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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第二十六話『希望の代償、折れない剣』

「……やってみなければ、わからないだろう?」


リオスの言葉は、この絶望的な状況において、あまりにも無謀な響きを持っていた。 肩で息をするリオス、顔面蒼白のゼノス、そして震える手で書物を抱きしめるリーナ。対するは、無傷の幹部グラハムと、精鋭たる黒騎士の小隊。


誰の目にも、勝敗は明らかだった。


「ククッ、威勢だけは一人前だな。だが、現実は残酷だ」

グラハムが冷笑と共に指を鳴らす。それが合図だった。 黒騎士たちが無言のまま、一斉に襲いかかってくる。彼らの動きは機械のように正確で、一切の迷いがない。


「くっ、来るぞ!」

リオスは痛む体に鞭打ち、星喰の剣を振るった。 ガギィン! 先頭の騎士の大剣を何とか受け止めるが、その衝撃が骨まで響く。万全の状態なら容易い相手でも、今のリオスには一撃一撃が致命傷になりかねない重さだった。


「リオス、無理しないで! 右から来るわ!」

リーナの悲鳴のような警告。リオスは反射的に身を捻り、二体目の騎士の槍を紙一重でかわす。だが、体勢を崩した隙を見逃すほど、敵は甘くない。


三体目の騎士が、無防備なリオスの背後から迫る。


「――させん!」

横合いから滑り込んだ影が、騎士の足元を掬った。ゼノスだ。彼は短剣で直接攻撃するのではなく、床に落ちる騎士の影を縫い留めることで、その動きを一瞬だけ封じたのだ。


「助かった、ゼノス!」

「礼を言っている暇はないぞ。キリがない!」

ゼノスの言う通りだった。倒しても倒しても、黒騎士たちはすぐに体勢を立て直し、波状攻撃を仕掛けてくる。彼らは疲労を知らない生物兵器のようだった。


(くそっ、体が鉛みたいに重い……! このままじゃ、ジリ貧だ!)

リオスの視界が霞む。星喰の剣が、これほど重く感じたことはなかった。それでも、彼は一歩も退かなかった。彼の背後には、世界の希望を抱えたリーナがいる。ここが、絶対に破られてはならない最終防衛線なのだ。


「ハァ、ハァ……まだだ、まだ終わってねぇ!」

リオスの咆哮が、狭い実験室に響く。気力だけで剣を振るい、迫りくる刃の嵐を弾き返す。その姿は、まさに「折れない剣」そのものだった。


その様子を、グラハムはつまらなそうに見下ろしていた。


「ふむ。虫ケラごときが、これほど粘るとはな。……興が削がれた。終わらせるとしよう」


グラハムが一歩前に踏み出す。 その瞬間、実験室の空気が凍りついた。黒騎士たちとは次元の違う、禍々しく、重苦しいプレッシャーが空間を支配する。


「『調律』してやろう。貴様らのその無様な足掻きをな」

グラハムが手をかざすと、空間の律動が歪み始めた。耳障りな不協和音が鳴り響き、リオスたちの平衡感覚を狂わせる。


「ぐっ、なんだ……この音は……!?」

「音が……視界が、歪んで……!」


リーナが耳を塞いでうずくまる。ゼノスも膝をつき、苦悶の表情を浮かべた。律動を感知できる二人にとって、この強制的な「調律」は直接脳を掻き回されるような拷問に等しい。


唯一、律動を感じ取れないリオスだけが、ふらつきながらも立っていた。


「てめぇ……何をしやがった!」

「フン、鈍感な男だ。だが、これならどうだ?」

グラハムが手のひらを握り込む。すると、歪んだ律動が物理的な衝撃波となって、リオスを直撃した。


「がはっ!?」

目に見えない巨大なハンマーで殴られたかのように、リオスの体が吹き飛んだ。背後の石壁に激突し、そのまま床に崩れ落ちる。口から鮮血が溢れた。


「リオス!」

リーナが叫ぶが、彼女もまた不協和音の苦痛で動けない。


「さて、これで邪魔者はいなくなったな」

グラハムは倒れたリオスとゼノスを一瞥もせず、悠然とリーナのもとへ歩み寄った。その歪んだ笑みが、彼女の目前に迫る。


「さあ、その書物を渡せ。『鍵』の娘よ。貴様らには過ぎた代物だ」

グラハムの手が、書物に伸びる。


「いや……渡さない……!」

リーナは涙を流しながら、必死に書物を抱きしめた。これは、古代エルフたちの無念の結晶であり、リオスとゼノスが命懸けで守ろうとした希望なのだ。絶対に、この男に渡してはならない。


「抵抗するな。それとも、先にその細い腕をへし折られたいか?」

グラハムの冷酷な声が、リーナを追い詰める。 絶望が彼女の心を塗りつぶそうとした、その時。


――ドォン!


