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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第六十三話『苔むす森の出口、遥かなる平原へ』

 苔むした石段を登り、再び地上の光の中へと出た瞬間、全員が大きく息を吐いた。


「……ふぅ。外の空気は、やっぱり違うな」

 リオスが伸びをしながら言った。 地下の遺跡は埃ひとつなく清潔だったが、そこには数千年の時間がよどんだような、重苦しい空気が満ちていた。それに比べれば、湿気と土の匂いが混じる森の空気の方が、よほど生気に満ちているように感じられた。


「まさか、この森の地下に、あんな歴史の証人が眠っていたとは……」

 エリアスが名残惜しそうに振り返る。学者としては、あの場所に留まり、全ての壁画とデータを記録したいという衝動に駆られているのだろう。だが、彼も分かっている。今は一刻を争う時だ。


「行くぞ。のんびりしている暇はない」

 先頭に立ったゼノスが、短く声をかけた。 その声には、以前までのどこか投げやりな響きは消え、代わりに鋼のような意志が宿っていた。


 一行は、守護岩獣ガーディアン・ゴーレムの残骸が散らばる広場を抜け、再び鬱蒼とした森の中へと足を踏み入れた。

 目指すは南西。だが、まずはこの広大な「始原の森」を抜けなければならない。

 帰路は、往路よりもスムーズだった。ニヴェルガンドが倒され、森の律動が正常化したことで、魔物たちの活動が落ち着いていたからだ。襲い掛かってくるのは野生動物程度のものが多く、今の彼らの敵ではなかった。


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 数日後。 一行は森の中で野営をしていた。焚き火を囲み、簡単な食事をとる。


「……なあ、ゼノス」

 燃え上がる炎を見つめながら、リオスが口を開いた。


「南西にいるかもしれない、ゼノスの一族の人たちって、どんな人たちなんだろうな」

 ゼノスは手元の短剣に視線を落としたまま、しばらく沈黙していた。焚き火の光が、彼の獣人特有の彫りの深い横顔を照らし出す。


「……さあな。俺も会ったことはない。婆様以外の一族の顔なんて、記憶の彼方だ」

 彼は、遺跡で見たあの壁画を思い出していた。エルフの管理に抗い、影の力を振るう荒々しい姿。


「だが……少なくとも、ただ怯えて隠れているだけの連中じゃないはずだ。あの映像が本当なら、彼らは何千年も前から、自分たちの力で世界と戦ってきた誇り高い一族だ」

 ゼノスは短剣を鞘に納め、顔を上げた。その瞳は、揺らぐ炎よりも強く輝いていた。


「俺は確かめなきゃならない。俺の中に流れている血が、本当は何を成すためのものなのかを」

「うん。きっと、すごい人たちだよ」

 リーナが焚き火の向こうで微笑んだ。


「だって、南西の方から聞こえる『音』は、すごく力強くて、温かいんだもん。ゼノスの『音』と、どこか似てる気がする」

「……フン。適当なことを」

 ゼノスは照れ隠しのように鼻を鳴らし、ゴロリと横になった。「寝るぞ。明日は森を抜ける」


 翌日。 太陽が中天に差し掛かる頃、周囲の景色が変わり始めた。 巨木が減り、低木や岩場が目立つようになる。湿った土の匂いは薄れ、乾いた風が吹き抜けていく。

 そして、ついに視界が開けた。


「うわぁ……!」

 リオスが声を上げる。 彼らは、長い森の旅を終え、ついに「始原の森」の外縁部に到達したのだ。

 眼下に広がっていたのは、見渡す限りの広大な平原だった。 地図によれば、ここは「レムリア平原」の端、そしてその先には広大な「ヴァリカ平原」が続いているはずだ。


 森に近い場所はまだ緑が残っていたが、南西に進むにつれて大地の色は徐々に赤茶けていき、乾燥した風が土埃を舞い上げていた。豊かだった森とは対照的な、厳しい旅路を予感させる景色だ。

 そして、遥か彼方――霞む視界の先に、噴煙を上げる火山と、それに連なる険しい山々の稜線がうっすらと見えた。


「あれが、大陸の南西端にそびえる『断絶の山脈』ですね」

 エリアスが地図を広げ、遠くに見える噴煙と山影を見比べる。


「地図によれば、常に火山活動が続き、人を寄せ付けない未踏の地とされていますが……」

「ああ。間違いない。あそこだ」

 ゼノスが、エリアスの言葉を遮るように強く断言した。風に髪と獣耳をなびかせながら、遠い山々を睨み据える。

 彼の本能が、あの過酷な環境、人が近づかない「断絶」の地にこそ、同胞たちが隠れ住んでいるのだと告げていた。


「ここからが本番だ。森の中とは勝手が違うぞ。この乾いた風の匂い……平原の魔物は、森のそれより獰猛だ」

 ゼノスの言葉に、リオスは『星喰の剣』の柄を強く握りしめた。


「望むところだ。行こう、みんな。世界の希望が、あそこにあるんだ」

 森の湿った空気を肺から吐き出し、乾いた平原の風を吸い込む。 一行は、苔むした緑の世界に別れを告げ、未知なる広大な大地へと、新たな一歩を踏み出した。

卓上の語り部でございます。

第六十三話『苔むす森の出口、遥かなる平原へ』をお届けいたしました。


長きにわたる「始原の森」での冒険が、ここに一つの区切りを迎えました。 苔むした緑の閉鎖空間から、見渡す限りの赤茶けた大地へ。湿った空気から、乾いた砂埃の舞う風へ。劇的な環境の変化は、彼らの旅が新たなフェーズに入ったことを告げています。


今回のエピソードで特に印象的なのは、ゼノスの変化ではないでしょうか。 かつては自身の血筋を疎ましく思っていた節のある彼ですが、遺跡での真実に触れ、今では一族の誇りを胸に、自らのルーツを確かめるという明確な目的を持っています。焚き火の明かりに照らされた彼の横顔には、これまでとは違う、戦士としての静かな覚悟が宿っていました。


目指すは遥か南西の彼方、噴煙を上げる「断絶の山脈」。 人が近づくことを拒む過酷な地に、彼の同胞「ゲイル・テトラ」の民は本当に隠れ住んでいるのか。そして、リーナが感じた「力強く温かい音」の正体とは。


広大な平原を越える旅路は、森の中とはまた違った危険に満ちています。 いよいよ始まる新章「南西編(ゲイル・テトラ編)」に、どうぞご期待ください。


P.S. 本作の世界観設定や登場人物の紹介、アヴェリアにある大陸の地図などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて公開しております。物語をより深く楽しむための補足情報として、ぜひご活用ください。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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