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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第八十六話『黄金の鼓動、未来を懸けた試練』

 一歩、森の深奥へ踏み込むごとに、物理法則そのものが書き換えられていくような錯覚に陥った。 巨木の間から差し込む陽光は、もはや単なる「光」ではない。目に見えるほどの密度を持った律動の粒子――「星の原血」とも呼ぶべきエネルギーの奔流が、黄金の霧となって空間を満たしている。


「……素晴らしい。植物学的な常識が、ここでは塵に等しい。見てください、あの木の葉の輝き。大気から直接、エネルギーを吸い上げているかのようだ……」

 エリアスが震える手で観測機を掲げるが、高負荷に耐えかねた針は激しく震え、やがてカチリと音を立てて止まった。学問の尺度では測りきれない領域に、彼らは足を踏み入れていた。


 最後尾を歩くゼノスの足元には、かつてないほど濃い「影」が、地面へ鋭く刻み込まれていた。 大樹から溢れる純粋な光に照らされ、周囲の律動に侵食させないための絶対的な「境界」として、その輪郭はナイフの刃のように研ぎ澄まされている。 彼は無意識に、胸元の銀のペンダントに触れた。婆様――セリスの形見が、この高圧的な空気の中で微かな冷涼さを保ち、彼の抑制者としての感覚をより鮮明に、より確かに繋ぎ止めていた。


「……光が強すぎて、影が嫌に静かだ。まるで、あるじの帰りを待っているみたいだな」

 ゼノスが低く呟いた言葉には、単なる警戒を超えた、自身の血筋に刻まれた本能的な畏怖が混じっていた。

 やがて一行の視界が開け、世界の終わりと始まりが交差する「その場所」へと辿り着いた。

 そこに聳え立つのは、天を突き、星を支えるほどに巨大な『聖域の大樹』。 だが、近づくにつれ、それが単なる「木」ではないことが露わになっていく。半透明な樹皮の下を血管のように走る黄金の光。規則正しく明滅する幹の表面。それは、まるで惑星全体の鼓動を制御するために設計された、巨大な生体装置のようにも見えた。


「……あ……」

 リーナが胸元を押さえて立ち止まった。 彼女の持つ『律動の心珠』が、大樹の鼓動と完全に同期し、碧い光を激しく明滅させている。


「聞こえる……。この大樹は、私たちが生まれるずっと前から、誰かがこの星を守るために置いていった……星の心臓なのね」

 その言葉に応じるように、大樹の根元から眩い光の粒子が集束し始めた。 光は中空で人の形を構成し、透き通るような肌と黄金の瞳を持つ、神秘的な女性の幻影が姿を現した。


『――来訪者を確認。「律動の心珠アクセスキー」の所持を承認します。』

 重なり合った無数の声が、直接脳内に響く。幻影の瞳が、静かに一行を、そしてリオスの右腕を見据えた。


『警告。個体名:リオス。その身に宿るは、高負荷排熱処理の不全……「致命的なシステムエラー」の塊です。』

「……システム? エラーだと? おい、何を言ってやがる!」

 リオスが結晶化した右腕を抱え、困惑の声を上げる。エリアスもまた、聞いたこともない単語の羅列に眉をひそめたが、その断片的な意味を必死に繋ぎ合わせようとしていた。


「もしや……その『エラー』とは、私たちが『原初の虚ろ』と呼んでいる災厄のことですか?」

 エリアスの問いに、幻影は淡々と頷いた。


『肯定。汝らが災厄と呼ぶ現象は、この星の循環における排熱不全の結果に過ぎません。……このままでは、大樹が貴方の存在を「ウイルス」と見なし、周辺領域ごと、律動の初期化リセットを開始します。』

「リセットだと……。浄化どころか、この場所を全て無に還すということか」

 ゼノスが短剣を握りしめ、幻影を睨み据えた。


『初期化を上書きするには「庭師の権能」を一部代行する資格が必要。かつてこの不毛な岩塊を耕し、律動の種を蒔いた「星渡りの庭師」……。彼らが去った後、遺された「庭」を導く者が汝らであるかを判定します。』

「おい、ちょっと待て。」

 ゼノスが低く鋭い声で幻影を制した。短剣を構えたまま、彼はその黄金の瞳を睨み据える。


「さっきから訳の分からん言葉を並べやがって……。『星渡りの庭師』だと? それは何者だ。エルフの神様か何かのことか?」

『「庭師」は神ではありません。星々を渡り、生命を育む環境を設計する者。汝らがエルフと呼ぶ種族も、この庭を管理するために彼らが設計した端末に過ぎません。』

「エルフたちが……設計された端末だというのか?」

 傍らで聞いていたヴァラが、絶句して自身の曲刀を見つめた。 我らゲイル・テトラは、エルフがもたらした「真律」の停滞を克服しようと、数世代にわたり彼らの技術を独自に解析し、研鑽を積んできた。誇り高き先住民として、いつかエルフの叡智を超え、この星の律動をあるべき姿に戻すことこそが一族の悲願だったのだ。 しかし、その目標であったエルフさえも、より巨大なシステムの一部でしかなかった。その源流が、単なる「星の設計図」であったという事実に、彼女の風が驚愕に震える。


 ゼノスは唇を噛み締め、思考を巡らせた。

(……そういうことか。親父が求めていたのは、エルフの知識じゃない。エルフの『真律』は所詮、世界の『維持管理』。だから災厄を鎮めることはできても、消し去ることはできなかった。……だが『庭師』の権能があれば、世界そのものを書き換え、エラーとやらを根本から削除できる。親父は、神を演じるつもりか)


 父ゼフィアンは、この星の「真の主」の力を奪うことで、力尽くで世界の歪みを正そうとしている。


『適正検査を開始。導き手、抑制者、そして器。三つの律動が一つとなり、エラーの圧力を受け流せるか……その証明をここに。』

 幻影が手を掲げると、大樹の根元から三つの光の残像が分離し、古代の騎士の形を成して一行に襲いかかった。 三人がそれぞれの役割を果たし、完璧に調和できるかを問う、苛烈な「同期試験」の幕開けだった。


「……意味は全部は分からねぇが、俺たちを認めさせるしかねぇみたいだな。リーナ、ゼノス。……俺を信じてくれ!」

 リオスが『星喰の剣』を掲げる。 右目の燐光が黄金の光と激しく衝突し、アヴェリアの未来を懸けた試練が、今、幕を開けた。

卓上の語り部でございます。

第八十六話『黄金の鼓動、未来を懸けた試練』をお届けいたしました。


物語の舞台は、ついにエルフの伝承すらも過去にする、世界の根源的な領域へと足を踏み入れました。聖域の大樹で待ち構えていたのは、かつてこの星を造り替えた創造主「星渡りの庭師」が残した、惑星管理システムの声でした。


現代を生きるリオスたちにとって、その言葉はあまりに異質で、世界の形を根底から揺るがすものです。自分たちが「災厄」と呼んでいたものの正体がシステムの不具合であり、崇拝の対象であった古代エルフさえも設計された存在であったという真実。その衝撃の中で、彼らは「世界をリセットさせない」ための過酷な適正検査に挑むことになります。


ゼフィアンが追い求めた、世界を再定義する強大すぎる力。その入り口に立ったリオスたちの前に、かつての管理者の影が立ちはだかります。


次回、個人の力を超えた「三位一体の絆」が試される戦いが始まります。三人はこの巨大なシステムを認めさせ、新たな時代を切り拓くことができるのか。どうぞご期待ください。


P.S. 本作の世界観設定や用語解説などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて随時更新しております。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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