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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第七十一話『逆位相の共鳴、断たれる熱脈』

「解析完了……! 反撃を開始します!」

 エリアスの叫びと共に、彼の手が操作盤の石板を激しく叩いた。

 彼が組み上げたのは、暴走する律動機関が発するエネルギー波長を瞬時に計算し、それと完全に真逆の波形――「逆位相」の律動を強制的に流し込む術式だった。


 ブゥゥゥン……キィィィィン!!

 施設内に響き渡っていた重低音の轟きが、突如として甲高い金属音へと変わる。


「グォォッ!? ガァァァァァッ!」

 イグニス・フィグラが、信じられないといった様子で身をよじった。

 これまで無限の再生能力を支えていた周囲の熱エネルギーが、エリアスが流した逆位相の波と衝突し、互いに打ち消し合い始めたのだ。

 さらに、エリアスは施設の機能そのものを逆用した。


「熱交換システム、強制反転! 『吸熱サイクル』始動!」

 ドーム内の気温が急速に下がり始める。この施設が本来持っていた、熱エネルギーを効率よく循環させる仕組みを暴走させ、周囲の熱を奪い取る巨大な冷却装置へと変貌させたのだ。

 あれほど渦を巻いていたマグマの奔流が勢いを失い、赤熱していた床や壁が、急速に黒ずんでいく。

 それは、敵の体も同様だった。

 不定形に揺らめいていたイグニス・フィグラの体が、熱を失い、赤黒い固体――巨大な黒曜石の塊へと変化し始めたのだ。


「奴の体が固まっていく……! 先生、やったのか!」

 リオスが剣を杖代わりに立ち上がりながら叫ぶ。隣で彼を支えていたリーナも、安堵と疲労が入り混じったため息をついた。


「はい! ですが、長くは持ちません。奴が再び律動を適合させる前に、中枢核を破壊しなければ!」

 エリアスが操作盤から離れず、脂汗を流しながら叫び返す。彼の精神力も限界に近い。

「……上出来だ、先生」

 落ち着いた声が響いた。


 ゼノスだ。彼は冷却されていくイグニス・フィグラの巨体を、冷徹な計算を含んだ目で見上げていた。

 熱と光の乱舞が収まった今、ドーム内には明確な光源と、そこから伸びる濃い「影」が生まれていた。


「お膳立ては完璧だ。――リオス、動けるか?」

「ああ、もちろん! リーナのおかげでな!」

 リオスが両手剣を構え直す。火傷の痛みは引いていないが、闘志は衰えていない。


「リオス、俺が奴の『繋がり』を断つ。お前は核が露出した瞬間に、最大の一撃を叩き込め」

「了解!」

 打ち合わせはそれだけで十分だった。

 ゼノスの姿が、周囲の影に溶け込むように希薄になった。次の瞬間、彼は弾丸のように駆け出していた。

 目指すは、黒曜石と化したイグニス・フィグラの足元。

 エリアスの逆位相攻撃によって、敵のエネルギーの流れは乱れている。だが、まだ完全に断たれたわけではない。地下のマグマ溜まりから、細いが強靭なエネルギーの供給線パスが、足元を通じて本体へ繋がっているのを、ゼノスの鋭敏な感覚は捉えていた。


「(見えた)」

 ゼノスが短剣を逆手に持ち、目に見えない「線」に向かって刃を走らせた。


 奥義『影断ち』。


 物理的な実体ではなく、対象と動力源を繋ぐ不可視のパスを認識し、断ち切る絶技。

 ザシュッ!

 何もない空間を斬り裂いたはずの短剣が、確かな手応えを伝えた。


「グォォォォッ!」

 イグニス・フィグラが苦悶の声を上げる。

 供給線を断たれたことで、黒曜石の体表に急速に亀裂が走り始めた。再生能力どころか、現在の形態を維持するエネルギーすら失ったのだ。


「今だ、リオス!」

 ゼノスの合図と同時に、リオスが駆けた。

 冷却されたとはいえ、まだ灼熱が残るプラットフォームを蹴り、黒曜石の巨体へと跳躍する。

 目指すは、亀裂の奥で弱々しく明滅する紫色の結晶体――暴走した律動機関のコアだ。

 両手剣を振りかぶり、全身のバネと、体重と、そして『星喰の剣』の特性を最大限に乗せた。


「これで、終わりだぁぁぁっ!」

 渾身の突きが、脆くなった装甲を突き破り、露出したコアに突き刺さる。


 ドクンッ!

 剣が脈打ち、コアに残っていたエネルギーを貪欲に喰らい尽くしていく。


「ガ、ガガッ、ギィィィィ……」

 イグニス・フィグラの動きが止まった。

 虚無の顔が天を仰ぎ、断末魔のような機械音を漏らす。


 バキキキキッ……ドォォォォン!!


 次の瞬間、コアが砕け散り、それを合図に巨体全体が内側から崩壊した。無数の黒曜石の破片がプラットフォームに降り注ぎ、もうもうと土煙が舞い上がる。

 しばらくして煙が晴れると、そこには瓦礫の山と化したイグニス・フィグラの残骸と、その頂上で剣を突き立てて荒い息をつくリオスの姿があった。


「やっ、た……か……?」

 リオスがふらつきながら剣を引き抜く。


「ええ。律動の反応、完全に消失しました。……私たちの勝ちです」

 操作盤の前でへたり込んでいたエリアスが、疲れ切った声で勝利を告げた。

 ドーム内を支配していた不気味な轟音は消え、今はただ、崩れた岩が転がる乾いた音と、彼らの荒い呼吸音だけが響いていた。

 古代の番人を退けた一行。だが、彼らの視線は、すぐにプラットフォームの奥にある巨大な金属扉へと向けられた。


「……休憩している暇はなさそうだな」

 ゼノスが瓦礫から降り立ち、短剣を鞘に納めながら呟く。


 この騒ぎの中、先へと進んだ盟約者たちの姿はない。彼らは既に、この扉の向こう側――「何か」が封印されている深淵へと到達しているのだ。

卓上の語り部でございます。

第七十一話『逆位相の共鳴、断たれる熱脈』をお届けいたしました。


ついに決着した焦熱の具現体との死闘。エリアスが逆位相の律動と吸熱サイクルを駆使して敵を個体化させ、勝機を作り出しました。


そして、ゼノスの『影断ち』――対象と動力源を繋ぐ不可視のパスを断つ絶技が、敵の再生能力を完全に封じました。脆くなった核に、リオスの渾身の一撃が突き刺さり、見事に強敵を打ち砕きました。まさにチーム全員での勝利です。


しかし、息つく暇はありません。盟約者たちは既に、封印の扉の向こう側へと進んでいます。 次回、彼らは未知なる深淵へと足を踏み入れます。物語はクライマックスへ。引き続きお楽しみください。


P.S. 本作の世界観設定や登場人物の紹介、アヴェリアにある大陸の地図などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて公開しております。物語をより深く楽しむための補足情報として、ぜひご活用ください。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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