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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第六十四話『赤土の洗礼、渇きとの戦い』

「……暑いですね。森の中の湿気が、今となっては恋しいくらいです」


 エリアスが額の汗を拭いながら、乾いた溜息をついた。 始原の森を抜けてから数日。一行は、見渡す限りの赤茶けた大地が広がるレムリア平原の深部を進んでいた。

 遮るもののない空からは、容赦のない日差しが降り注ぐ。地面からは陽炎が立ち上り、乾いた風が肌を焦がすように吹き抜けていく。豊かな水と緑に守られていた森とは、まさに正反対の世界だった。


「水、まだ大丈夫か?」

 リオスが腰の水筒を振ってみる。ちゃぷん、と心許ない音がした。残り半分を切っている。


「僕はまだ半分ほどありますが……予想以上に消耗が激しいですね。次の補給ポイントまで保つかどうか」

 エリアスが地図を広げるが、この辺りには井戸もオアシスも記されていない。ただ広大な「空白」が広がっているだけだ。


「リーナは? 大丈夫か?」

「うん、平気。……でも、この辺りの『音』はすごく乾いてる。土と岩が擦れ合って、ずっと何かが渇望してるみたいな音」

 リーナが不安げに周囲を見渡す。彼女の感覚は、この土地の過酷さを正確に捉えていた。


「おい、先生。そろそろ限界だろう。あそこの岩陰で休憩にするぞ」

 先頭を歩いていたゼノスが、巨岩が作り出すわずかな日陰を顎で示した。彼の足取りは変わらず力強いが、その表情には疲労の色が見える。

 岩陰に入ると、焼けるような日差しが遮られ、多少は呼吸が楽になった。


「このままじゃマズいな。水が尽きれば、魔物と戦う前に干からびてしまう」

 ゼノスが自身の水筒をあおり、残量を確認して眉をひそめた。


「大丈夫です。こういう時のための備えもあります」

 エリアスが荷物の中から、奇妙な形のガラス器具と、先ほど道端で採取したサボテンのような多肉植物を取り出した。


「これは?」

 とリオスが覗き込む。


「簡易蒸留器です。この植物は『砂漠のすなばくのうり』の亜種で、内部に水分を溜め込んでいます。ただ、そのまま飲むと強い毒性があるので、こうして……」

 エリアスは植物の果肉を潰してフラスコに入れ、下から小さな固形燃料で熱し始めた。やがて、蒸発した水分がガラス管を伝い、別の容器にポタポタと透明な液体となって溜まり始めた。


「へぇ、すごいな。錬金術って、こんなこともできるのか」

「ええ。物質の性質を理解し、分離・精製する。錬金術の基本ですよ」

 エリアスが少し得意げに眼鏡を光らせる。

 しばらくして、三人分の水筒を満タンにするだけの水が確保できた。煮沸されているので温かいが、贅沢は言っていられない。


「助かったよ、先生。これでまだ進める」

 リオスが礼を言うと、エリアスは照れくさそうに笑った。

 ゼノスは補給された水を一口飲むと、立ち上がって視線を遠くに向けた。


「だが、油断するな。平原の敵は魔物だけじゃない。この熱と渇きこそが最大の敵だ。俺たち『獣人』でも、水を絶たれれば三日と持たない」

 そう言って、彼は遥か彼方を指差した。陽炎に揺らぐ地平線の向こうに、うっすらとだが、険しい山々の稜線が見える。


「見ろ。あれが目的地、『断絶の山脈』だ」

「あんなに遠く……」

 リオスが息を呑む。霞んで見えるその姿は、まるで蜃気楼のようだ。


「ああ。まだ、旅程の半分も来ていない。この平原は、見た目以上に広いぞ」

 ゼノスの言葉に、改めてこの旅の過酷さを思い知らされる。


「でも、行くしかないよね」

 リーナが立ち上がり、土埃を払った。


「うん。向こうには希望がある。それに……この水があれば、まだ頑張れる」

 リオスも立ち上がり、水筒を腰にしっかりと結び直した。


「よし、行こう。日が暮れる前にもう少し距離を稼ぎたい」

 一行は岩陰を出て、再び灼熱の太陽の下へと歩き出した。 赤土の荒野は果てしなく続き、目的地はまだ遥か彼方。だが、彼らは知恵と協力で最初の試練を乗り越え、確かな一歩を踏み出した。

卓上の語り部でございます。

第六十四話『赤土の洗礼、渇きとの戦い』をお届けいたしました。


「始原の森」の湿潤な環境から一転、一行は灼熱の「レムリア平原」へと足を踏み入れました。 今回の最大の敵は魔物ではなく、容赦なく体力を奪う「熱」と「渇き」でした。これまでの冒険とは異なるサバイバルな展開に、彼らの旅の過酷さが改めて浮き彫りになったかと思います。


そんな窮地を救ったのは、エリアスの知識と技術でした。一見役に立たなさそうな毒植物から生命の水を作り出す錬金術。彼の存在がいかにこのパーティにとって重要であるか、改めて感じさせるエピソードとなりました。


そして、陽炎の遥か向こうに姿を現した目的地、「断絶の山脈」。 希望の地は見えましたが、ゼノスの言葉通り、そこに至る道のりはまだ半ばです。広大な赤土の荒野は、これからも彼らに様々な試練を与えることでしょう。


次回、平原の旅路で彼らを待ち受けるものとは。 引き続き、彼らの冒険を見守っていただければ幸いです。


P.S. 本作の世界観設定や登場人物の紹介、アヴェリアにある大陸の地図などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて公開しております。物語をより深く楽しむための補足情報として、ぜひご活用ください。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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