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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第十七話 『吹雪の山と、開かれた扉』

猛烈な吹雪の中、リオスたちは宿屋を飛び出した。


外に出ると、強風が顔に叩きつけ、視界は真っ白な雪煙に覆われた。身を切るような寒さが容赦なく全身を襲う。


「こっちだ! 俺の仲間が山で遭難したんだ!頼む、助けてくれ!」


遭難を告げに来た男は、ストーンクリークの住民で、山で木材を伐採する仕事をしていた。彼は、リオスたちに必死に懇願し、町の外れにある山道の方を指差した。


「俺はここで待っている! 無茶はするなよ!」

深々と頭を下げて感謝する男を後に、リオスたちは山へと向かった。宿屋の窓から、テオドールがその様子をじっと見送っていた。


「リーナ、足元に気をつけろ!風が強い!」


リオスは、リーナの手を取り、強風に煽られそうになる彼女を支えた。ゼノスは、険しい表情で周囲の気配を探りながら、先頭を歩く。ゲイル・テトラの民である彼は、雪山での行動に慣れているようだった。


「こんな悪天候でよく山に入ったな……」

ゼノスが低く呟く。


山道は、積もった雪と凍てつく氷で覆われ、足元が非常に悪い。 一歩間違えれば、滑落しかねない危険な状況だ。 しかし、リオスたちの心に迷いはなかった。ウィスパーウッドを失った後、彼らの根底には、二度と目の前で誰かが犠牲になるのを見過ごさない、という強い決意が宿っていたからだ。


「遭難者はどこだ!?」

リオスが叫ぶ。男が指し示した窪地は、もうすぐそこに見えていた。 さらに奥へと進むと、風の音が一段と荒々しくなった。 リーナは、心珠を握りしめ、周囲の気配を探った。冷たい律動が、不規則に流れているのを感じる。それは、山脈の深部に潜む、強大な律動の奔流の一部なのだろうか。


「なんだか、嫌な感じがする……」

リーナが不安げに言った。


その時、横から鋭い咆哮が響いた。 雪煙の中から、白く分厚い毛皮に覆われた獣が、二体飛び出してきた。スノーウルフだ。飢えに飢えた目つきで、彼らに襲いかかろうと低く唸っている。


「くっ……こんなところで魔物か!」

リオスは、即座に剣を抜き放ち、前衛に躍り出た。ゼノスもまた、脇腹から短剣を引き抜き、構える。


「リーナ、後方支援を頼む!身を隠せ!」


一体のスノーウルフが、リオスめがけて飛びかかってきた。 リオスは、その鋭い爪を剣で受け止め、体勢を崩さずに反撃する。彼の剣技は、ウィスパーウッドでの修行と、これまでの旅で磨き上げられていた。


「こいつら、飢えているのか……動きが鈍い!」

リオスは、スノーウルフの攻撃を巧みにかわしながら、隙を伺う。 一方、ゼノスは、もう一体のスノーウルフの側面へと回り込んだ。素早い動きで獣の目を眩ませ、その隙に短剣で脇腹を深く切り裂く。 スノーウルフは、悲鳴を上げ、その場に倒れ込んだ。


リーナは、リオスに襲いかかるスノーウルフに向けて心珠から光の矢を放ち、その注意を惹きつける。 その一瞬の隙を突き、リオスは剣を振り抜き、見事にスノーウルフの急所を捉えた。 二体の魔物を撃退したリオスたちは、荒い息を吐きながらも、すぐに遭難者の元へと向かった。


やがて、彼らは窪地を見つけた。 そこには、三人の男が、雪に埋もれるように倒れていた。薄い毛皮の服では、この吹雪に耐えられなかったのだろう。一人は既に息絶えており、残りの二人もかろうじて脈がある程度だった。


「くそっ!」

リオスは、歯を食いしばる。間に合わなかった一人への悔しさがこみ上げる。


「リーナ、急げ!」

ゼノスが冷静に指示を出した。 リーナは、すぐに駆け寄ると、心珠を翳した。


「お願い、助かって……!」


温かい光が、倒れた男たちの体を包み込む。宿屋の窓から覗くテオドールの目には、その光景が確かに映っていた。リーナの必死な祈りが通じたのか、凍えきっていた男たちの顔に、僅かながら血色が戻っていく。

リオスとゼノスは、男たちの体を起こし、互いに支え合いながら、ゆっくりと来た道を戻り始めた。 一人がリオスに、もう一人がゼノスに寄りかかり、なんとか歩く。 吹雪は依然として猛威を振るっていたが、リーナの律動の力が、彼らに生きる力を与えていた。


宿屋に戻ると、酒場の主人や、遭難を告げに来た男を含め、他の客たちが心配そうに待っていた。 テオドールもまた、隅のテーブルから、じっと彼らの様子を見守っていた。 リオスたちは、遭難者たちを暖炉のそばに運び、宿の主人が用意してくれた温かい毛布をかけた。


「よくやった……本当に!」

主人は、安堵の息をついた。遭難を告げに来た男も、助けられた仲間の無事を見て、リオスたちに深々と頭を下げた。


「命の恩人だ! 本当に、ありがとう……!」

彼の言葉に、宿屋の客たちからも称賛の声が上がった。


「まさか、スノーウルフまで退けるとは……」

「あの娘さんの光の力も見たぞ!一体何者なんだ!?」


救助を待っていた男がスノーウルフとの戦闘の様子を興奮気味に語り、瞬く間に宿屋中にリオスたちの活躍が広がっていった。


テオドールは、彼らが遭難者を宿に運び込む様子を、無言で見つめていた。 特に、宿屋の窓からリーナが放った光を目にし、さらにリオスとゼノスがスノーウルフを撃退したという報告を聞くにつれて、老研究家の目には、深い驚きと、それまでの警戒が解けていく色が浮かんでいた。 彼らの行動は、言葉以上に雄弁に、彼らの真意と実力を示していたのだ。


