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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第百話『黒鋼の玉座、神を騙る者』

 鏡のように固定された海面を駆け抜け、一行はアイゼン・ドゥームの巨大なゲートを突破した。


 内部は、これまでに見てきたどのエルフの遺跡とも異なっていた。 自然との調和や装飾的な美しさは微塵もない。あるのは、剥き出しの黒鋼の柱と、星の律動を物理的な光の帯として循環させる無数のパイプライン。それは神殿ではなく、紛れもなく「巨大な機械の胎内」だった。


『――警告。全領域フォーマット(初期化)プロセス、進行中。最深部へのアクセスを完全封鎖します。』

 冷徹なシステム音声と共に、通路の突き当たりにそびえる巨大な光の柱――玉座へ続く重力エレベーターの周囲に、分厚い光の壁が展開された。庭師のシステムによる『絶対防壁』だ。 同時に、通路の壁面から銀色の幾何学的なエネルギー体が無数に実体化し、一行の行く手を阻むように立ち塞がった。


「くそっ、喰いきれねぇ! なんだこの壁は!」

 リオスが『星喰の剣』を振るうが、防壁は揺らぐことすらなく、刃が弾き返される。 無機質な防衛兵器たちがじりじりと包囲を狭めてくる中、エリアスが叫んだ。


「リオスくん、無駄です! それは単なる力や律動の壁ではありません。空間の座標そのものを『絶対不可侵』と再定義する庭師のシステムです! 『星喰の剣』で強引に喰い破ろうとすれば、星のシステム全体と直接衝突し、あなたの右腕が先に崩壊してしまいます!」

 空では砕かれた月が降下を続け、要塞そのものが赤黒い崩壊の光に包まれ始めていた。 時間が、圧倒的に足りない。


「……リオスくん、ゼノスさん。下がってください」

 エリアスが、自身の『導律共鳴器』の杖を握り締め、防壁の制御ターミナルへと歩み寄った。


「先生、何をする気だ!?」

「……私がこのシステムに直接介入し、玉座への扉をこじ開け、月の降下を限界まで遅延させます。ですが、それには私の全律動を、システムの深層に直接繋ぐ必要がある」

 エリアスは振り返り、迷いのない、穏やかな微笑みを浮かべた。


「……私は、ここまでです。エルヴィン先生が追い求めた『不確定な命が織りなす未来』の遺志は、あなたたち三人に託します」

「先生……ッ! そんなことしたら、あんたの命が!」

 リオスが叫ぶが、エリアスはすでにターミナルへ杖を突き立てていた。激しい律動の逆流がエリアスの身体を打ち、彼が血を吐きながらもハッキングを開始する。 それを排除しようと、無数の防衛兵器が一斉にエリアスへと殺到した。


「――させんッ!」

 緑の疾風が吹き荒れ、二本の曲刀が兵器群を瞬時に切り裂いた。 ヴァラが、エリアスの前に立ち塞がり、ゼノスたちを振り返った。


「このひ弱な学者の護衛は、私が引き受ける。ゼノス……お前は行け!」

「ヴァラ……お前まで!」

「一族の……ゼフィアンの呪縛を、その影で断ち切ってこい! お前たちの『調和』で、この狂った星を救ってみせろ!」

 ヴァラの悲壮な覚悟に満ちた叫びと同時に、エリアスの命を削ったハッキングが完了し、絶対防壁に一筋の亀裂が走った。重力エレベーターへの道が開かれる。


「……行くぞ。二人の命、絶対に無駄にはしねぇ」

 リオスが血の滲む唇を噛み締め、リーナの手を引いた。ゼノスもまた、背中を預けた同胞の姿を目に焼き付け、開かれた光の柱へと飛び込んだ。


 …… …………


 上昇の果てに辿り着いたのは、要塞の最上層に位置する巨大なドーム状の空間だった。 眼下には赤く燃え上がる海と崩壊を始めた星の地殻。頭上には、巨大な月が迫っている。

 その空間の中央。 星の全ての律動が集約される『中枢の玉座』に、彼はいた。


「……来たか。だが、すでに遅い」

 闇の盟約者の盟主、ゼフィアン。 黒鋼の鎧は『星を紡ぐ原液』と『虚ろ』の力が完全に融合した結果、神々しいほどの白紫色の光を放っている。だが、その光の裏側にあるのは、圧倒的な『死』の気配だった。


