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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第六十二話『赤き警鐘と、示された希望』

「下がれ! まだ何か来るぞ!」

 ゼノスが短剣を構え、リオスたちを庇うように前に出る。 広間の中央で、円形の装置が低い唸りを上げ続けていた。赤い明滅は激しさを増し、空間そのものが振動し始める。


「『音』が、どんどん大きくなってる……」

 リーナが耳を澄ますように呟いた。


「大丈夫か、リーナ? やっぱり『虚ろ』の気配がするのか?」

 リオスが心配そうに尋ねるが、リーナは首を横に振った。


「ううん、違う。いつもの嫌な感じじゃないの。すごく整った、機械的な大きな『音』……。賢者の塔にあったような、何かの機構からくりが動く音みたい」

 彼女の感覚には、この振動が魔物や「虚ろ」が発する不協和音とは異なる、純粋なエネルギーの奔流として響いているようだった。害意はないが、とてつもない出力だ。

 ブンッ、という低い音が響き、装置の頂部から扇状の光が噴き出した。 それは空中に浮かび上がる、巨大な光の立体映像ホログラムだった。


「これは……地図、ですか?」

 エリアスが警戒を解かずに、光の図を見上げる。 そこに映し出されていたのは、彼らが知るアヴェリア大陸の地形によく似ていたが、海岸線や森の配置が微妙に異なっていた。遥か古代、この遺跡が稼働していた時代の地図だろう。

 地図上には、無数の青白い光の点が脈打っていた。それらは血管のように大陸中に張り巡らされた光の道――おそらくは「地脈」のネットワークで繋がっている。

 そして、その中心。世界のへそとも言うべき場所に、一際巨大な光の塊があった。


「あそこが、世界の中心……」

 リオスが息を呑む。彼らが目指している場所だ。

 しかし、次の瞬間。 地図上の光が、毒々しい赤紫色に変色し始めた。


『警告。警告。第一級管理事態発生。中枢システムにおける律動の淀み、制御限界クリティカル・ポイントを突破』


 どこからともなく、無機質な声が響いた。古代エルフ語だが、エリアスが即座に翻訳する。


「こ、これは……『大崩壊』の記録、その再現映像です!」

 赤紫色の浸食は、瞬く間に中心部を飲み込み、血管のようなネットワークを伝って大陸中へ広がっていく。青白く輝いていた都市や拠点が、次々と赤黒い闇に沈んでいく。


『浄化サブルーチン、応答せず。律動汚染指数は計測不能。これより、当施設を含む全セクターは最終防衛フェーズへと移行。大陸規模の対律動隔離障壁を展開し、汚染領域の局所固定化を試みる――』


 映像は、大陸のほぼ全土が赤黒く染まったところで静止した。


「なんてことだ……。彼らは、自分たちが管理していた律動が暴走し、世界を滅ぼす様を、ただ記録することしかできなかったのか」

 エリアスが呻くように呟き、眼鏡のブリッジを強く押さえた。これが、かつて世界を襲った悲劇の真実。リオスも無言で拳を握りしめる。

 だが、映像にはまだ続きがあった。

 赤黒く染まった絶望的な地図の中で、唯一、異なる輝きを放つ場所が現れたのだ。 それは、大陸の南西の端。険しい山脈と深い谷に囲まれた辺境の地に、力強く脈打つ、黄金色の光点が出現した。


『――修正。未確認の律動反応を検知。座標、南西エリア七ー四。この波長は、管理外の「獣人族」が使用する影の術式に酷似。彼らの特異な位相干渉が、汚染に対抗し得る可能性あり』


 その言葉を聞いた瞬間、ゼノスの目が大きく見開かれた。


「……そうだったのか」

 ゼノスが、呆然としたように呟く。彼が見つめていたのは、数千年前の過去の映像。だが、その光は、わずか十数年前に彼自身が体験した記憶と、強烈にリンクしていた。


「ゼノスさん?」

「婆様の遺言だ。『山脈を越え、南西へ。そこで新たな息吹を見つけよ』……。俺はずっと、単なる安全な避難場所のことだと思っていた」

 ゼノスは拳を握りしめ、地図上で光る南西の一点を睨み据えた。


「だが違ったんだ。古代エルフですら頼った、対抗策。俺たちゲイル・テトラの『源流』とも言える力が、遥か昔から南西にあったんだ。だから婆様は、生き残った一族をそこへ向かわせた」

 ゼノスの瞳に、熱い希望の光が宿る。 北で滅んだ一族の生き残り。彼らはただ逃げ延びたのではない。この古代の記録にある「希望」を求めて、南西の地で再起を図っている可能性が高い。


「親父たちは……生きているかもしれない。そして、そこで今も、世界にあらがっているのかもしれない」


『推奨任務。生存者は南西エリアへ向かい、当該種族と接触。その術式を解析し、汚染浄化の糸口を探れ。これをもって、当施設の最終記録とする』


 プツン、と音がして、音声は途絶えた。 赤黒い地図の映像も消え、広間は再び、青白い燐光だけが照らす静寂に包まれた。


「……示されたな、俺たちの行く先が」

 リオスが剣を鞘に納め、ゼノスに向き直った。


「ああ。南西だ。そこに、世界の危機を救う鍵と、俺の同胞たちがいるかもしれない」

 ゼノスの声には、これまでになかった強い決意と、一族への誇りが込められていた。

 リーナは、まだ少し耳鳴りがしているようだったが、その表情は明るかった。


「うん。行こう。あっちの方角から……すごく懐かしくて、温かい『音』がする気がする」

 彼女の感覚が、その方角に希望があることを告げていた。


 目的は定まった。 一行は、静止した時間の中に佇む古代の遺跡を後にし、新たな希望が待つ南西の地へと足を踏み出すのだった。

卓上の語り部でございます。

第六十二話『赤き警鐘と、示された希望』をお届けいたしました。


苔むした遺跡の深部で起動した、古代エルフの記録装置。それが映し出したのは、数千年前に世界を襲った「大崩壊」の真実でした。彼らの理想郷であった管理社会が、律動の暴走によって赤黒い絶望へと変わっていく様は、現代を生きるリオスたちにとっても衝撃的な光景だったことでしょう。


しかし、その絶望的な記録の中に、一筋の希望の光が残されていました。 大陸の南西、辺境の地で輝いた黄金色の光。それは、エルフの管理外にあった「獣人族」の力でした。


これまで、自らの一族を「禁忌を犯し、滅びを招いた愚か者」だと断じていたゼノス。しかし、祖母が生き残りを南西へと逃がした真意――それが単なる避難ではなく、古代から続く一族の「源流」であり、汚染への対抗策となる希望への回帰であったことを悟りました。彼の中で、一族への誇りが蘇った瞬間です。


北の故郷ではなく、南西の地。そこに、世界の危機を救う鍵と、生き別れた同胞たちが待っているかもしれません。 リーナが感じた「懐かしくて、温かい音」を道標に、一行の旅は新たな局面を迎えます。


次なる舞台は、険しい山脈と深い谷に囲まれた未踏の地。 そこで彼らを待ち受ける出会いとは。そして、「影の術式」の真実とは。


どうぞご期待ください。


P.S. 本作の世界観設定や登場人物の紹介、アヴェリアにある大陸の地図などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて公開しております。物語をより深く楽しむための補足情報として、ぜひご活用ください。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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