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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第六話 『幻影の霧と、賢者の塔』

「……ふん。やるじゃないか、二人とも。だが、安心するのは早い」

ゼノスの言葉通り、崩れ落ちたゴーレムの残骸の奥から、再び低い軋みと、新たなゴーレムの起動を告げる重い足音が響き渡る。


「また来たか!」

リオスが再び剣を構える。だが、リーナがそれを制した。


「待って、リオス!さっきのと同じ!コアを狙えばいい!ゼノス、足止めを!」

「言われるまでもねえ!」

今度はもう、三人に迷いはなかった。 ゼノスが陽動に走り、リオスが足首の関節を破壊して体勢を崩させ、リーナが的確に光の矢でコアを撃ち抜く。二体目のゴーレムは、一体目ほどの苦戦もせず、轟音と共に崩れ去った。


ウィスパーウッドから逃れて数日。食料も水も底を尽きかけていた。村を襲われ、ろくな準備もできずに飛び出した三人は、その後、道中にある人里離れた狩人の小屋や、放棄された薬草師の隠れ家を転々とし、最低限の物資をかき集めていた。しかし、それも限界に近づいていた。


しかし、試練は終わらなかった。 ゴーレムを倒してから、さらに三日が過ぎた。古の道は、まるで侵入者の心を試すかのように、その様相を変えていく。今は、視界を白く染め上げる濃い霧が三人の行く手を阻んでいた。湿度で張り付く服が不快で、何より、精神がじわじわと削られていくようだった。


「鬱陶しい霧だ! 払い切れない!」

リオスが霧を剣で薙ぎ払うが、霧は晴れるどころか、まるで意思を持つように彼の周りにまとわりつく。その時、霧の中に、見間違えるはずのない人影が浮かび上がった。


「……じい、さん……?」

それは、ウィスパーウッドの村長、グランだった。だが、その表情は穏やかなものではなく、深い悲しみを湛えてリオスを見つめている。


『リオス……なぜ、見捨てた……。なぜ、リーナだけを……』


「うるさい!」

リオスが幻影に向かって思わず剣を振り上げる。 その頃、リーナもまた、存在しないはずの母親の姿に足を止め、恐怖に凍りついていた。


『リーナ、もうやめなさい。お前の探究心が、みんなを……』

唯一、ゼノスだけが顔をしかめていた。彼の目には、グランもリーナの母親も映っていない。ただ、目の前でリオスが虚空に向かって剣を振り上げ、リーナが何かに怯えて立ち尽くしている、異常な光景だけが見えていた。


「リオス、何をやってる! 止まれ!」

ゼノスが背後からリオスの腕を掴んで止める。


「離せ! じいさんが……!」

「幻だ! 何もいない!」

ゼノスの現実的な叫びが、リーナの心を殴りつけた。


(幻……? でも、お母さんが……)

リーナは震えながらも、目の前の幻影と、ゼノス、そして霧そのものを見比べた。


(待って……この霧、ただの霧じゃない。私、この古文書の一部を、まだ完全に読み解けていなかったのかもしれない……。あの時、地図が光った時、古代の道の情報と一緒に、こんな一節も漠然と感じていた。『古の防衛機構は、侵入者の精神を揺さぶるすべを持つ。幻影は、心の揺らぎを糧に強大となる』……。まさか、この霧がその『術』なの?! この古の道は、すべてが古代の『仕掛け』。ゴーレムが『炉心』を持っていたように、この霧にも、必ず発生源があるはず……!)

その知識の断片が、脳裏で繋がった。


「ゼノス、リオス、聞いて! これは古代の機構からくりよ! 私たちの記憶を読み取って、一番弱いところを突いてくる精神干渉だわ!」

リーナの必死の言葉に、リオスは目を見開く。目の前のグランの幻影が、苦悶の表情で霧の中へと消えていった。


「……悪い。俺は……」

「謝罪は後だ」

ゼノスがリオスの肩を叩く。


「リーナ、どうすればこの霧を止められる? 発生源はどこだ!」

「わからない……でも!」 リーナは必死に思考を巡らせる。 「これはゴーレムと同じ古代の『仕掛け』のはず! だとしたら、あのゴーレムに『炉心コア』があったみたいに、この霧にもエネルギーを送る中心があるはずよ!」

