表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/36

第三話 『灰色の旅路と、賢者の塔』

夜が明けても、ウィスパーウッドから立ち昇る煙は、天を黒く染め続けていた。 丘の上で、三人は言葉もなく、夜通し故郷が燃え尽きていくのを見つめていた。 悲しみは、あまりに深すぎて涙にすらならず、ただ冷たい絶望となって胸に突き刺さっている。


最初に沈黙を破ったのは、ゼノスだった。

「……行こう。ここにいても、奴らが戻ってくるだけだ」

彼の声は、感情を押し殺したように低く、乾いていた。 その現実的な言葉に、リオスは燃え盛る故郷から、無理やり視線を引き剥がす。

「……ああ。行かなきゃ、な」

リオスは、膝を抱えて自分の鞄をきつく握りしめているリーナの隣にしゃがみ込んだ。 彼女の体は、時折かすかに震えているだけだった。

「リーナ、行けるか?」

リーナは返事をせず、ただこくりと頷いた。 涙は枯れ果て、その瞳は虚ろに故郷の跡地を映している。 その様子に、リオスはかける言葉もなく、唇を噛みしめた。


三人は、故郷の灰に背を向け、東を目指して歩き始めた。 ウィスパーウッド周辺の森は、子供の頃から慣れ親しんだ遊び場だったはずなのに、今は全ての木々が敵意を宿しているかのように、冷たく三人を窺っている。


その日の夕暮れ、ゼノスが森の奥に小さな洞窟を見つけた。 火を熾すと、ぱちぱちと木がはぜる音が、不気味なほど静かな森に響く。 ゼノスが仕留めてきた兎を、リオスが黙々と焼いていく。 数時間前まで当たり前にあった「日常」が、今は生きるための必死の行為に変わっていた。

焼けた肉を分けても、リーナはほとんど口をつけようとしなかった。 リオスが案じて声をかけようとした時、ゼノスが静かに口を開いた。

「あの騎士……奴が持っていた大剣、紫の光を放っていただろう」

リオスが頷く。 あの禍々しい光は、脳裏に焼き付いて離れない。

「あれは、最高純度の『星晶銀』を使った武器の特徴だ。そんな代物を扱えるのは、大陸の裏で暗躍する『闇の一族』くらいのもんだ。奴らは古代文明の遺物を専門に狙う盗掘師であり、暗殺集団でもある」

「闇の一族……」

初めて聞く名に、リオスは眉をひそめた。

「なぜ、そんな奴らがリーナを?」

「さあな。だが、奴らが『大いなる仕掛け』とやらに関わっているとすれば、話は繋がる。俺の『繋がり』から得た情報じゃ、奴らは最近、天蓋山脈の麓で何かを探しているらしかった」

その時、ずっと黙っていたリーナが、震える声で言った。

「……賢者の塔へ、行かないと」

彼女は鞄から、命懸けで持ち出した古文書の一枚を広げた。 そこには、霞んだインクで描かれた古い地図が記されている。

「グラン村長の言葉通り、東の果て、霧深きエルドラ山脈のどこかに、賢者の塔はある。そこは、古代文明の知識がそのままの形で保存されている、伝説の場所なの。もし、あの騎士たちの目的と『大いなる仕掛け』の謎を解く鍵があるとしたら……そこしかないわ」

リーナの瞳には、まだ悲しみの色が深く沈んでいたが、その奥には、謎を解き明かさずにはいられないという、研究者としての強い光が戻っていた。 それを見て、リオスとゼノスは静かに頷き合った。


目的は、定まった。 故郷を奪った者たちの正体。 リーナに託された古代の謎。 そして、グランが命を賭して示した道。

翌朝、洞窟を出た三人の顔に、もう迷いはなかった。 悲しみと怒りを胸の奥深くに沈め、ただ前だけを見据えている。 目の前には、見知らぬ森と険しい山々が、どこまでも続いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