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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第七十八話『再会と刃、風の守護者』

「……消えた!?」

 ゼノスが驚愕に目を見開いた。 仮面の戦士の姿が、陽炎のように揺らいだかと思うと、一瞬で視界から消失したのだ。それはゼノス自身が誇りとしてきた『影渡り』を遥かに凌駕する、風そのものと化したかのような超高速の移動術だった。


「後ろだ、先生!」

 ゼノスが咄嗟にエリアスを突き飛ばし、背後へと短剣を振るう。 キィィィン!! 金属同士が激突し、火花が散る。いつの間にか背後に回り込んでいた仮面の戦士が、二本の曲刀を交差させてゼノスの短剣を受け止めていた。


「この反応速度……。末端の血族にしては、筋が良い。だが、その刃が向く先を間違えているぞ」

 仮面の奥から響く声は、冷徹なまでに静かだった。戦士は曲刀を鋭く翻し、ゼノスの防御を強引に弾き飛ばす。


「ぐっ……!」

 ゼノスは大きく後退し、痺れる両腕を強引に押さえつけた。力、速さ、そして技の練度。すべてが自分の数段上を行っている。


「……一族の技をそこまで使いこなすあんたなら、この『影纏いの短剣』の意味も分かってるはずだ……」

 ゼノスは握りしめた漆黒の双刃を構え直し、静かな、しかし確かな重みを持った視線を戦士にぶつけた。


「知っているとも。かつて、一族の最精鋭に託された双刃だ。……それを持ちながら、貴様は我らが数千年にわたり監視してきた禁忌を、人間が取り込むのを看過したというのか」

 戦士の視線は、ゼノスを通り過ぎ、リーナの腕の中で激しく脈動する黒い結晶――リオスの右腕へと注がれた。


「その身に宿した『虚ろ』が、男の魂を喰らい尽くし、世界を飲み込む門となるのは時間の問題だ。意識が途切れた瞬間、器は壊れ、内側の災厄がすべてを無へと還すだろう。……この男は、もはや生かしておいて良い存在ではない」

 戦士が曲刀を低く構え、リオスへと狙いを定める。


「目覚める前に、断ち切る。それがこの地を預かる我らの掟だ」

「やめて!」

 リーナがリオスの前に立ち塞がり、両手を広げた。 彼女の胸元で『律動の心珠』が、これまでにないほど強く碧く輝いた。その清浄な波動が、ドームを満たす殺伐とした空気を一瞬だけ押し戻す。


「リオスは、みんなを守るために戦ったの! この力が……この剣がなかったら、今頃ここは盟約者の手で本当の地獄になっていたわ!」

「……『律動の心珠』だと? 鍵を継ぐ娘か……」

 戦士の動きが止まった。仮面の奥の瞳が、リーナの心珠と、それを守るように構えるゼノス、そして動けないリオスを交互に見据える。


「悪いが、その掟とやらに従うつもりはない。……俺は一族の顔も知らずに生きてきたが、こいつがどういう奴かは、誰よりもよく知っている。道理の通らない殺しを見過ごすほど、俺は聞き分けの良い人間じゃないんでね」

 ゼノスが揺るぎない眼差しで短剣を構え直す。その言葉に、戦士の纏う風がわずかに揺らいだ。

 その時だった。


 ズズズズゥゥゥン!!


 地下ドーム全体が、先ほどまでとは比較にならないほどの轟音と共に大きく揺れた。 天井から巨大な鍾乳石が次々と落下し、床の術式回路が砕け散る。盟約者が無理やり律動を操作した代償と、リオスが莫大なエネルギーを捕食した反動により、この地下プラントの構造そのものが限界を迎えたのだ。


「……チッ、崩落が始まったか!」

 ゼノスが叫ぶ。 仮面の戦士は周囲の状況を冷静に判断した。崩落という差し迫った状況、そして目の前には一族が守るべき『鍵』を継ぐ娘と、正当な武具を継承した同胞。そして、一刻を争う『虚ろ』を宿した男。


「……。ここで命を散らすのは、守護者の本意ではないな。……同胞よ、その男を抱えろ。死にたくなければついてくるがいい」

「……助けてくれるのか?」

「勘違いするな。独断で殺すには、状況が複雑になりすぎた。……鍵を継ぐ娘、そして影纏いの継承者。貴様らを我らの里まで運び、長老たちの審判を仰ぐ。この男の運命を決めるのは、私ではない」

 戦士はそう言い残すと、崩落する瓦礫の間を縫うようにして、出口とは逆方向――地底のさらに奥へと続く隠し通路へと走り出した。


「リーナ、行くぞ! リオスを支えろ!」

「えぇ!」


 ゼノスがリオスの片腕を担ぎ、リーナとエリアスがそれを支える。 背後では、盟約者の野望の残滓が完全に瓦礫の下へと埋もれていく。 一行は、希望か裁きかも分からぬまま、ゲイル・テトラの守護者の導きに従い、暗い坑道の奥へと消えていった。

卓上の語り部でございます。

第七十八話『再会と刃、風の守護者』をお届けいたしました。


絶体絶命の崩壊の中で現れたゲイル・テトラの戦士。彼は、リーナの持つ『心珠』と、ゼノスの持つ『影纏いの短剣』という一族にとって見過ごせない要素を目の当たりにしたことで、独断での処刑を中断しました。


一族の掟を絶対とする守護者の冷徹さと、それを真っ向から否定し、仲間を選んだゼノスの静かな覚悟。そして、自分たちを「災厄の器」と呼ぶ存在にすら縋らなければならない極限状態の彼らが描けたかと思います。


物語の舞台は、ついに世界の謎と一族の宿命が眠る「ゲイル・テトラの隠れ里」へと移ります。そこにあるのは希望か、それとも新たな絶望か。


P.S. 本作の世界観設定や用語解説、登場人物たちのこれまでの歩みなどは、Webサイト「Table Talker's Log」にて随時更新しております。激闘の合間に、ぜひ設定の裏側も覗いてみてください。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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