカイ、さっきからリトの様子が変よ」

 ロキが声を潜めて言った。

 カイが隣を見ると、実体化したリトが、窓の外の深い森をじっと見つめたまま、小刻みに震えていた。

「リト? どうしたの?」

『……分からない。でも……何かが、増えている。……森の中に、呼吸をしない、冷たい幽霊のようなマナが……たくさん』

 リトの直感は、正しかった。

 モスサイドを囲む深い緑の影に、音もなく、光もなく、帝国の「亡霊」たちが這い寄り始めていた。

 彼らが手にするのは、魔法障壁を無力化する電子の刃と、標的を内部から焼き切る魔導毒素。

 酒場で呑んだくれる「死神ギリアス」と、それを知らない「最速の少年カイ」。

 そして、そのすべてを罠に嵌めようとする「亡霊の指揮官ベルティナ」。

 湿気混じりの夜が、静かにモスサイドを飲み込もうとしていた。

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