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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第二十四話 『絶望の種子、抗う意志』

咆哮が、物理的な衝撃波となって実験室を揺るがした。

それは純粋な絶望と虚無が凝縮された、精神を直接削り取る波動だった。


「ぐっ……!!」


リオスは瞬時に前に出て、星喰の剣を盾のように構えた。衝撃波が剣身に衝突した瞬間、剣が飢えた獣のように唸りを上げ、その負のエネルギーを貪り喰らい始める。だが、奔流はあまりにも巨大すぎた。リオスの足が、凍てついた床を削りながら後退する。


「ゼノス、しっかりして! 来るわよ!」


リーナが叫び、心珠を掲げる。清浄な蒼い光がドーム状の障壁となり、辛うじて虚ろの浸食を食い止める。

しかし、ゼノスは動けなかった。


(俺たちの一族が……この災厄を招いた……)


目の前で渦巻く巨大な影――『虚ろの種』の残滓。それは、彼の一族が犯した「愚行」の具現化そのものだった。罪悪感が鎖となって彼の手足を縛り付ける。


影は、動かないゼノスを格好の獲物と定めたようだった。不定形の身体から、鋭利な槍のような触手が無数に伸び、ゼノスへと殺到する。


「させない!」

リオスが咆哮し、横から飛び込んだ。星喰の剣が一閃し、迫りくる触手をまとめて薙ぎ払う。斬られた断面から黒い霧が霧散し、剣に吸い込まれていく。


「ゼノス! 呆っとしてる場合か! 死ぬぞ!」


だが、斬り払ったはずの触手は、瞬時に黒い霧が集まり、元通りに再生してしまった。


「なっ……!? こいつ、実体がないのか!?」

リオスが焦りの声を上げる。彼の剣はエネルギーを喰らうが、相手の総量が膨大すぎる上、再生速度が速すぎるのだ。


影はリオスの妨害に苛立ったように唸り、今度は部屋中の実験器具を念動力で持ち上げ、弾丸のように三人に向けて射出した。ガラス片や金属塊の嵐が彼らを襲う。


(俺のせいで……二人が……)

ゼノスは、必死に戦うリオスとリーナの姿を、ぼんやりと見ていた。 彼らは、ゼノスの一族が撒いた種の後始末のために、命を懸けている。それなのに、当の自分は何をしている?


(……違う)

ゼノスの奥底で、小さな火種が生まれた。

(一族の罪は、一族の罪だ。だが、今ここで諦めて、二人を見殺しにすることこそが、俺自身の最大の罪になるんじゃないのか!?)


祖母の言葉が蘇る。

『生き延びなさい、ゼノス……』


「……ああ、そうだ。俺は、生きなきゃいけない」

ゼノスが顔を上げた。その瞳から、迷いの色が消えていく。


「こんなところで……過去の亡霊なんかに、負けるわけにはいかないんだ!」


彼は強く床を踏みしめ、影纏いの短剣を逆手に持ち直した。短剣が、主の覚醒に応えるように鋭く共鳴した。


「ゼノス!」

リーナの声に、ゼノスは冷静に戦場を見渡した。 心珠の光と短剣の共鳴によって、彼の視界は普段とは異なるモノを捉えていた。


「……リオス、そいつに核はない! いくら斬っても無駄だ!」

ゼノスが叫ぶ。


「はあ!? じゃあどうすりゃいいんだ!」

リオスが巨大な実験台を両断しながら吼える。


ゼノスの目には、はっきりと見えていた。 中央で暴れる巨大な影の身体から、何本もの細い、赤黒い「糸」のようなものが伸びているのが。 その糸は、部屋の隅々に散らばる、破壊された実験装置――かつて「虚ろ」を生み出そうとしていた機械の残骸――へと繋がっていた。


