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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第八十一話『風の審判、受け継がれし影』

 里の最上層に位置する『風徴のふうちょうのま』。 そこは四方を断崖に囲まれ、常に山脈を吹き抜ける鋭い風が渦巻く開放的な円形広場だった。中央には、里の重鎮たちが座る石の玉座が並び、その中心に銀髪の長老が鎮座している。

 リオスはまだ眠りの中にいたが、彼を載せた石の寝台は広場の中央に置かれ、周囲をヴァラを含む数人の守護者たちが取り囲んでいた。


「……随分と手厚い歓迎だな。槍の穂先まで向けてくれるとは」

 ゼノスは、エリアスとリーナを守るように立ち、周囲を威圧する里の戦士たちを冷ややかに見据えた。彼の隣では、ヴァラが表情を隠したまま、微動だにせず短剣の柄に手をかけている。


「黙れ、逃亡者の末裔め。貴様に口を開く権利はない」

 槍を携えた戦士ガルンが、嫌悪を隠そうともせずに吐き捨てた。


「長老! この男、ゼノスは一族の誇りを捨て、外の世界に紛れて生き延びた臆病者の孫です。その上、こともあろうに『虚ろ』を宿した汚染者を里に引き入れた。これは明白な掟破りです。即刻、汚染者と共に処断すべきです!」

 ガルンの言葉に、周囲の戦士たちからも賛同の唸り声が上がる。 ゼノスは眉一つ動かさなかったが、その視線は鋭く長老へと向けられた。長老は目を閉じたまま、静かに語り始めた。


「……ガルン。お前の言う掟もまた、風の一部ではある。だが、この男の持つ『影纏いの短剣』は、正当な後継者の証だ。姉上がこれを与えたということは、そこには我らには見えぬ流れがあったということだろう」

「長老、甘すぎます! そもそも、この男の父親であるゼフィアンが何をしたか、お忘れですか!」

 ガルンの声が一段と激しく響いた。 先ほど長老から聞かされた名。ゼフィアン。自分の父親。 ゼノスは喉の奥に苦いものがせり上がるのを感じた。祖母は、父親については「己の道を探しに里を出たきり戻らなかった」としか語っていなかった。だが、この里の者たちにとって、父親はただの行方知れずではなく、消えない泥を塗った裏切り者なのだ。


「あやつは一族に背き、禁忌の力を求めて里を出た。その息子が、再び『虚ろ』を連れて戻ってきたのだ。これが偶然だと言えるでしょうか!」

 ゼノスは心臓が冷たくなるのを感じた。祖母が隠し続けていた真実が、今、糾弾の声として白日の下に晒されている。


「……親父が、何をしたっていうんだ」

「知らないのか? 貴様の父親は、一族の誇りを捨て、力を得るために同胞を斬って里を捨てたのだ。その血は、今も貴様の中に流れている!」

 ガルンの罵倒に、ゼノスの手がわずかに震える。だが、その震えを止めるように、温かい手が彼の腕に触れた。


「……そんなの関係ないわ」

 リーナだった。彼女は一歩前に出ると、心珠を抱え、長老会を見渡した。


「えぇ、リオスの中には確かに恐ろしい力があるかもしれない。でも、彼はその力に負けてないわ。誰かを守るために、自分を犠牲にすることを選んだ。……血がどうとか、掟がどうとか、そんなことで彼を殺すなら、あなたたちの守っている『風』は、命のぬくもりを拒絶するだけの、ただの冷たく空虚な息吹よ!」


「小娘が……! 『鍵』を継いでいようと、我らの掟を汚すことは許さん!」

 ガルンが槍を突き出そうとした瞬間――。 それまで静止していたヴァラが、音もなく一歩前に出た。彼女の動きは、ゼノスが迎撃のために身構えたタイミングと、恐ろしいほどに重なっていた。


「……ガルン、控えろ。長老の裁定がまだ下っていない」

 ヴァラの声は低かったが、そこに込められた律動の圧力に、ガルンは思わず息を呑んだ。 ゼノスは驚きを持ってヴァラの背中を見つめた。なぜか、彼女の呼吸の刻みが、自分のそれと驚くほど調和していることに気づく。まるで、鏡写しの自分と立っているかのような奇妙な感覚。


 長老がゆっくりと目を開けた。

「……審判を下そう。この男、リオスの内に宿る『虚ろ』は、確かに里の存亡に関わる脅威だ。だが、その力さえも制御の術式に組み込み、世界を書き換える。それが、古のエルフが果たせなかった『律動の再誕』の真の姿かもしれぬ」

「長老、本気ですか……?」

「ガルン。お前の言う通り、この若者たちが一族に仇なす者か、あるいは救いか、それを確かめる必要がある。……ヴァラよ」

「は」

「ゼノスを、里の試練の地『回天の試練かいてんのしれん』へ。彼が父親の罪を雪ぎ、一族としての誇りを示すことができれば、その相棒であるリオスの命、長老会が預かろう」

「……その試練、私が相手をすると?」

 ヴァラの問いに、長老は静かに頷いた。


「影と影を交わらせ、風が何を選ぶかを見定めるのだ。……ゼノス、受けるか」

 ゼノスは短剣を握りしめた。親父の罪。一族の因縁。そんなものはどうでもいい。だが、リオスとリーナを救うために、この里を認めさせる必要があるのなら。


「……断る理由はないさ。あんたらの言う『掟』とやらを、俺が黙らせてやる」

 ゼノスの言葉が、渦巻く風の中に力強く刻まれた。

卓上の語り部でございます。

第八十一話『風の審判、受け継がれし影』をお届けいたしました。


里の重鎮たちが集う審判の場で、ゼノスは自身の出自――父親ゼフィアンの大罪と向き合うことになりました。ガルンを筆頭とする強硬派の激しい拒絶。そして、沈黙を守りつつも、ゼノスと奇妙なシンクロを見せる戦士ヴァラ。


リオスを救うための条件として提示されたのは、ヴァラとの対決を含む「回天の試練」。ゼノスにとっては、己のアイデンティティと仲間の命を懸けた、過酷な戦いが幕を開けます。


次回、影と影が交差する時、ゼノスは何を掴むのか。物語は激しさを増していきます。


P.S. 本作の世界観設定や用語解説などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて随時更新しております。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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