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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第二十八話『束の間の安息、胎動する力』

激闘の熱が冷めやらぬ地下実験場に、重苦しい沈黙が戻っていた。

崩れた石材や破壊された実験器具の残骸が、先刻までの戦いの激しさを物語っている。


リオスは、リーナに膝枕をされる形で横たわっていた。全身が鉛のように重く、指一本動かすのも億劫だった。だが、高熱は引き始めており、意識ははっきりとしていた。


「……ん、リーナ……?」

リオスが掠れた声で名を呼ぶと、不安げに彼の顔を覗き込んでいたリーナの表情が、安堵に崩れた。


「よかった……気がついたのね。まだ無理はしないで」

リーナの手が、優しくリオスの額の汗を拭う。その手は少し震えていた。


少し離れた場所で、ゼノスが壁に背を預けて座り込んでいた。彼もまた相当な消耗をしており、顔色は悪い。だが、その瞳は油断なく周囲を警戒していた。


「目覚めたか、怪物め。一時はどうなることかと思ったぞ」

ゼノスが憎まれ口を叩くが、その声には隠しきれない安堵が含まれていた。


「へへ……心配かけたな。……なぁ、俺は、どうなってたんだ?」

リオスは自身の右手を目の前にかざし、握りしめた。 記憶が曖昧だった。グラハムの歪んだ空間に突っ込んだあたりから、意識が霧がかかったようになり、ただ強烈な「飢え」だけが体を支配していたような感覚。


「覚えていないのか? お前は……あの調律者の空間支配すらも、喰らい尽くしたんだ」

ゼノスが、リオスの傍らに転がっていた星喰の剣に視線を向ける。今はただの古びた剣に戻っているが、先ほどまで放っていた異質な威圧感は、ゼノスの脳裏に焼き付いていた。


「お前のその力は、『律動』そのものを捕食する。一歩間違えれば、お前自身が『虚ろ』よりもタチの悪い災厄になりかねん。……自覚しておけ」

ゼノスの厳しい言葉に、リオスは息を呑んだ。体の奥底で、まだ何かが小さくうごめいているような、不気味な胎動を感じる。これが、覚醒の代償なのか。


「大丈夫よ。私がついているわ」

不安げなリオスの手を、リーナが両手で包み込んだ。


「私が『導き手』として、あなたのその力を正しい方向へ導く。だから、怖がらないで」

リーナの瞳には、以前のような迷いはなかった。彼女もまた、この戦いで覚醒したのだ。


「……ああ。頼りにしてるぜ、リーナ」

リオスはリーナの手に力を込め返し、体を起こした。まだ目眩めまいがするが、寝てばかりもいられない。


「長居は無用だな。グラハムがいつ戻るとも限らん」

ゼノスが立ち上がり、三人は体勢を整え、崩壊した実験場を後にした。


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数日後。彼らは満身創痍の体を引きずりながら、なんとか麓の街ストーンクリークにあるテオドールの館へとたどり着いた。


「なんと……まさか、人が立ち入れぬ『聖なる樹海』の奥に、そのような場所があったとは……」

温かいスープと休息を提供してくれたテオドールは、リオスたちの報告を聞き、驚きを隠せない様子だった。


「ええ。そして、これがその場所で見つけた書物です」

リーナが、大切に持ち帰った『律動の再誕』の書物をテーブルに広げる。だが、テオドールはその難解な古代語と複雑な術式を見て、難しそうな顔で首を振った。


「すまないが、私には荷が重い。これは、現代の古代文明に関する知識体系とは根本的に異なるものだ。解読には、専門的な知識と膨大な時間が必要だろう」


「やっぱり、そうか……」

リオスががっくりと肩を落とす。命懸けで手に入れた希望の書だが、自分たちにはそれを扱う知識がない。アルキデウスもいない今、完全に手詰まりだった。


沈痛な空気が流れる中、テオドールがふと、何かを思い出したように顎髭を撫でた。


「……ふむ。そういえば、遠い昔の話だが。アストラル王国に、古代エルフ文明の研究に生涯を捧げた、高名な学者がいたと聞いたことがある」


その言葉に、リーナがハッと顔を上げた。

「アストラル王国の、学者……?」

「うむ。名前は確か……クロフォードだったか。彼が遺した研究資料なら、あるいはこの難解な書物を解読する糸口になるかもしれん」

「……! その方の名前、もしかして『エルヴィン・クロフォード』ではありませんか?」


リーナが身を乗り出す。テオドールは驚いたように目を丸くした。


「おお、そうだ。確かそのような名だった。リーナ殿はご存知で?」

「ええ。私は以前から古代文明について独自に研究していたのですが、その過程で、彼の著作や論文の写しを目にしたことがあります。古代技術史学の権威とされていました」

リーナの言葉に、リオスとゼノスの視線が集まる。


「彼自身の研究がどこまで真実に迫っていたかは分かりません。もう故人でしょうし、資料が王都に残っている保証もない。……けれど」

リーナは拳を握りしめ、リオスとゼノスを見た。


「今、私たちがすがりつける可能性は、それしかないわ」

確証はない。だが、他に道はない。わらにもすがる思いだった。


「……決まりだな」

リオスが立ち上がり、星喰の剣を握りしめた。体の奥の「飢え」はまだ静かだが、いつ暴れだすか分からない。一刻も早く、この力の正体と制御法を知る必要があった。


「次の目的地は、アストラル王都だ。そのエルヴィンって学者の遺産を探し出して、絶対にこの書物を解読してみせる」


「やれやれ。また厄介な旅になりそうだな」

ゼノスが肩をすくめるが、その口元には微かな笑みが浮かんでいた。


方針は決まった。彼らはストーンクリークで束の間の休息を取り、傷を癒やすと、新たな希望を求めてアストラル王国へと旅立つ準備を始めた。

さて、卓上の語り部でございます。

第二十八話『束の間の安息、胎動する力』、お読みいただき誠にありがとうございます。


激戦の後の、つかの間の休息。しかし、その空気は決して穏やかなだけではありませんでした。


覚醒したリオスの力。それは「律動を捕食する」という、強力ですが非常に危うい性質のものでした。ゼノスの警告通り、一歩間違えれば彼自身が新たな災厄になりかねない。体内で蠢く「飢え」の胎動は、今後の物語にどう影響してくるのでしょうか。


そして、命懸けで手に入れた希望の書『律動の再誕』。しかし、古代の英知はあまりに難解すぎました。頼れる賢者もいない今、彼らは完全に手詰まり……かと思われました。


そこで差し伸べられたテオドールの助言、そしてリーナの記憶。一筋の光明が、彼らを次なる舞台へと導きます。 目的地は、ついに世界の中心、アストラル王都。これまでの辺境の旅とは違う、巨大な都市での冒険が始まります。未知なる巨大都市で、彼らは何を見るのか。新章にご期待ください。


ps. 今回、物語の中で名前が挙がった古代学者「エルヴィン・クロフォード」。 実は、彼が遺した研究記録の一部と思しきものが、我々の拠点「Table Talker's Log」にて公開されております。本編の背景をより深く知ることができる内容となっておりますので、ぜひご一読ください。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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