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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第五十話『共鳴する魂、目覚めの胎動』

「――森を、いじめないで」


 少女の悲痛な叫びは、轟音にかき消されることなく、戦場の空気を震わせた。 次の瞬間、リーナが掲げた碧色の結晶石から、爆発的な光の奔流が解き放たれた。


 カッ――――!!


 それは、目を焼くような閃光でありながら、どこか優しく、清浄な気配を纏っていた。 光の波紋はリーナを中心に広がり、迫りくる腐敗の瘴気を押し返していく。


「グォォォォォォォ……ッ!?」


 光を浴びたニヴェルガンドが、苦悶の咆哮を上げた。 翼を覆っていた粘液の膜がジウジウと音を立てて蒸発し、体表のタールが焼けただれていく。アンデッドや不浄な存在にとって、この純粋な生命の律動は猛毒に等しいのだ。


「す、すごい……。彼女の意志が、結晶石の力を極限まで引き出しているのか!」

 エリアスが目を丸くする。彼もまた、光を浴びて体力が回復していくのを感じていた。肌を刺していた不快な波動が消え、呼吸が楽になる。

 そして、その光は絶望の泥沼に沈みかけていたリオスの元にも届いた。


「……っ」

 リオスは、温かい光の中で意識を取り戻した。 全身の骨がきしみ、内臓が悲鳴を上げている。体は鉛のように重い。

 だが、心臓だけが、熱く、激しく脈打っていた。 リーナの声が、光が、冷え切っていた彼の魂に火をつけたのだ。


(……そうだ。俺は、何に怯えていたんだ)

 幻影に見せつけられた「無力な自分」。過去の暴走のトラウマ。「力を制御できず、仲間を傷つけるかもしれない」という底知れぬ恐怖。 それらがブレーキとなり、無意識のうちに剣の「飢え」を拒絶していたのだと、今の彼には理解できた。


(守れない、だって? 違う!)

 リオスは震える腕で地面を押し、よろめきながら立ち上がった。 視界がぐらつく。だが、その瞳は真っ直ぐに、苦しむ巨大な龍を見据えていた。


(守るんだ。暴走への恐怖も、己の弱さも、全部まとめて飲み下してやる。あの小さな手を守るためなら、俺は喜んでこの身を喰らわせてやる!)


 恐怖というブレーキを、覚悟というアクセルが上回った瞬間だった。


「エリアス! 援護してくれ! もう一度あいつの懐に飛び込む!」

 リオスの叫びに、エリアスがハッと我に返り、覚悟を決めたように頷く。


「……分かりました! 私の持てる全ての錬金術で、あなたの道をこじ開けます!」

 エリアスは懐から、普段は使わない特殊なフラスコを複数取り出し、同時に投げ放った。


「視界と聴覚、そして足元を奪います! 喰らいなさいッ!」

 ヒュン、ヒュン、と空を切ったフラスコが、ニヴェルガンドの顔面と足元で次々と炸裂した。


 カッ! ドォォォォン!!


 眼球を焼くごとき強烈な閃光と、鼓膜を引き裂く爆音が同時に発生し、龍の感覚を麻痺させる。 さらに、足元で砕けたフラスコからは急速に白い泡が膨れ上がり、瞬時に硬化して腐敗した地面ごと龍の脚部を拘束した。


「グゥォォォォッ!?」

 感覚を狂わされ、足を取られた巨体が大きくよろめく。


「今だッ!」

 リオスは地面を蹴った。痛みが全身を駆け巡るが、それを無視して加速する。 背中の『星喰の剣』が重い。だが、その重みは、もうただの鉄塊のものではない。


(喰らえ、相棒! 俺の全てを力に変えろ!)

 リオスは魂を込めて、剣を龍の脚関節に叩きつけた。


 ドクンッ!


 その瞬間、リオスの精神力が注ぎ込まれた剣が、呼応した。 鈍色だった刀身の表面で、血管のような赤黒い紋様が、まるで生き物のように激しく脈打ち始めたのだ。


 ズガァァァァァンッ!!


 先ほどとは違う、重く鈍い衝撃音。 脈動する剣の刃が、骨の装甲を砕き、分厚いタールの層に食い込んだ。


「ギィィィィィィァァァッ!!」

 ニヴェルガンドが絶叫し、大きく体勢を崩した。 関節を破壊された巨体が、ズズンと地響きを立てて傾く。

 リオスは反動で後方に転がったが、すぐに膝立ちで体勢を整えた。 肩で息をしながら、手の中の剣を見つめる。

 柄に埋め込まれた赤い宝石が、かつてないほど強く、熱い輝きを放っている。 それは、長く沈黙していた相棒が、リオスの覚悟に応え、本来の力を取り戻すための胎動を始めた証だった。

卓上の語り部でございます。

第五十話『共鳴する魂、目覚めの胎動』をお届けいたしました。


絶望の泥沼に沈みかけていたリオスを呼び戻したのは、リーナの魂の叫びと、それに呼応した結晶石の清浄な光でした。その温かい光の中で、リオスは己の心を縛り付けていたブレーキ――過去のトラウマと恐怖――を、「守りたい」という強い覚悟で乗り越えました。


そして、エリアスの持てる技術を総動員した決死の援護が、道を切り開きます。 その熱意に応えたのは、『星喰の剣』でした。リオスの精神力が注ぎ込まれ、長く沈黙していた魔剣が、ついに赤黒い脈動を開始しました。これはまだ青白い輝きを放つ完全な覚醒ではありませんが、確かな「目覚めの胎動」です。


巨体は傾きましたが、腐敗の邪龍ニヴェルガンドはまだ倒れていません。 しかし、反撃の狼煙のろしは上がりました。

次回、この死闘の決着を、どうぞご期待ください。


P.S. 本作の世界観設定や登場人物の紹介、アヴェリア大陸の地図などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて公開しております。物語をより深く楽しむための補足情報として、ぜひご活用ください。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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