「あいつはただの端末だ! この部屋に残っている実験装置の残骸が、今も微弱な負のエネルギーを供給し続けている!」

ゼノスは理解した。この影は、部屋全体を動力源とする自動防衛システムのようなものなのだ。


「供給源を断つしかない……!」


ゼノスは短剣を握りしめた。その時、短剣の新たな使い方が、本能として理解できた。 この短剣の本質は「影を纏う」ことだけではない。「繋がりを絶つ」ことにあるのだと。


「リオス、リーナ! 奴の注意を引きつけてくれ! 俺が供給源を潰して回る!」

「無茶だ! 霧が濃すぎて近づけねえぞ!」

「やれる! ……この短剣なら!」


ゼノスは短剣の能力を解放した。彼の姿が周囲の影に溶け、気配が極限まで希薄になる。 次の瞬間、彼は弾丸のように駆け出した。


影が反応して触手を伸ばすが、ゼノスの速度と隠密性に追いつけない。 ゼノスは最初の標的――部屋の隅で微かに赤く明滅するガラス管の装置――に肉薄した。

彼には見える。影本体とその装置を繋ぐ、おぞましい律動の供給線が。


「断ち切れ……『影絶かげたち』!」


ゼノスが短剣を一閃させた。 物理的な手応えは薄い。だが、短剣の刃が供給線に触れた瞬間、ブツンッ!という、奇妙な切断音が響いた。 ガラス管の光が消え、完全に沈黙する。


「ギャアアアアアッ!!」


供給源の一つを失い、中央の影が苦悶の叫びを上げた。再生速度が目に見えて落ちる。


「効いてる! さすがだぜ、ゼノス!」

リオスが笑い、攻勢に出る。


「オラァ! こっちを見やがれ!」

影の注意がリオスに向いた隙に、ゼノスは次の供給源へと走る。 壁に埋め込まれた配電盤、床に転がる歪な金属塊。 ゼノスはアサシンのように戦場を駆け巡り、次々と供給線を『影絶ち』で切断していく。

二つ、三つ、四つ……。 線を切るたびに、影の叫び声は小さくなり、その巨体は維持できずに崩れていく。

そして、最後の一つ。実験室の入り口付近にある、奇妙な歯車装置。 ゼノスは壁を蹴り、空中で身を翻しながら、最後の一撃を叩き込んだ。


ブツンッ!!


全ての供給を断たれた瞬間、影は断末魔の叫びすら上げることなく、霧散した。 後に残ったのは、再び静寂に包まれた、凍てついた実験室だけだった。


ゼノスは短剣を下ろし、荒い息を吐いた。 短剣の刃が、仕事を終えて満足げに、鈍い光を放っていた。

さて、卓上の語り部でございます。


第二十四話『絶望の種子、抗う意志』、お読みいただき誠にありがとうございます!


ついにゼノスが、自らの一族が背負う重い過去(呪縛)を乗り越えましたね。「過去の亡霊に負けるわけにはいかない」――その決意が、彼の持つ影纏いの短剣を真に覚醒させました。

新たな能力『影絶かげたち』。物理的な実体ではなく「つながり」を断つという、実にゼノスらしい、テクニカルで強力な力です。リオスの豪快な剣技とは対照的な、静かで鋭い一撃。それぞれの個性が光る戦闘シーンになったのではないでしょうか。 そして何より、リオスが引きつけ、リーナが支え、ゼノスが仕留めるという、三人の息の合った連携が見事でした。


さて、過去の過ちが生み出した『虚ろの種』の残滓は消滅しました。 再び静寂が戻った禁忌の実験室で、彼らは何を思うのでしょうか。そして、この部屋の探索は、彼らに次なるどんな真実をもたらすのか。

物語は、いよいよこの聖域での探索のクライマックスへと向かいます。 次回もどうぞご期待ください!


ps. 更に『アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜』の世界設定や裏話に興味がある方は、ぜひ「Table Talker's Log」をご覧ください。物語をより深く楽しめる記事を随時更新しております。

https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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