「親父……!」

 ゼノスが短剣を握りしめ、一歩前に出た。


「狂った真似はやめろ。あんたがやろうとしているのは、救済じゃない。ただの虐殺だ」

 ゼフィアンはゆっくりとゼノスを見下ろした。その瞳の奥には、かつての冷酷さだけでなく、深い絶望と、歪んだ祈りのようなものが混じっていた。


「虐殺だと? 違うな。……私は誰よりも、ゲイル・テトラの里を愛していた。だが、ただ監視するだけの停滞した理では、世界は救えなかった」

 ゼフィアンは自らの胸に手を当てた。そこには、星中の『虚ろ』が渦巻いている。


「だからこそ、私がこの身にすべての汚濁を引き受け、星ごと白紙に戻す。私自身という『最大のエラー』ごと、システムを初期化する。……それが、私の見出した『完璧な救済』だ」

「親父……あんた、最初から自分ごとこの世界を消滅させるつもりだったのか……!」

 ゼノスは息を呑んだ。自己の野望のためではなく、世界と家族を愛するがゆえに、自らが最大の犠牲となって世界を終わらせる。あまりにも不器用で、悲壮な親心。


「……ふざけるな。そんな自己満足の犠牲で、俺たちが納得するとでも思っているのか」

 ゼノスは激昂を抑え込むように、低く絞り出すような声で言った。


「あんたが捨てた過去も、婆様が教えてくれた風の匂いも……俺たち人間が生きてきた証拠だ。過去を切り捨てて作る未来の、どこが完璧なんだ」

 ゼノスの悲痛な叫びに、ゼフィアンは目を細め、手にした白紫の大剣を横に構えた。


「……ならば示すがいい。お前たちが奏でる『不完全な調和』とやらが、私の絶望を凌駕するというのなら」


 ゼフィアンが玉座から立ち上がる。その姿は、破壊神であると同時に、息子に最後の引導を渡されようとする一人の父親でもあった。


「この私を討ち、世界を救ってみせろ。……」


「……行くぞ、ゼフィアン! 俺たちの世界を、返してもらうッ!」

 リオスが『星喰の剣』を真っ直ぐに向け、リーナが心珠の光を放つ。 器、導き手、抑制者。 『律動の再誕』を成す三人が、命を懸けて道を作った仲間たちの想いを背負い、アイゼン・ドゥームの頂にて、真の最終決戦の幕を開けた。

卓上の語り部でございます。

第百話『黒鋼の玉座、神を騙る者』をお届けいたしました。


ついに第百話の大台を迎え、物語は真のクライマックスへと突入しました。ここまで彼らの過酷な旅路を見守っていただき、本当にありがとうございます!


絶望的なタイムリミットの中、エリアスとヴァラが自らの命を懸けて道を切り開きました。彼らの離脱によって、最終決戦の場に立つのは「器、導き手、抑制者」という、世界を再誕させるための三人のみとなります。 そして玉座で待っていたゼフィアンの真意。彼は単なる独裁者ではなく、世界と故郷を愛するがゆえに、自らを「最大のエラー」として世界ごと消滅させようとする悲壮な覚悟を持っていました。


「俺の絶望を凌駕してみせろ」という彼の言葉は、彼なりの不器用な親としての祈りでもあります。

月が迫り、星が崩壊していく中、託された三人の律動は、冷徹なシステムとゼフィアンの悲しい決意を打ち破ることができるのか。


引き続き、アヴェリア物語の終局をよろしくお願いいたします。


P.S. 本作の世界観設定や用語解説などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて随時更新しております。 https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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