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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第九話 『深淵への誘い、調律師の罠』

リーナが放った律動の光は、広間全体を覆うように広がり、闇の盟約者たちの動きを鈍らせた。その波動は、黒い靄を一時的に押し退け、リオスとゼノスに一瞬の光明をもたらす。


「行けるぞ、ゼノス!」


リオスが叫び、再び指揮官に切りかかる。星喰の剣は、リーナの律動に呼応するように、以前よりも安定した輝きを放ち、指揮官の斧を弾いた。ゼノスもまた、研ぎ澄まされた感覚で闇の兵士たちの連携を崩し、一体一体確実に無力化していく。


「くっ……『鍵』の力、ここまでとは……!」


指揮官は舌打ちし、後退を始めた。彼の目的は『鍵』の捕獲であり、この状況で深追いするのは得策ではないと判断したのだろう。だが、それは一時的なものに過ぎなかった。

その時、広間の崩れた入り口の奥から、冷たく、響くような声が聞こえてきた。


「不甲斐ないな、バルギスよ。覚醒した『鍵』とはいえ、小娘一人に、ここまで手を焼くとは」


声の主が姿を現す。彼は黒い法衣を纏い、片手には星晶銀製の精緻な杖を携えていた。その顔には知的な冷酷さが浮かび、他の兵士たちとは明らかに異なる雰囲気を醸し出している。彼の背後には、奇妙な紋様が刻まれた巨大な装置が鎮座していた。


「グラハム……やはり貴様か!」

アルキデウスは、その男の姿を見て、怒りに震える声で叫んだ。その声には、深い憎悪と、それ以上の焦りが混じっていた。


「ちっ……少々油断しただけにすぎん……!」

猛将バルギスが悔しそうに吐き捨てるが、グラハムは冷ややかな視線を送るだけだ。


「律動の停滞こそ、この世界の病なのだ。そして、お前たちが守ろうとしているその『真律』こそが、その元凶」

グラハムはゆっくりと杖を掲げた。杖の先端に埋め込まれた星晶銀の結晶が、禍々しい光を放ち始める。

「真律を血筋で独占し、力ある者を抑圧してきた古代文明の欺瞞を、今こそ我らが黒律で打ち破る! まずは、この塔を、外部から完全に隔絶させてもらおう」


グラハムが杖を地面に突き立てると、彼の背後にあった巨大な装置が稼働を開始した。装置からは、空間を歪ませるような不快な波動が広がり、広間の入り口を完全に塞ぐように、黒い物質が急速に膨張し、硬質な壁を形成していく。


「くそっ、このままでは閉じ込められる!」


リオスが駆け寄ろうとするが、壁の形成はあまりにも速い。たちまちのうちに、バルギスと闇の盟約者の兵士たちは壁の向こうへと消え、通路は完全に塞がれてしまった。


「グラハム! 何をするつもりだ!」

アルキデウスが問い詰める。グラハムは冷笑を浮かべた。


「律動制御炉へ向かう通路は、『鍵』であるそこの女の『真律』でなければ開けぬ。その先に何が待っているか、貴様アルキデウスは知っているはずだ。そして、そこに『鍵』を行かせることが、我々にとってどれほど有益か、貴様も理解できるだろう」

グラハムの視線がリーナに向けられる。

「この塔の機構からくりは、律動が活性化すればするほど、その守りも強固になる。だが、活性化しすぎれば、それは毒となる。この塔の機構は、同時に真律の毒でもあるのだ。さあ、『鍵』よ。お前がその純粋な律動で、この塔の扉を開けば開くほど、お前の知る『真律』の欺瞞が、明らかになるだろう」


その言葉は、リーナの心を深く抉った。彼女の守ろうとする真律が、世界の停滞の元凶だというグラハムの主張。そして、自身の力を解放すればするほど、真実から遠ざかるという示唆。


(真律が……毒……?)


リーナは不安に目を伏せる。アルキデウスが慌てて反論する。


「戯言を言うなグラハム! そのようなものは、貴様らが黒律で世界を歪めようとするための、甘言に過ぎん! 『鍵』の役目を果たす者の心を惑わそうとする、浅はかな真似だ!」


「幻想だと? ふん。いずれ分かるさ。この塔の奥で、お前たちは真律の本当の姿を知るだろう。そして、それが世界を停滞させ、厄災の律動を加速させた真の原因だと。我らが目指すは、律動の解放。誰もが律動を扱える、新たな世界の構築だ!」


グラハムはそう言い残し、壁の向こうへと姿を消した。その場に残されたのは、固く閉ざされた壁と、グラハムの言葉が残した深い疑念。


アルキデウスは深く息を吐いた。

「グラハムめ……余計なことを……」

「アルキデウス、今のどういうことだ? 『真律の毒』とか『世界の停滞の元凶』とか……あいつは何を言ってるんだ?」

リオスが険しい顔で問い詰める。ゼノスもまた、沈黙の中に鋭い視線をアルキデウスに向けていた。

「あれは……奴らが黒律で世界を歪めようとするための、甘言に過ぎん。真実を歪め、自らの都合の良いように解釈する。惑わされるな。今は律動制御炉へ急ぐのが先決だ」

アルキデウスはそう言い放ったが、その言葉にはどこか焦りが滲んでいた。彼の表情は、苦渋と動揺を隠しきれていない。グラハムが、よりによって『真律の毒』という、古代文明の最も深い闇に触れてきたことに、彼は最大の危機感を覚えていた。 リーナが、自分の握りしめた心珠を見つめる。その光が、本当に正しい道を示しているのか、彼女の心は大きく揺らいでいた。

しかし、立ち止まっている暇はない。律動制御炉への扉は、リーナの『鍵』の力でしか開かない。


「……行きましょう」


リーナは震える声で言った。その瞳には、不安と同時に、真実を確かめたいという強い意志が宿っていた。リオスとゼノスは、互いに顔を見合わせ、頷く。彼らは、単に世界を救うためだけでなく、自分たちが信じる「真実」とは何かを求めて、賢者の塔の深淵へと足を踏み入れるのだった。


さて、卓上の語り部でございます。


皆様、第九章までお付き合いいただき、誠にありがとうございます。 今回は、闇の盟約者の狡猾な策士、「調律師」グラハムがいよいよ姿を見せ、物語は一気に緊迫の度を増しましたね。彼の言葉がリーナの心に、そしてアルキデウスの表情に、深い陰を落としたのを感じていただけたでしょうか?


「真律の毒」――この不穏な響きは、一体何を意味するのか。そしてグラハムの真の狙いは何処にあるのか。 賢者の塔の深奥へ進む彼らを、一体どんな真実が待ち受けているのでしょう。


次回、その謎の一端が明かされるかもしれません。 どうぞ、ご期待くださいませ。

それでは、また次のお話でお会いいたしましょう。


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