床を叩く、力強い音が響いた。


グラハムが眉をひそめて振り返る。 そこには、血まみれになりながらも、星喰の剣を杖代わりにして立ち上がろうとする、リオスの姿があった。


「……まだだ。まだ、俺は……負けてねぇ!」

命の灯火を削り出すような、絞り出すような声。膝は震え、視点は定まっていない。それでも、その瞳に宿る闘志の炎だけは、決して消えていなかった。


「ほう。まだ動けるとはな。だが、それが何になる? 貴様はもう死に体だ」

グラハムが嘲るように言い放つ。


リーナは、リオスの背中を見ていた。ボロボロで、今にも倒れそうな背中。けれど、誰よりも頼もしく、誰よりも彼女を勇気づけてくれる背中。


(私が……私が守らなきゃ。彼が私を守ってくれたように!)

リーナの中で、何かが弾けた。 恐怖が、決意へと変わる。彼女は抱きしめていた書物を、強く握りしめた。


(古代エルフのみなさん……お願い、力を貸して! この理不尽な運命に抗うための、力を!)

リーナの切なる願いに呼応するように、書物の表紙に刻まれた紋様が、かつてないほど強い光を放ち始めた。


「なっ、これは……!?」

グラハムが驚愕に目を見開く。彼の展開していた歪んだ律動の空間が、書物から放たれる清冽で力強い輝きによって、強引に押し返され、上書きされていく。


不協和音が消え、リーナとゼノスの苦痛が嘘のように引いた。


「リオス! 受け取って!」

リーナが叫び、解き放たれた光の奔流を、リオスに向けて解き放った。 それは、単なる回復や強化の力ではない。古代の英知が記した世界を書き換える術式、『律動の再誕』――その片鱗が、彼女の『導き手』としての資質を通して顕現した、純粋な理の力だった。


光が、リオスの体を包み込む。そして、彼が握る星喰の剣に吸い込まれていった。


「う、おおおおぉぉぉっ!」


リオスの全身から、力が湧き上がった。傷が癒えたわけではない。疲労が消えたわけでもない。だが、星喰の剣がまるで心臓のように強く脈打ち始め、刀身が青白く澄んだ光を帯びたのだ。


それは、万物を構成する律動そのものに干渉し、自らの糧とするための輝き。


「馬鹿な、奴の律動が……いや、存在そのものの質が変化しただと!?」

グラハムが狼狽する。彼が支配していた空間の中で、リオスだけが異質な、しかし圧倒的な存在感を放っていた。


光の中から現れたリオスは、先ほどまでの死に体ではなかった。全身から、何者にも屈しない鋼の意志と、世界すら喰らい尽くしかねない鋭い覇気がみなぎっていた。


リオスは、青白く輝く星喰の剣を構え、グラハムを真っ直ぐに見据えた。


「形勢逆転、といこうぜ。調律者さんよ」

さて、卓上の語り部でございます。

第二十六話『希望の代償、折れない剣』、お読みいただき誠にありがとうございます。


満身創痍の中、規格外の強さを見せるグラハムと黒騎士たち。まさに絶体絶命、息もつかせぬ展開でした。 しかし、どれだけ肉体が打ちのめされようとも、決して心は折れず、仲間と希望を守るために立ち上がり続けるリオス。その姿は、まさに今回のサブタイトル『折れない剣』そのものでしたね。


そして、そんなリオスの背中に勇気をもらい、ついにリーナが覚醒しました。ただ守られるだけの存在ではなく、自らの意志で古代の英知『律動の再誕』の片鱗を解き放ち、グラハムの歪んだ支配を上書きしてみせたあの瞬間。鳥肌が立つような反撃の狼煙のろしでした。


リーナの光を受け、リオスの星喰の剣もまた、新たな領域へと至りました。「律動を断ち切る」ゼノスの力とは異なる、「万物を構成する律動そのものを糧とする」捕食者としての覚醒。傷が癒えたわけではない、だが、存在の質そのものが変わったリオスの禍々しくも頼もしい姿に、興奮を隠せません。


しかし、相手はあの「調律者」グラハムです。覚醒したとはいえ、満身創痍の彼らに勝機はあるのでしょうか。希望の光は、このまま闇を切り裂くことができるのか。次回、緊迫の攻防にご期待ください。


ps. 更に『アヴェリア物語』の世界設定や裏話に興味がある方は、ぜひ「Table Talker's Log」をご覧ください。物語をより深く楽しめる記事を随時更新しております。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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