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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第六十六話『赤熱する大地、迫りくる紅き絶峰』

 ロックウェルでの二日間の休息は、一行にとって干天の慈雨のようなものだった。 たっぷりの水と食事で体力を回復し、すり減った装備を整え、そして何より、張り詰めていた精神を束の間でも解き放つことができた。


 三日目の早朝。まだ太陽が地平線から顔を出す前、薄紫色の空の下、一行は宿場町の門の前に立っていた。


「準備はいいか? ここから先は、今まで以上に過酷になるぞ」

 新しい革鎧のベルトを締め直しながら、ゼノスが落ち着いた声で言った。酒場で見せた酔態はどこへやら、その表情は頼れる手練れの傭兵に戻っている。


「ああ。水も食料も、十分過ぎるほど持った。もう水不足でバテるのは御免だからな」

 リオスが背中の荷袋の重みを確認するように頷く。その目には、落ち着いた決意の光が宿っていた。


「私も、今度は失敗しません。……料理も、錬金術も」

 リーナが小さな拳を握りしめ、急に真剣な表情で宣言した。彼女のリュックには、エリアスから渡された「安全な」調理器具と基礎的な錬金素材が詰め込まれている。


「え? 失敗? リーナの作る干し肉のスープ、いつも美味いじゃないか」

 リオスが不思議そうに首を傾げる。


「……まぁ、昔一度だけ、張り切って作ってくれた後に、俺が急に高熱を出して倒れたことはあったけど……あれはたまたま体調が悪かっただけだろ?」

 リオスのあまりに善良な解釈に、事情(とエリアスによる尋問結果)を知るゼノスは、エリアスと一瞬だけ視線を交わし、引きつった笑みを浮かべてリーナの頭をポンと叩いた。


「フン、まぁ、そういうことにしておいてやれ。気合が入ってるのは良いことだ。空回りしなけりゃな」

「ええ。その意気ですよ、リーナさん。では、行きましょう。目指すは南西、遥か彼方の『断絶の山脈』です」

 エリアスが苦笑しながら先頭に立ち、まだ眠りについている町を背に、広大な荒野へと足を踏み出した。


 宿の主人から教わったルートは、平原を蛇行して走る巨大な「涸れワジ」の底を進むものだった。 谷底は直射日光がある程度遮られるとはいえ、風が通らず、熱気が淀んでいる。一行は黙々と、岩肌に反響する自分たちの足音だけを聞きながら歩を進めた。


 数日かけて涸れ谷を抜けると、景色は一変した。 そこは、それまでの赤茶けた「レムリア平原」とは異なる、さらに荒涼とした大地――「ヴァリカ平原」だった。 地面はひび割れ、乾燥した黒い土が剥き出しになり、奇妙な形の岩が墓標のように点在している。生命の気配はさらに希薄になり、時折吹き付ける風は、肌を焦がすような熱を帯び始めていた。

 旅が始まって十日ほどが過ぎた頃。一行は平原の真ん中で立ち止まっていた。


「……ここも、駄目か」

 ゼノスが、干上がった小さな泉の跡を見て顔をしかめる。地図上では水場となっていた場所だ。


「想定の範囲内です。むしろ、完全に干上がっていないだけマシでしょう」

 エリアスがひび割れた地面の底に僅かに溜まっている、泥水のような濁った液体を指差した。強烈な硫黄の臭いが鼻をつく。そのまま飲めば確実に腹を壊す代物だ。


「リーナさん、例のものを」

「はいっ、先生!」

 リーナがリュックから取り出したのは、ロックウェルで買い込んだ錬金素材――特殊な鉱石の粉末と、乾燥した水草だった。エリアスがそれを濁った水に投入し、仕上げに懐から取り出した小さな金属片を触媒として落とすと、水は瞬く間に激しく泡立ち、不純物が沈殿して透明な水へと変わっていった。