「中心だと? この霧のどこに……」

リオスが戸惑う中、リーナは目を閉じた。 彼女の血筋――『鍵』としての感覚が、研ぎ澄まされていく。世界を流れる微かなエネルギーの流れを、彼女は「視る」ことができる。


「……感じる。霧のエネルギーは、ランダムじゃない。一方向から流れてきてる……違う、一点から広がってる! ずっと奥……あそこよ! 霧の中心で、何かが強く光ってる! きっと、水晶か何かがある!」

「よし、それだ!」

ゼノスが叫ぶ。


「行くぞ! リーナを中央に! 二人とも、絶対に手を離すな!」

リオスは自分の心の弱さを振り払うように、リーナの震える手を強く握りしめた。


幻影の霧を抜けた後も、道は続いた。食料は尽きかけ、水筒の底も見えている。リオスの剣を握る手は豆が潰れて血が滲み、リーナはゼノスに肩を借りなければ、もはや一歩も歩けないほど消耗していた。


(本当に、この道は合っているのか……)

三人の誰もが口には出さない疑念が、重くのしかかった、その時だった。

不意に、目の前の歪んだ木々が、まるで舞台の幕が開くかのように左右に分かれた。視界が開け、強烈な光に三人は思わず目を細める。


――そこに、塔が立っていた。


天を突くようにそびえ立つ、白磁の巨塔。疲労でかすむ目に飛び込んできたその光景は、あまりにも現実離れしており、三人は息を飲むことさえ忘れて立ち尽くした。


塔の入り口には、巨大な扉があったが、取っ手も鍵穴も見当たらない。まるで、一枚岩の壁のようだ。 リーナが、何かに導かれるようにおそるおそる扉に近づき、淡く光を帯び始めた自分の右の掌を、そっと扉の表面に押し当てた。


すると、塔全体が共鳴するように低い音を立て、リーナの手のひらが触れた場所から、光の紋様が波紋のように広がっていく。 やがて、巨大な扉は音もなく内側へと滑り込み、三人分の通路を開いた。


塔の内部は、外見以上に三人を驚かせた。 薄暗い闇ではなく、どこからか差し込む柔らかな光に満ち、空気が澄んでいる。壁面には未知の金属でできた書架が天井まで続き、そこには巻物や書物ではなく、薄い水晶の板がびっしりと納められていた。


「……待っていたぞ、古の『鍵』を継ぐ娘よ」


凛とした、それでいてどこか懐かしい響きを持つ声が、広間の中央から聞こえた。 そこに、一人の老人が立っていた。長い白髪と白髭を蓄えているが、その背筋はまっすぐに伸び、瞳には悠久の時を生き抜いてきたかのような、深い叡智の光が宿っている。


リーナは息をのむ。疲労困憊の旅路と、自分のせいで村が襲われた記憶が蘇り、声が出ない。 そのリーナを守るように、リオスが剣の柄に手をかけ、一歩前に出た。


「……あんたが、この塔の賢者か。俺たちは、ウィスパーウッドのグランじいさんに言われてきた。あんたは、リーナのことを知っているのか!」

ゼノスもまた、短剣の柄から手を離さず、老人の一挙手一投足を見逃すまいと全身の神経を研ぎ澄ませていた。 老人はリオスの敵意にも動じず、ただ静かにリーナを見つめている。


「そう警戒するな、若き戦士よ。その娘の血筋がここへ辿り着くことも、そのために払われた犠牲も、すべて承知している」

「なに……?」

リオスとリーナが、驚きに目を見開く。


「わしはこの塔の『守護者』、アルキデウス。そして、君たちが知りたがっている『厄災の律動』の、最初の観測者だ」


三人の旅路は、一つの終着点に辿り着いた。だがそれは、真実への扉が開いたに過ぎない。古の『鍵』を継ぐ者たちと、最後の守護者。彼らが織りなす物語は、今、新たな局面を迎えようとしていた。

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