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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第四十四話『共鳴する光、孤高の影』

洞窟内は、碧色の結晶石が放つ脈動する光と、耳鳴りのような高い共鳴音に支配されていた。


「くっ……なんだ、この圧力は!」

リオスは顔をしかめ、後ずさりそうになる体を必死に支えた。結晶石の周囲には目に見えないエネルギーの奔流が渦巻いており、不用意に近づく者を拒絶しているようだ。


「信じられない……。この石自体が、周囲の『律動』を吸収し、増幅して放出している。これほどのエネルギー密度、人の身で触れればただでは済みません!」

エリアスが手帳で顔を覆いながら、興奮と恐怖が入り混じった声で叫ぶ。学者の本能が危険を告発していた。

だが、ただ一人、リーナだけはその理の外にいた。


「……大丈夫。怖くないよ」

彼女は夢遊病者のように、うわ言を呟きながら、そのエネルギーの渦の中心へと歩みを進めていく。その瞳は光を反射して碧く輝き、焦点が合っていない。


「おい、リーナ! やめろ!」

リオスが彼女の肩を掴んで引き戻そうとした。 その瞬間、バヂィィンッ! という強烈な衝撃が走り、リオスの体は弾き飛ばされた。


「ぐぁっ!」

苔むした地面に背中を打ち付けたリオスが見たのは、光の奔流に包まれながら、ゆっくりと結晶石に手を伸ばすリーナの姿だった。

彼女の細い指先が、結晶石の表面に触れる。


カッ――!!


視界を白く染め上げるほどの閃光が炸裂した。リオスは反射的に目を閉じる。

光の中で、リーナは「視て」いた。


――かつての、美しい森の姿を。 太陽の光が差し込み、精霊たちが歌い、巨木たちが穏やかに律動を奏でていた時代。古代エルフたちが、この場所で何かを守り、祈りを捧げていた光景。


そして、破滅の始まりを。 空が歪み、黒い「何か」が森を侵食していく。木々の歌は悲鳴に変わり、生き物たちは狂気に囚われ、姿を変えられていく。


『――助けて――』


無数の声なき声が、リーナの頭の中に直接響き渡った。それは森そのものの、悲痛な叫びだった。


「……はぁっ!」

光が収束し、リーナは糸が切れた人形のように崩れ落ちた。


「リーナ!」

リオスが駆け寄り、彼女を抱き起こす。彼女は気を失っているようだが、呼吸はあった。そして、その右手には、あの碧色の結晶石がしっかりと握られていた。先ほどまでの荒れ狂うエネルギーは嘘のように収まり、今は静かで温かい光を放っている。


「……どうやら、彼女が『鍵』だったようですね」

エリアスが安堵と驚愕の入り混じったため息をついた。


「これで、我々は一つの希望を手に入れたのかもしれません。ですが……」

彼らの視線は、洞窟の外、依然として不気味な静寂に包まれた森の闇へと向けられた。


          ◇


同時刻。森の別の場所。


「くっ……。まったく、しつこい客だ」

ゼノスは泥だらけになりながら、茨の道を転がるように駆けていた。息は上がり、全身傷だらけだが、その足取りはまだ力強い。


ドォォォン! バキベキィッ!


背後から、木々をなぎ倒し、地響きを立てて迫りくる破壊の音が聞こえる。あの植物化した異形の怪物は、執拗にゼノスの後を追ってきていた。


(図体ばかりデカいと思っていたが、鼻が利く。それに、この異常なタフさ……まともな生物の範疇を超えているな)

ゼノスは走りながら、冷静に状況を分析していた。まともに戦えば勝ち目はない。彼の役割は、あくまでリオスたちを逃がすための時間稼ぎだ。

彼は前方に、二本の巨木が絡み合ってできた狭い隙間を見つけた。


「……ここか」

ゼノスは速度を上げ、その隙間に滑り込んだ。 直後、凄まじい衝撃音が響き渡る。


グォォォォォッ!!


怪物が隙間に体をねじ込もうとして、挟まってしまったのだ。巨大すぎる体躯が仇となった。怪物は咆哮を上げ、抜け出そうともがくが、絡み合った巨木はびくともしない。


「……フン。少しは頭を冷やすといい」

ゼノスは短く鼻を鳴らし、動けない怪物に、腰のベルトから引き抜いた投擲用の刃を一本投げつけた。刃は怪物の鼻先に深々と突き刺さる。怪物がさらに激昂して暴れるが、ゼノスはその隙に、素早くその場を離脱した。


(これで少しは時間が稼げるはずだ。だが……)

彼は追跡を振り切った安堵感よりも、深まる森の闇への警戒心を強めていた。 逃走中に垣間見た森の奥は、木々のねじれ方がさらに酷くなり、空気そのものが澱んでいるように感じられた。


(先生の言っていた「異常な植生」というやつか。この先には、あの化け物以上の「何か」が待ち構えている気がしてならない)


ゼノスは投げた刃を回収することなく、自身の直感を信じて、リオスたちが向かったであろう方向とは別の、さらに深い闇へと足を踏み入れた。 彼らを追う敵の目を、完全に欺くために。

卓上の語り部でございます。

第四十四話『共鳴する光、孤高の影』をお届けいたしました。


今回は二つの視点で物語が進行しました。

一方、リオスたちは。 強大なエネルギーを放つ謎の結晶石に対し、リーナが奇妙な「共鳴」を起こしました。彼女だけが拒絶されることなく光の中心へと進み、その手に結晶石を収めることができました。その際、彼女が垣間見た「森の記憶」のようなヴィジョン。かつての美しい姿と、それを侵食する黒い何か。そして聞こえてきた「助けて」という悲痛な叫び。この森で一体何が起きているのか、その核心に触れる重要な手がかりとなりそうです。


もう一方、ゼノスは。 執拗に追ってくる異形の怪物を相手に、老練な傭兵らしい戦いぶりを見せました。地の利を活かして怪物の足止めに成功しましたが、彼自身の消耗も激しいはずです。それでも、仲間の安全を第一に考え、あえて別の方向へと進む彼の背中には、孤高の覚悟が滲んでいました。

手に入れた「希望」の光と、森の深淵に潜む「絶望」の影。 物語はここから、さらに加速していきます。 次回の展開も、どうぞご期待ください。


P.S. 本作の世界観設定や登場人物の紹介、アヴェリア大陸の地図などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて公開しております。物語をより深く楽しむための補足情報として、ぜひご活用ください。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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