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アヴェリア物語 〜これは、一人の青年の復讐から始まる、星の運命に抗う物語〜  作者: 卓上の語り部


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第九十七話『破綻する数式、生命が奏でる和音』

 青白い一閃と、どす黒い重力の闇が激突した雪渓の中央で、空間そのものが悲鳴を上げていた。 リリィが両手から放つ圧倒的な「圧殺」の黒律は、本来であれば岩山すら容易く塵に変えるほどの質量を持っている。


「なんで……! なんで壊れないのっ、リオス!!」

 リリィが血走った瞳で叫び、さらに深い「虚ろ」の力を引き出そうとする。 だが、リオスの『星喰の剣』から放たれる輝きは、彼女の重力を押し返すだけでなく、その暗い闇を内側から中和し始めていた。


「ただの力比べじゃない……。俺たちの背中には、託された想いと、繋がった命があるからだッ!」

 リオスの右腕から放たれる熱をゼノスが影で御し、リーナがそれを純粋な光の旋律へと変え、エリアスの『導律共鳴器』がその波長を最適化する。そして、周囲で荒れ狂う余波を、ヴァラの風が完璧に相殺していた。 五人の命が編み上げる「不完全な和音」は、生き物のようにその形を変え、リリィの単調な破壊を凌駕していく。


「あぁぁああッ! うるさい、うるさいうるさいっ!! リリィの胸の音、止まれぇぇっ!!」

 狂乱したリリィが、自身の肉体の限界すら無視して重力の渦を暴走させた。彼女の細い腕の血管が弾け、黒い瘴気が全身から噴き出す。 だが、その哀れな狂気に対し、リーナが一歩前へと進み出た。


「……もう、終わりにしましょう。あなたのその『音』は、ただ泣いているだけよ」

 リーナが胸元の心珠を天高く掲げる。 その瞬間、雪渓の空気を震わせるような、深く清らかな鐘の音が響き渡った。


『律動の再誕』の片鱗――。 空間そのものが眩く爆ぜ、その裂け目から星雲を思わせる極彩色の光帯が溢れ出す。天地を繋ぐ光の柱が、幾重にも重なる神聖な幾何学紋様を空中に展開し、リリィの重力を包み込んだ。それは破壊ではなく、因果の糸を編み直す「再定義」の波動。圧倒的な極光が、リリィを縛り付けていた狂気と黒律を、存在の底から解体・昇華させていく。


「あ……ぁ……」

 暴走していた力が霧散し、リリィの身体が力なく雪の上へと崩れ落ちた。 狂気的な執着が消え去った彼女の顔には、どこか安堵したような、幼い少女の静けさが戻っていた。


「……やっと、静かに……なった……」

 微かな呟きを残し、リリィの姿は光の粒子となって雪風の中に溶けていった。


「馬鹿な……。私の構築した絶対重力場が、あのような不可解な波長で相殺されるなど……!」

 残されたグラハムは、手元の星晶銀の杖を震わせながら後ずさった。 常に冷徹であった彼の瞳に、初めて「理解不能なもの」への恐怖と焦燥が浮かんでいた。


「エラーだ……。変数の増殖が計算式を凌駕している。あり得ない! 庭師が築いた『アヴェリア』というシステムにおいて、完全な数式が不完全なバグに敗北するなど、絶対に……ッ!」

「それが『命』です、グラハム!」

 エリアスが毅然と声を張り上げ、杖をグラハムへと真っ直ぐに向けた。


「人は迷い、傷つき、不完全だからこそ他者と手を繋ぐ! エルヴィン先生が辿り着いたのは、数式で縛られた完璧な箱庭ではなく、不確定な揺らぎが織りなす未来だった。……世界を単なるデータと見下すあなたに、この『和音』は決して破れない!」


「黙れッ! 凡物風情が、私を教え諭すつもりか!」

 プライドを粉々に砕かれたグラハムが、周囲の雪渓に刻み込んでいたすべての黒律を自らの身体へと逆流させた。 彼の法衣が弾け飛び、全身に黒い幾何学模様が浮かび上がる。空間そのものを道連れに崩落させる、自爆にも等しい禁忌の術式だった。


