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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第三十一話『地下に眠る歪み、狂学者の遺言』

エリアスの案内で通されたのは、華やかなエントランスホールの裏側にある、目立たない職員用通路だった。その突き当たりにある重厚な鉄扉を、エリアスが複雑な鍵と、掌をかざす奇妙な認証装置を使って開錠する。


「ここから先は、研究院の公式な記録には載っていない場所です。足元に気をつけて」

扉の向こうには、暗い螺旋階段が地下深くへと伸びていた。 一歩降りるたびに、空気が冷たく、湿っぽくなっていく。そして、リオスの耳に届いていた低い機械音が、次第に明確な振動へと変わっていった。


「……おい、この音」

リオスが眉をひそめる。それは、かつてゲイル・テトラの地下実験場で聞いた、古代の装置が稼働する音に酷似していた。だが、それよりもずっと大きく、どこか苦しげな響きを帯びている。


「気づきましたか。この研究院の地下には、古代遺跡から発掘された大規模な『律動機関』が埋まっているんです。王都の特別区画に動力を供給している心臓部ですよ」

エリアスが涼しい顔で説明する。


「……やはり、『律動』という言葉を知っているのか」

ゼノスが低い声で呟く。この国の知識層トップは、世界の根源たるエネルギーの名を正確に把握していたのだ。


「そんなものが、街の地下に……」

リーナが不安げに周囲を見回す。階段の壁は、途中、石造りから、継ぎ接ぎだらけの金属壁へと変わっていた。古代の遺構に、現代の人間が無理やり設備を増設したような、歪な構造だ。


やがて階段が終わり、開けた空間に出た。 そこは、巨大な地下空洞だった。天井には太いパイプや配線が血管のように張り巡らされ、所々から蒸気が噴き出している。そして、空間の中央には、見上げるほど巨大な円筒形の装置が鎮座し、不気味な青白い光を明滅させていた。


「うっ……!」

その空間に足を踏み入れた瞬間、リーナが口元を押さえてしゃがみ込んだ。


「リーナ!?」

「大丈夫……でも、ここ、空気がすごく淀んでる……気持ち悪い」

リーナだけではない。リオスもまた、心臓を鷲掴みにされたような圧迫感を感じていた。背中の星喰の剣が、鞘の中でカタカタと震え出す。


「……『虚ろ』の気配だ」

ゼノスが短剣を抜き、周囲を警戒する。 華やかな王都の地下深く。そこは、地上のどこよりも濃密な、世界の歪みが吹き溜まる場所だったのだ。


「おや、あなたたちも感じますか。この不快な圧力を」

エリアスは平然としていたが、その目は油断なく周囲を観察していた。


「この区画は、常に原因不明の『律動障害』が発生していましてね。作業用の自律人形オートマタが暴走したり、職員が体調を崩したりする。だから『封印区画』なんです」


その言葉を裏付けるように、通路の隅で、配線が剥き出しになった無骨な作業用機械人形が、壁に何度も頭を打ち付けながら火花を散らしていた。


「……狂ってるな、この国は。こんな爆弾を抱えて平然としていやがる」

ゼノスが吐き捨てるように言う。


「同感ですね。ですが、我々は学者だ。あるものを利用し、研究するのが仕事です。……さあ、こちらへ。『狂気の古代学者』の部屋は、この奥です」

エリアスに促され、三人は歪んだ空気に耐えながら、巨大な機関の横を通り過ぎた。 案内されたのは、機関室の隅にある、分厚い金属製の扉の前だった。扉には、奇妙な紋様が刻まれた石板が嵌め込まれている。


「ここが、エルヴィン・クロフォードの最後の研究室です。没後、彼の資料は全てここに押し込められ、封印されました」

エリアスが石板を指差す。


「この扉には、古代語による封印が施されています。研究院でも解読できた者はごくわずか。……さて、君たちに解けますか?」

エリアスが試すような視線を向ける。リーナが前に進み出て、石板の文字を目で追った。


「……これは、古代エルフの防衛機構の応用ね。『知恵ある者のみが、真実の扉を開く』……合言葉は……」

リーナが小さく、流暢な古代語を呟いた。すると、石板が淡い光を放ち、重い金属音がして扉のロックが解除された。


「……お見事。試すような真似をして失礼しました。やはり、テオドール氏が寄越しただけのことはある」

エリアスは満足げに微笑み、扉を開け放った。


部屋の中は、倉庫のようだった。埃を被った書物や羊皮紙、そして奇妙な形の古代遺物のパーツで埋め尽くされていた。壁には、狂気じみた筆致で複雑な計算式や図面がびっしりと書き殴られている。