「これで水袋を満たしましょう。節約すれば、あと五日は持ちます。食料の干し肉はまだ十分ですが、水が尽きれば終わりです。……急ぎましょう」

 エリアスの言葉に、全員が緊張した面持ちで頷いた。この過酷な大地では、錬金術という知恵がなければ生き延びることすら難しい。

 そして、ロックウェルを出発してから二週間が過ぎた、ある日の夕暮れ。 一行はついに、平原の果てにその姿を捉えた。


「あれが……」

 リオスが息を呑む。 彼らの目の前、荒野の果てに、それは聳え立っていた。

「断絶の山脈」。 それは通常の山脈とは異質だった。なだらかな稜線などはなく、黒々とした鋭い岩峰が、まるで天を突き刺す槍のように乱立している。山肌は荒涼としており、草木一本生えていない。

 そして、ロックウェルで聞いた噂は真実だった。 日が沈み、辺りが闇に包まれるにつれて、山々の頂付近、特に中央に座す巨大な火山が、不気味な赤い光を帯び始めたのだ。それはまるで、山自体が内側から脈打ち、熱を発しているかのような、禍々しい輝きだった。


 ズゥゥゥゥン……。

 足元の大地が、微かに、しかし確実に振動した。


「……地震か?」

 リオスが身構える。


「いえ、これは……」

エリアスが地面に膝をつき、手を当てて分析する。


「規則的な振動です。まるで、巨大な心臓の鼓動のような……」

「『律動』……遺跡にあった装置と、同じ感じがする。でも、もっと大きくて、荒々しい……」

 リーナが自身の胸元を抑えながら呟く。目的地が目の前にあるという事実に、彼女の感覚は鋭敏になり、同時にこの土地が発する「異質な力」に当てられ始めていた。


「おい、見ろ。あそこだ」

 ゼノスが鋭い視線で、山脈の麓にある一つの谷間の入り口を指差した。二つの巨峰に挟まれた、暗い裂け目のような場所だ。


「……風に乗って、微かにだが漂ってくる。あの腐ったような臭いだ」

 ゼノスが鼻を鳴らし、腰の短剣の柄に手をかけた。


「間違いありません、酒場にいた『盟約者』の連中です。奴らの痕跡が、あの谷の奥へと続いています」

「……いよいよですね」

 エリアスが立ち上がり、眼鏡の奥の瞳を光らせた。


「ああ。ここからが本番だ。気合を入れろよ、お前ら」

 ゼノスの言葉に、リオスも剣を抜き放ち、深呼吸をした。

 目の前には、赤く蠢く不気味な山脈。その奥には、因縁の敵「闇の盟約者」と、世界の命運を握るかもしれない「ゲイル・テトラ」の秘密が待っている。


「行こう。みんな」

 リオスの言葉を合図に、一行は熱砂の大地を蹴り、禍々しい光を放つ「断絶の山脈」の領域へと足を踏み入れた。

卓上の語り部でございます。 第五十一話『赤熱する大地、迫りくる紅き絶峰』をお届けいたしました。


ついに一行は、遥かなる荒野を踏破し、因縁の地「断絶の山脈」へと到達しました。 休息と入念な準備を経て出発した彼らでしたが、その道のりは想像以上に過酷なものでした。エリアスの錬金術による飲料水の確保がなければ、目的地にたどり着くことすら叶わなかったでしょう。


そして、ついに姿を現した断絶の山脈。禍々しい赤い光を放ち、大地を震わせるその様は、ただの自然物ではないことを物語っています。 さらに、盟約者たちの痕跡も発見されました。


次回からはいよいよ、未知なる危険と敵が待ち受ける、山脈深部での戦いへと突入していきます。彼らの行く手に待つのは、古代の秘密か、それとも破滅の淵か。


物語は新たな局面に差し掛かります。引き続き、彼らの冒険をどうぞお楽しみください。


P.S. 本作の世界観設定や登場人物の紹介、アヴェリアにある大陸の地図などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて公開しております。物語をより深く楽しむための補足情報として、ぜひご活用ください。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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