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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第九十一話『暴かれる箱庭、恩人が遺した真実の断片』

 賢者の塔の地下、かつて「律動制御炉」があった場所からさらに奥。崩落した瓦礫に埋もれた隠し階段を、一行はリーナの放つ碧い光を頼りに降りていった。


「……ここだわ。以前、案内された場所のさらに下。ここから、あの人の律動が聞こえる」

 リーナの言葉に、ゼノスが怪訝そうに耳を動かした。


「じいさんは、最期に俺たちの脱出路を確保して消えたはずだ。これ以上、何が残っているっていうんだ」

 辿り着いたのは、埃にまみれた小さな書斎のような一角だった。中央の石机の上には、リーナが持つものと同じ形状をした、だが今は透明に透き通った『律動の心珠』の抜け殻が、ぽつんと置かれていた。

 リーナが導かれるようにその抜け殻に触れた瞬間、彼女が肌身離さず持っていた心珠が激しく共鳴した。 まばゆい光が溢れ出し、書斎を昼間のような輝きで満たしていく。そして、石机の向こう側に、透き通るような姿の老人が現れた。


『――よくぞ戻ったな、お前達。』


「じいさん……!」

 リオスが掠れた声で呼ぶ。それは、自らを犠牲にして一行を逃がした恩人、アルキデウスの残響だった。


『驚くことはない。わしはあの時、自らの律動の欠片をリーナの心珠へと移しておいたのだ。力を持たぬ、ただ「観る」ためだけの眼としてな。……そうしてわしは、お前達の過酷な旅路をずっと見守ってきた。』

 幻影のアルキデウスは、スープを振る舞ったあの時のように、穏やかな眼差しを向けた。


『リオス、お前の右腕の痛みは、どれほどか。リーナ、仲間の身を案じるゆえの迷い、責める必要はない。ゼノス、実の父を前にしてなお、己を律しようとしたその意志、しかと見届けたぞ。』

「……全部、見てたのかよ。本当にお節介なじいさんだな」

 リオスが不敵に笑うが、その瞳には熱いものが込み上げていた。アルキデウスは深く頷き、傍らにある古い端末へと視線を移した。


『わしはお前達に、さらなる力を与えることはできぬ。……だが、教えよう。お前達が「聖域」で敗れた理由は、力の不足ではない。この世界の成り立ちを知らぬまま、かつての庭師の冷徹な理に調和を求めすぎたためだ。』

「世界の、成り立ち……?」

 エリアスが吸い寄せられるように端末の前に立ち、アルキデウスが示したログを解析し始めた。やがて、彼の顔から血の気が引いていく。


「信じられません……。古代エルフの伝承に由来すると信じていた我々の世界『アヴェリア』という名は……星渡りの庭師が残した識別コード、『A-V-E-L-I-A(Activa Variabilis Energia-Limes Integrata Area)』……その音をなぞった便宜的な呼称に過ぎなかった。私たちの世界は、神の箱庭ですらなく、ただの番号のついた統合管理領域だったというのか……!」

 エリアスの震える声が響く中、アルキデウスはさらに残酷な真実を告げた。


『それだけではない。空に浮かぶあの月……あれは本来、律動化に伴う莫大な余剰エントロピーを宇宙へ逃がすための「放熱衛星ラジエーター」であった。数千年前、わしらエルフが真律によって停滞を招いた結果、排熱が限界を超えて月を砕いた。……熱の逃げ場を失った星の内部に溜まった熱の澱み、それが「虚ろ」の正体なのだ。』

 絶望的な事実。自分たちが救おうとしていた世界そのものが、巨大なシステムの断片に過ぎなかった。


『だが、絶望するには及ぬ。庭師の理は、完璧な機械の噛み合わせ。だが、お前達は人間だ。恐怖も、迷いも、憎しみもある。……それらを排除して完璧になる必要はない。迷いながら、それでも繋いだ手。……それこそが、エルフ(わしら)が最後まで辿り着けず、お前達に託した「不完全な希望」の正体なのだ。』

 アルキデウスが透明な手をかざすと、珠から三つの光の粒子が放たれ、三人の胸元へ吸い込まれた。


『これは、わしの記憶にある「ウィスパーウッドの風」。お前達が失った故郷の、最も穏やかだった時の律動だ。これを「共鳴の種火」とし、自分たちの内側にある嵐を鎮めるが良い。』

 リオスの右腕の痛みが引いていく。リーナの自責も、ゼノスの焦燥も、春の陽光のような温かさに溶けていった。


『ゼフィアンが手にした「反律動」は、設計図を破り捨てる刃。……だが、お前達の奏でる「絆の和音」は、設計図を新しく書き直すペンとなる。……信じているぞ、若き旅人たちよ。』

 アルキデウスの姿が薄れていく。最後に彼は、孫を見守るような優しい笑顔を浮かべた。


『……お前達に出会えて、わしは救われたのだ。……さらばだ。』

 光が消え、書斎に再び冷たい闇が戻った。だが、三人の瞳には、先ほどまでの絶望はなかった。


「……行くぞ。じいさんに、格好悪い姿は見せられねぇからな」

 リオスが剣の柄を握りしめた、その時。塔の地上階が激震し、耳を劈くような高笑いが地下まで響き渡った。


「――あはっ! 見つけたぁ! 隠れんぼはもう終わりだよ、壊れかけのネズミさんたち!」


 リリィ。闇の盟約者の幹部が、再起を阻むべく、すぐそこまで迫っていた。

卓上の語り部でございます。

第九十一話『暴かれる箱庭、恩人が遺した真実の断片』をお届けいたしました。


物語はついに、世界そのものの正体という衝撃的な真実へと触れました。「アヴェリア」という名が単なる管理番号であり、月が巨大な放熱板であったという事実は、彼らの存在意義を根本から問い直すものです。しかし、亡き恩人アルキデウスが遺した「不完全な希望」という言葉が、システムの一部であることを拒み、一人の人間として立ち上がる勇気を与えました。


託された「共鳴の種火」を胸に、彼らは再び立ち上がります。しかし、最悪の遊び相手・リリィがすぐそこまで迫っています。絶望を越えた先に、どのような「和音」が奏でられるのか。


物語はいよいよ、真のクライマックスに向けた戦いへと突入します。どうぞ、引き続き彼らの旅路を応援してください。


P.S. 本作の世界観設定や用語解説などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて随時更新しております。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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