リーナが埃を払いながら、机の上に積み上げられた資料を慎重に手に取る。


「……すごい。これ、全部古代語の解読記録だわ。それに、古代のエネルギー理論に関する独自の考察も……」

彼女は地下実験場で手に入れた『律動の再誕』の書物を取り出し、エルヴィンの資料と照らし合わせ始めた。リオスとゼノスは、邪魔にならないよう入り口で見守る。エリアスは、興味深そうにリーナの手元を覗き込んでいた。


しばらくして、リーナの手が止まった。一冊の古びた手記の前で、彼女の顔色が変わる。


「……見つけた。これが、エルヴィンさんが到達した『真実』……!」

「何が書いてあるんだ?」

リオスが尋ねると、リーナは震える声で手記の内容を読み上げ始めた。


「『……王国の繁栄は、砂上の楼閣である。地下の古代機関は、地脈から無理やり律動を搾り取っているに過ぎない。その触媒として、彼らは大量の星晶石を投入しているが、それは破滅への加速装置だ』」


リーナは一度言葉を切り、息を整えた。


「『星晶石を用いた強制的な律動抽出は、周囲の地脈を疲弊させ、律動の循環を阻害する。流れを失った律動は淀み、腐敗し、やがて世界を蝕む黒い腫瘍――すなわち『虚ろ』へと変貌するのだ』」


その言葉に、狭い部屋の空気が凍りついた。


「……なんだと?」

リオスが低い声で唸る。


「つまり……この国は、『虚ろ』が発生する原因を知りながら、自分たちの繁栄のために、それをやり続けているってことか!?」

「そういうことになりますね」

答えたのはエリアスだった。彼は手記の内容を聞いても、冷静さを崩さなかった。まるで、自身の推測が正しかったことを確認しているかのような、冷徹な納得がそこにあった。


「王都で囁かれる『神隠し』。あれは、この地下から漏れ出した『虚ろ』の影響で消滅した作業員や、あるいは秘密を知ってしまった者の末路……といったところでしょう。……やはり、そうでしたか」

「お前ら……よくも平然と!」

激昂したリオスがエリアスの胸倉を掴みかかる。だが、ゼノスがそれを制した。


「よせ、リオス。こいつに当たっても意味はない」

「でもよぉ!」

「重要なのは、真実を知ったということだ。……エルヴィン・クロフォード。彼は狂人などではなかった。誰よりもこの国の、いや世界の危機を正確に理解していたのだ」

ゼノスの言葉に、リオスは悔しげに拳を握りしめ、手を離した。


「……手記には、続きがあるわ」

リーナが再び手記に視線を落とす。そこには、震える文字で、最後の希望が記されていた。


「『私の理論が正しければ、淀んだ律動を浄化し、正常な循環を取り戻す方法がある。古代エルフが遺した最終理論……『律動の再誕』。その鍵となる術式を、私はここに記す』」

リーナが顔を上げ、強く頷いた。


「……解読できる。この手記を参考にすれば、あの地下実験場で見つけた古代の書物の難解な部分も、きっと!」

希望の光が見えた。その時だった。


ジリリリリリリッ――!


突如、部屋の外でけたたましい警報音が鳴り響いた。


「おや、見つかってしまったようですね」

エリアスが肩をすくめる。


「侵入者検知の警報です。どうやら、長居しすぎたようだ。……さあ、急ぎましょう。ここを封鎖されたら、二度と地上には戻れませんよ」

彼らはエルヴィンの手記と重要な資料を鞄に詰め込むと、部屋を飛び出した。 警報が鳴り響く地下空間。蒸気が噴き出し、赤い回転灯が不気味に明滅する中、リオスたちの脱出劇が始まった。

さて、卓上の語り部でございます。

第三十一話『地下に眠る歪み、狂学者の遺言』、お読みいただき誠にありがとうございます。


華やかな王都アスティラの地下に隠されていたのは、おぞましい真実でした。 国を支える巨大な律動機関。しかしそれは、星晶石を触媒にして地脈から無理やりエネルギーを搾り取り、「虚ろ」を生み出す発生源そのものだったのです。 「神隠し」の真相、そして王国の繁栄の裏にある巨大な歪み。エルヴィン・クロフォードが命懸けで遺した手記は、リオスたちに衝撃的な事実を突きつけました。


しかし、絶望だけではありません。エルヴィンの手記には、あの地下実験場で手に入れた難解な書物『律動の再誕』を解読するための鍵が記されていました。過去の遺志が、現代の希望へと繋がった瞬間です。


そして鳴り響く警報音! 侵入が発覚し、事態は急変します。果たしてリオスたちは、この危険な地下空間から、重要な資料を持って無事に脱出することができるのでしょうか。 緊迫の脱出劇が始まります。次回もどうぞご期待ください。


ps. 今回、物語の核となった古代学者エルヴィン・クロフォード。彼の研究の断片や、アヴェリアの世界設定に関する情報は、我々の拠点「Table Talker's Log」にて一部公開されております。 物語の背景をより深く知りたい方は、ぜひチェックしてみてください。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。


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