遭難者たちが一命を取り留め、宿の奥で休むことになった頃、テオドールはゆっくりと席を立ち、リオスたちのテーブルに近づいてきた。


「お前たち……」


テオドールの声には、先ほどまでの偏屈さはなく、どこか複雑な感情が滲み出ていた。


「まさか、この吹雪の中、スノーウルフまで退けて人を助けるとはな。そして、あの娘が使う光の力……わしは確かに見たぞ。あれは、普通の人間が持ち得る力ではない。まさか『律動』を行使したというのか……」


リオスは、無言で頷いた。 テオドールは、深く息をついた。


「まさか、この時代に、これほど純粋な『律動』の使い手が存在するとは……」

彼の目は、驚きと同時に、長年の研究者としての探求心に燃えていた。


「先ほどは、無礼を働いた。すまなかった。お前たちの真意と実力は、よく分かった」

テオドールは、珍しく頭を下げた。


「わしは、お前たちを信用しよう。そして、わしの知る限りの情報を、すべて提供しよう」

テオドールの言葉に、リオスたちは安堵した。


「ありがとうございます!」

リオスが深々と頭を下げる。


「この山脈の奥地にある『虚ろの揺り籠』については、わしも詳細を知っているわけではない。しかし、長年の研究と、古の文献から、いくつかの推測はできる」


テオドールは、テーブルに広げた地図を指差した。


「天蓋山脈の核心部には、強大な『山の息吹』が渦巻いている。その影響で、特定の地点に強力な障壁が生じているのだ。この障壁は、物理的な力では破壊できない。精神が『山の息吹』の奔流に呑み込まれ、自我を失う」

リオスは、アルキデウスの言葉を思い出した。


「どうすれば、その障壁を越えられるんですか?」

「それこそが、長年のわしの課題だ……」

テオドールは、苦々しい顔で言った。


「だが、古の文献には、こう記されている。『山の息吹の導き手、ゲイル・テトラの民の血に、道は拓かれん』と」


テオドールの言葉を聞き、ゼノスの体が微かに震えた。アルキデウスの最期の言葉が、再び脳裏を駆け巡る。


『……ゲイル・テトラの民よ……お前たち部族が捨てた使命を思い出せ……天蓋山脈の『影』を……』

「ゲイル・テトラの民の血に……俺たちの部族の伝承に……?」


ゼノスの声が、固く、そしてわずかに困惑を帯びていた。


「そうだ。わしは、ずっとその意味を探してきた。ゲイル・テトラの民は、かつて山脈の奥地で、この『山の息吹』と共生していた唯一の部族だとされている。彼らだけが、その力と対話し、道を拓く術を知っていたのかもしれない」


テオドールは、ゼノスをまっすぐに見つめた。

「君は、ゲイル・テトラの民なのだろう? ならば、その答えは、君の血の中に、あるいは君の部族の伝承の中にこそあるはずだ」


「だが、俺は……俺の部族は、すでに山脈を離れ、失われた部族だ。伝承も、ほとんど残ってはいない……」

ゼノスは、悔しそうに拳を握った。


「そう嘆く必要はない」

テオドールは言った。

「わしが持っているのは、ゲイル・テトラの古き集落跡の、おおよその場所を示す地図と、彼らが信仰していたという『聖なる樹海』に関する断片的な情報だけだ。だが、それだけでは、奥地の障壁を越える手がかりにはならないだろう。しかし、もし君の部族が、完全に伝承を捨て去ったわけではないのなら……あるいは、君自身の中に、その力が眠っているのなら……」


「ゲイル・テトラの集落跡……」

リオスは、ゼノスを見た。彼の顔には、重い使命と、自身のルーツへの探求心が入り混じっていた。 テオドールが示した地図は、天蓋山脈のかなり奥まった場所を指している。


彼らの次の目的は、ゼノスの部族が遺した古の集落跡を探し、障壁を越えるための伝承を解き明かすことになった。 天蓋山脈は、ただの困難な道のりではなく、ゼノス自身の過去と向き合う旅路へと変貌していく。


さて、卓上の語り部でございます。


第十七話『吹雪の山と、開かれた扉』、お読みいただき誠にありがとうございます。

吹雪の中での遭難者救助、そしてスノーウルフとの戦闘。リオスたちの決意と実力が示されたことで、偏屈な老研究家テオドールの心が開かれました。


彼が語る天蓋山脈の深淵と、障壁を越える鍵となる「ゲイル・テトラの民の血」。ゼノスのルーツが、ついに物語の核心へと繋がり始めます。失われた部族の伝承、そしてゼノス自身の内に秘められた力。


過酷な山脈の奥地へ向かう旅は、ゼノスにとって、自らの過去と向き合う探求の旅となるでしょう。 彼らが「虚ろの揺り籠」へと辿り着くために、次に何を為すのか。 次なる物語の展開に、どうぞご期待ください。


卓上の語り部より、敬具。


ps. 更に『アヴェリア物語』の世界設定や裏話に興味がある方は、ぜひ「Table Talker's Log」をご覧ください。物語をより深く楽しめる記事を随時更新しております。 https://tabletalker.info/

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