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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第八十三話『深淵の底、語られる父の影』

『静寂の間』の空気は、張り詰めたままだが、先ほどまでの殺伐とした気配は薄らいでいた。 石の寝台に横たわるリオスを囲むように、里の者たちが古代の術式を施している。


「……脈動が安定してきました。黒い結晶の侵食も、今は止まっています」

 エリアスが安堵の息を漏らす。リオスの右腕に張り付いた黒い結晶は消えていないが、その禍々しい輝きは鎮まり、ただの黒曜石のような硬質な質感へと変わっていた。


「一族秘伝の『鎮めの香』と、この『静寂の間』の特殊な環境が効いているようだ」

 ヴァラが腕を組み、壁際で見守っていたゼノスに話しかける。彼女の表情は依然として硬いが、その声には敵意よりも、ある種の戸惑いと興味が混じっていた。


「……礼を言う。あんたがいなかったら、こいつは今頃……」

「礼には及ばん。私は長老の命に従ったまでだ。それに……」

 ヴァラは言葉を切り、ゼノスの腰にある『影纏いの短剣』に視線を落とした。


「その短剣を使うお前の技……。やはり、私の知る一族の剣技と酷似している。だが、決定的に違う。我らの技は『封じる』ためのものだが、お前のそれは……『守る』ための刃だ」


「……守る、か」

 ゼノスは短剣の柄に触れた。これは、賢者の塔でアルキデウスから託されたものだ。かつて一族が使い、巡り巡って自分の手元に戻ってきた遺産。

 その時、再び重厚な石扉が開き、銀髪の長老が入ってきた。彼女はリオスの傍らに立つリーナに短く頷くと、ゼノスに向き直った。


「治療は順調のようだな。……ゼノスよ、あるいはその仲間たちよ。こちらへ来たれ。語らねばならぬことがある」

 長老に促され、一行は部屋の奥にある小さな祭壇の前へと移動した。そこには、一枚の古びた絵画が飾られている。 描かれているのは、若い頃の長老と、もう一人の女性――ゼノスの祖母。そして、二人の間に立つ、精悍な顔立ちの男。


「これは……」

「左が若き日の私、右が姉上……お前の祖母だ。そして中央にいるのが、お前の父、ゼフィアンだ」

 ゼノスは食い入るように絵画を見つめた。記憶の中の父の顔は朧げだが、この絵の男からは、自分と同じ強い意志を感じる。


「ゼフィアンは、一族の中でも稀有な『影』の才を持っていた。誰よりも強く、誰よりも里を愛していた。だが……それ故に, 彼は許せなかったのだ」

 長老の声が、過去の痛みを呼び起こすように震える。


「我らゲイル・テトラが、ただ『虚ろ』を封じ、監視するだけの存在であることに。彼は、力を持って災厄を滅ぼすべきだと主張した。……だが、姉上はそれを禁じた。『力』で対抗すれば、より大きな『歪み』を生むだけだと」

「……それで、親父は里を出たのか?」

「ああ。禁忌とされた『黒律』の研究に手を染め、それを咎められた彼は、一族の秘宝の一つを持ち出し、里を去った。……その秘宝こそが、今、盟約者が持っていた『古代の制御ユニット』の起動鍵だったのだ」

「なっ……!?」

 エリアスが驚きの声を上げる。 つまり、今回の断絶の山脈での事件の発端を作ったのは、他ならぬゼノスの父だったということになる。


「ゼフィアンは、外の世界で力を蓄え、いつか『虚ろ』を完全に消滅させるつもりだったのだろう。だが……力に魅入られた者の末路は、哀れなものだ。彼は自らの組織を作り上げ、それが今の『闇の盟約者』の前身となった」

「……笑えない冗談だ。あの盟約者を、親父が作ったというのか……」

 ゼノスは膝から崩れ落ちそうになるのを、必死に堪えた。 自分が憎み、故郷を焼き、リオスの日常を奪った敵対組織。その源流が、自分の肉親だったとは。


「待ってください、長老様」

 リーナが静かに口を挟んだ。


「ゼノスのお父さんがどうだったのか、私にはわかりません。でも……ゼノスは違います。彼は、リオスを守るために、私を守るために、ずっと戦ってくれました。彼の中に流れているのは、裏切り者の血なんかじゃありません」

 リーナの真っ直ぐな言葉に、ゼノスは僅かに視線を泳がせ、気恥ずかしそうに鼻を鳴らした。 苦笑しながらゼノスが顔を上げる。その瞳には、迷いはない。


「親父が何をしようとしたのか、俺がこの目で確かめる。そして、もしそれが間違っているなら……俺の手で終わらせる。それが、あの人の血を引く俺の落とし前だ」

「……良い覚悟だ。ならば、我らも全力を貸そう」

 長老は深く頷き、杖を掲げた。


「リオスの治療と並行して、お前たちに『律動の再誕』へ至るための、最後の道を示そう。始原の森の最深部、『聖域の大樹』。そこに眠る『儀式』と『触媒』を手に入れる資格があるか……。風と影の迷宮にて、その身を以て示すが良い!」

卓上の語り部でございます。

第八十三話『深淵の底、語られる父の影』をお届けいたしました。


里の長老の口から語られた、衝撃の真実。 ゼノスの父・ゼフィアンこそが、かつて里を捨て、「闇の盟約者」の礎を築いた人物であったこと。そして、彼が求めた「力による救済」が、結果として世界を歪める引き金となっていたこと。


どこかで生存を信じ、共に世界に抗う同胞であってほしいと願っていた父。その存在が、自分たちが戦い続けてきた敵の源流であったという事実に、ゼノスは深く苦悩します。しかし、彼はその絶望に飲まれることなく、現実と向き合う覚悟を決めました。リーナの揺るぎない信頼、そしてかつて賢者アルキデウスから託された「守るための力」を支えに、彼は自らの血塗られた因縁を断ち切る道を選びます。


そして、リオスの容体は安定しましたが、予断を許さない状況は続きます。 次なる目標は、長老が示した「最後の試練」。舞台は再び、あの「始原の森」の最深部、聖域の大樹へと繋がっていきます。


父子の因縁、世界の命運、連なる仲間との絆。 物語は終章へと向けて、大きく動き出しました。 次回、試練の地での新たな展開にご期待ください。


P.S. 本作の世界観設定や用語解説などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて随時更新しております。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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