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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第八十五話『共鳴する道、跳躍する風』

 断絶の山脈を後にした一行は、ふもとに広がるレムリア平原の赤茶けた大地を見下ろしていた。 エリアスが手帳を広げ、指で地図をなぞりながら、深い溜息をつく。


「……ここから西の『始原の森』まで、最短ルートを突っ切ったとしても、徒歩と馬車では半年……いえ、途中の魔物の分布を考慮すれば、それ以上の月日を要するでしょう。しかし、リオス君の身体の変質を考えれば、私たちにそんな猶予はありません」

 エリアスの沈痛な見通しに、リーナが心配そうにリオスの右腕に手を添えた。 担架から降り、自力で立ち上がったリオスだったが、右半身を覆う黒い結晶は陽光さえも吸い込むように暗く、不気味な熱を発し続けている。


「半年、か……。なら、休んでいる暇はなさそうだな」

 ゼノスが腕を組み、険しい表情で地平線を睨み据える。具体的な解決策などない。だが、ここで立ち止まればリオスが「虚ろ」に呑まれるのを待つだけになる。答えの出ないままの強行軍――それが、彼らが選ばざるを得ない唯一の道だった。


「フン……。お前たちは、まさか馬鹿正直にあの平原を半年も歩いていくつもりか?」

 背後から響いた冷ややかな声に、一同が振り返る。 そこには、監視役として同行するヴァラが、退屈そうに曲刀の柄を弄びながら立っていた。


「ヴァラさん、何か別の手段があるのですか?」

エリアスが食い入るように尋ねると、ヴァラは鼻で笑って応えた。


「我らゲイル・テトラを、ただの隠れ里の住人だと思っていたのか。我らは数千年、この世界の律動が滞る『節』を監視してきた。当然、それらの拠点を迅速に行き来する手段は確保している」

 彼女は背を向け、「ついて来い」と短く告げると、里の入り口から少し離れた、険しい岩壁の裂け目へと歩き出した。


 裂け目の奥にあったのは、一見するとただの古い石造りの小部屋だった。 だが、中央に鎮座する滑らかな銀の円盤をひと目見た瞬間、エリアスの顔色が変わった。


「これは……まさか、禁書に記述のあった……空間を歪曲させる古代のバイパスですか!? 現存し、あまつさえ稼働可能な状態で秘匿されていたとは……」

 エリアスが震える指先で眼鏡を押し上げる。学問上の仮説でしかなかった遺産が、目の前で静かに律動を刻んでいる。


「余計な詮索はするな。……この門は、始原の森、そして天蓋山脈といった律動の源流と繋がっている。本来は一族の機密だが、長老の許しは出ている」

 ヴァラが腕の篭手に刻まれた『導律の印』を中央の台座にかざした。彼女の律動がシステムへと流れ込む。 次の瞬間、石室の壁面に刻まれた紋様が眩いエメラルドグリーンに発光し始めた。床のプレートが静かに回転し、空間そのものが「震え」始める。


「ゼノス、お前たちは中央へ。……本来、これほど長距離の転送は、一族の術者でも精神を削られる。だが、今のリオスを呼んでいるあの『音』があるなら、道は外れないはずだ」


「……フン、随分なサービスだな。監視役さん」

 ゼノスは皮肉を返しつつ、リーナと共にリオスを支えて円陣の中心へと歩む。ゼノスの影の律動が門の回転を安定させ、リーナの心珠が放つ碧い光が、目的地の座標を静かに引き寄せた。


「リオス、しっかり掴まってて!」

「ああ……分かってる」

 リオスの『星喰の剣』が、空間の歪みに反応して激しく脈打つ。 一瞬、視界が真っ白な光に塗りつぶされた。 重力が消え、身体中の細胞が分解されるような奇妙な浮遊感。暴風のような音が耳を打ち、次の瞬間――。


 バフッ、と足元が湿った柔らかな感触に包まれた。 鼻腔を突くのは、赤茶けた土の匂いではない。むせ返るような植物の濃厚な芳香と、古の生命の気配。

 目を開けると、そこには天を覆い尽くすほどの巨木の群れが聳え立っていた。


「……信じられません。本当に、一瞬で『始原の森』の外縁部まで到達してしまいましたよ」

 エリアスが呆然と周囲を見渡す。 つい数分前まで見えていた断絶の山脈は、今や遥か東の地平線の彼方に、薄い影となって消えていた。


「先生、能書きはそれくらいにしておけ。ここからは足を踏み外せば終わりの、本当の『聖域』だぞ」

 ゼノスが短剣を抜き、森の奥を見据えた。 リオスの右腕の結晶が、森の最深部から響く巨大な鼓動に呼応するように、これまでにないほど激しく、熱く脈打ち始めた。

卓上の語り部でございます。

第八十五話『共鳴する道、跳躍する風』をお届けいたしました。


断絶の山脈を後にした一行。ゼノスたちの前に示されたのは、ゲイル・テトラの一族が守り続けてきた「律動の回廊」という古代の遺産でした。大陸を横断する果てしない旅路を一足飛びにし、彼らはいよいよ最終目的地である「始原の森」の最深部へと足を踏み入れます。


かつての旅で訪れた時とは異なり、今、森はリオスの内に宿る「虚ろ」の力に呼応し、不気味なほどの高密度な律動を奏でています。 大樹の許へ至る道は、彼らにとってこれまでで最も過酷な試練となるでしょう。

リオスの身体に起きる変異、そして大樹が発する「始原の律動」。 相反する力が交わる場所で、何が起きるのか。物語はいよいよ核心へと迫ります。


P.S. 本作の世界観設定や用語解説などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて随時更新しております。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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