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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第五十九話『苔むす遺構と、同化する悪意』

 虹色に輝く死の胞子群を抜け、一行はさらに深く、始原の森の奥へと歩みを進めていた。


「……さっきの胞子といい、この森は『普通』の生物学が通用しませんね」

 エリアスが手帳に走り書きをしながら、感嘆と恐怖が入り混じったため息をついた。 彼らの周囲の景色は、進むにつれてさらにその異様さを増していた。

 樹木はもはや、空を目指して伸びることをやめたかのように、互いに絡み合い、巨大な緑のドームを形成している。その隙間から差し込む光はごくわずかで、真昼であるはずなのに、あたりは夕暮れのように薄暗い。


「足元、気をつけて。この辺り、根が浮いてるわ」

 先頭を歩くゼノスに代わり、感覚を研ぎ澄ませているリーナが、後続のリオスたちに声をかけた。彼女はまだ疲労の色が濃いが、その瞳には確かな自信が宿っている。この森の「音」の聞き方を覚えた彼女は、目に見えない地形の歪みすら察知できるようになっていた。


「助かるよ、リーナ。……っと」

 リオスは足元の苔に隠れた空洞を危うく回避し、冷や汗を拭った。ゼノスのような獣人の身体能力も、リーナのような感知能力もない彼にとって、この森を歩くことはそれだけで命懸けの修行のようだ。


 数時間ほど慎重に進んだ頃だろうか。 不意に、周囲の空気が変わった。

 それまで、むせ返るような植物の匂いと湿気が支配していた空間に、どこか乾いた、冷たい石の匂いが混じり始めたのだ。


「……ん? あれを見ろ」

 ゼノスが足を止め、前方の茂みを顎でしゃくった。

 リオスが目を凝らすと、巨大なシダ植物の葉の陰に、不自然に直線的なシルエットが見えた。 近づいて、絡みつくつたを剣で払いのける。


「これは……石柱、か?」

 そこに現れたのは、大人が三人で抱えても届かないほどの太さを持つ、巨大な石の柱だった。表面はびっしりと厚い苔に覆われているが、その下には精巧な彫刻が施されていた形跡がある。


「間違いない。人工物です。それも、とてつもなく古い」

 エリアスが駆け寄り、震える指先で苔を愛おしそうに撫でた。眼鏡の奥の瞳が、学者の色に染まる。


「見てください、この継ぎ目。石材を組み合わせているのに、紙一枚通らない精度だ。現代の建築技術とは根本的に異なる工法ですよ。これは、間違いなく『大崩壊』以前の……」


「古代文明の遺跡、ってことか」

 リオスがゴクリと喉を鳴らした。 彼らが目指す場所、世界の中心とされるこの地に、かつて高度な文明が存在したという証拠。それが今、目の前にある。


「周りを見てみろ。一つや二つじゃない」

 ゼノスの言葉通り、目を凝らせば、森の至る所に人工物が埋もれていた。 巨木に飲み込まれかけた石壁、半ば土に埋まった階段、何かの祭壇だったと思われる巨大な台座。それらはすべて、圧倒的な植物の生命力によって侵食され、森の一部と同化しつつあった。


「どうやら俺たちは、とんでもない場所に足を踏み入れたみたいだな」

 リオスは周囲を警戒しながら呟いた。 ここは、かつて都市だった場所なのだろうか。あるいは神殿か。いずれにせよ、人の気配は微塵もない。数百年、あるいは数千年という時が、ここを完全な無人の領域に変えていた。


「……静かね」

 リーナがぽつりと漏らした。


「ああ。鳥の声ひとつしないのは相変わらずだが、ここは輪をかけて静かだ。……気味が悪いくらいにな」

 ゼノスの耳が、神経質にピクピクと動いている。 風が止まった。苔の匂いが、急に強くなった気がした。


「先生、あまり離れるなよ。何が出るか分からない」

 リオスが夢中で遺跡を調べようとするエリアスに注意を促した、その時だった。


「――ッ! みんな、伏せて!」

 リーナの鋭い警告が響いた。 とっさに反応できたのは、ゼノスだけだった。彼は瞬時にリオスの襟首を掴んで横に引き倒し、自らも地を転がる。

 次の瞬間。 彼らが先ほどまで立っていた場所に、音もなく「何か」が突き刺さっていた。

 ズンッ、という重く鈍い音が遅れて響き、地面が揺れる。


「なっ……なんだ!?」

 リオスが顔を上げると、そこには巨大な岩塊のようなものが、地面にめり込んでいた。 いや、岩ではない。


「グルルルゥ……」

 低い唸り声とともに、その「岩塊」が動き出した。 表面にびっしりと生えた苔やシダ植物が、ずるりと剥がれ落ちる。その下から現れたのは、岩のような質感の皮膚を持つ、巨大な四足歩行の獣だった。

 体長は五メートルを優に超えるだろう。背中には遺跡の一部と思われる石柱の破片が融合しており、じっと動かなければ、完全に遺跡の一部に見える。


「苔擬き(モス・ミミック)……いや、そんな生易しい相手じゃないな」

 ゼノスが短剣を構え、油断なく距離を取る。 獣の眼窩がんかには眼球がなく、代わりに青白い燐光りんこうが不気味に明滅していた。


「『守護岩獣ガーディアン・ゴーレム』……! まさか、まだ稼働している個体が残っていたなんて!」

 エリアスが悲鳴のような声を上げた。


「ゴーレムだって!? じゃあ、こいつは魔物じゃなくて、古代の兵器か!」

 リオスが『星喰の剣』を引き抜く。剣が、敵の強大なエネルギーに反応して激しく脈打ち始めた。


 古代の遺跡を守る、生ける岩の塊。 それがゆっくりと、侵入者である彼らに向かって、巨大な前足を振り上げた。

卓上の語り部でございます。

第五十九話『苔むす遺構と、同化する悪意』をお届けいたしました。


虹色の胞子の脅威を乗り越え、一行は森のさらに深部へと到達しました。 そこで彼らを待っていたのは、圧倒的な植物の生命力に飲み込まれつつある、古代文明の遺構でした。「大崩壊」以前の高度な石材加工技術の痕跡。世界の中心とされるこの場所に、かつて何があったのか。物語の核心に触れる重要なピースが、ついに姿を現し始めましたね。


また、森の過酷な環境に適応し始めたリーナの頼もしい姿や、いち早く危機を察知して動くゼノスの歴戦の戦士らしい落ち着きなど、キャラクターたちの成長や特性も垣間見える回となりました。

しかし、静寂に包まれた遺跡には、悠久の時を超えて稼働し続ける「守護者」が潜んでいました。 ただの魔物ではなく、エリアスが危惧する古代の防衛兵器「守護岩獣ガーディアン・ゴーレム」。自然の脅威の次は、かつての文明が遺したシステムが彼らに牙を剥きます。


突如として始まった、古代兵器との遭遇戦。 物理的な攻撃が効きづらそうな岩の塊に対し、リオスたちはどう立ち向かうのでしょうか。

次回、激戦必至です。どうぞご期待ください。


P.S. 本作の世界観設定や登場人物の紹介、アヴェリアにある大陸の地図などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて公開しております。物語をより深く楽しむための補足情報として、ぜひご活用ください。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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