「これで終わりだ! 貴様らごと、この座標を完全に消去してやる!!」

 グラハムを中心に、周囲の空間がブラックホールのようにひしゃげ始めた。 だが、その絶望的な崩壊の渦を前にしても、五人の瞳に揺らぎはなかった。


「ヴァラ! ゼノス!」

 リオスの叫びに、二人のゲイル・テトラの戦士が同時に動いた。


「風よ、我らが刃に道を拓け!」

 ヴァラが二本の曲刀を交差させて振り下ろし、崩壊する空間の圧力を強引に切り裂いて、一筋の「風の道」を生み出す。

「あんたの『完璧なことわり』に、引導を渡してやる」

 ゼノスがその風の道を駆け抜け、グラハムの足元に広がる術式の要(起点)へと『影纏いの短剣』を突き立てた。 奥義『影絶ち』。空間の崩落が、その一瞬だけピタリと停止する。


「リオスくん、今です! 全波長、剣の先端へ!」

 エリアスとリーナが、限界まで高めた光の律動をリオスへと送り込む。


「おおおおおおおッ!!」

 リオスは『星喰の剣』を上段に構え、ヴァラが拓き、ゼノスが止めた空間を一直線に踏み込んだ。


「来るなッ――!!」

 グラハムが最期の抵抗とばかりに杖を掲げるが、リオスの振り下ろした青白い一閃は、その星晶銀の杖ごと、グラハムの身体を袈裟懸けに両断した。


 ピキィィィィン……ッ!!


 ガラスが砕けるような甲高い音と共に、グラハムが展開していたすべての空間術式が粉々に砕け散った。


「私が……この私が、こんな……論理の破綻した、感情というノイズに……」

 膝をついたグラハムの身体から、パッチワークのように光のデータが剥がれ落ちていく。 彼は自身の敗北を最後まで理解できないまま、憎悪に満ちた瞳でリオスたちを睨みつけた。


「……喜ぶがいい、愚者ども。だが、もう遅い。盟主様はすでに、この星の『芯』を書き換える準備に入っている。……貴様らが辿り着く頃には、世界は美しき白紙へと……還る……」

 その言葉を最後に、調律師グラハムは完全に消滅した。


 雪渓を支配していた狂乱の風が止み、重苦しい静寂が戻ってくる。 一行が見上げると、分厚い雪雲が僅かに切れ、そこから不気味な紫色の光を放つ「砕かれた月」が、彼らを静かに見下ろしていた。


「……終わったな」

 リオスが剣を鞘に収め、荒い息を吐きながら空を見上げる。 限界を超えた共鳴の余韻が、五人の身体に確かな熱として残っていた。


「ええ。……でも、彼の言葉が本当なら、少しでも早くあの場所へ向かわなきゃ」

 リーナの言葉に、エリアス、ゼノス、ヴァラも深く頷いた。 グラハムとリリィ。二人の強敵を打ち破った五人の前に、ついに天蓋山脈の最深部へと続く、真の氷の道が姿を現した。


 世界のシステムを強制初期化しようとする盟主ゼフィアン。 彼らの最後の戦いが、いよいよ幕を開けようとしていた。

卓上の語り部でございます。

第九十七話『破綻する数式、生命が奏でる和音』をお届けいたしました。


天蓋山脈の雪渓にて繰り広げられた、グラハムとリリィとの死闘が決着しました。 狂気の中で壊れることしかできなかったリリィと、完璧な論理に固執するあまり「命の揺らぎ」を理解できなかったグラハム。彼らの敗北は、不完全なまま互いを補い合うリオスたち五人の「絆」の勝利でもありました。また、リーナが放った『律動の再誕』の片鱗は、破壊の連鎖を断ち切る神聖な波動として、リリィを呪縛から解放しました。


エリアスが恩師の真意を叫び、ヴァラとゼノスが道を作り、リーナが光を束ね、リオスが断つ。五人の役割が見事に噛み合ったこの瞬間、彼らはゼフィアンの待つ最終決戦の地へ赴く「資格」を完全に証明したと言えるでしょう。


雲の隙間から覗く「砕かれた月」の異様な輝きの下。 物語はいよいよ、天蓋山脈の最深部、すべての元凶が待つ氷の玉座へと向かいます。


どうぞ、最終章へと向かう彼らの旅路を、最後まで応援してください。

P.S. 本作の世界観設定や用語解説などは、Webサイト「Table Talker's Log」にて随時更新しております。 https://tabletalker.info/category/avelia/


卓上の語り部より、敬具。

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