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【超超短編小説】ホルモン

掲載日:2025/12/26

 俺はいまバスターミナルの巨大な待合室の隅に立っている。

 バスターミナルは鉄道のプラットフォームより旅情ってのが濃い。

 北へ南へ、東へ西へ人々は流れる。

 ここにいる多くの人々には明確な目的があって夜行バスに乗る。

 でもそれが楽しい目的だけとは限らない事は分かる。その明確な理由や動機は彼らの荷物に反映されている。


 俺の目の前にある巨大なスーツケースは自分の物では無い。

 それは恋人のスーツケースであり、当の恋人は「トイレに行ってくる」と言ってここを去ってからそろそろ15分ほどになる。

 微妙な時間だ。

 女子トイレは混雑するものと言う事を考えればそんなものかと思うけれど、それにしても長い気がする。

 俺は放られたのだろうか?

 果たして彼女は戻ってくるだろうか?

 放るモンだからホルモン、と言うがそれならば俺はなんだと言うのだ。

 ひとが行き交うバスターミナルの隅でじっと考えてみたが何も分からない。




 腕時計を見る。

 20分が経とうとしている。

 目的があったはずの恋人に放られた俺は完全に目的を失い、そうしてここで待つと言う別の目的を得た事になるが、果たして俺はここで待ち続けるべきなのだろうか。

 スーツケースがガタガタと動く。

 俺は手でそっと抑える。

 まだ早い、もう少し待って欲しい。


 

 恋人が手にビニール袋を下げて戻ってきた。

 俺は放られたわけじゃなかった。

「遅かったじゃないか」

 安心は声になる。

「なかなか出てこなかったんだもの」

 彼女の声は軽やかに弾む。


「じゃあ、もう大丈夫だね」

 透明なビニールの中で赤い心臓がぴくりと動いている。

 俺はスーツケースを少し開いて、その中に心臓を押し込んだ。

 スーツケースはがたりと動いた。

 彼女は安心したように笑う。

「じゃあ、行こうか」

 彼女の手を取ってバスに乗り込む。


 車窓から見える朝焼けの街はとても綺麗で、肩にもたれた彼女は「綺麗に咲くかな」と少し心配そうな声で訊いた。

 俺たちは何なのだろう?

 夢は夜ひらかなかった。

 花は今から咲くんだ。

 俺たちは、なんなのだろう。


 どかん

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