第3話:不運な予知は、神の啓示(第2節)
僕の絶望と、リーファの頬を染める熱狂的な視線が交差する。
「救世主様……わたくし、光栄ですわ……! このような状況で、あなたは……!」
「違う!違うんだリーファ!これはそういうんじゃない!?」
僕は慌てて手を離そうとしたが、リーファは僕の手を離そうとしない。それどころか、両手で僕の手を包み込み、熱心に語り始めた。
「あぁ、救世主様……!あなたは聖なる予言に記されたお方……! この運命の出会いもまさに神のお導き!」
「そうじゃなくて、変な幻覚が見えて、その後気が付いたら何もなくて、、、」
「もしや救世主様、 今まさに『神の啓示』を視られたのでは!?」
僕の脳裏には、先ほど見た最悪の未来が焼き付いている。
魔物の突進。天井からの鍾乳石。
そして、僕とリーファが潰される光景。
僕が予知したのは、僕の能力を最大限に活かした未来なんかじゃない。ただの、最悪の未来だ。
「そうよ……! 救世主様! 先ほどの『啓示』で、何が見えましたか? どんな危険を察知なさいましたか?」
リーファは、僕の顔を覗き込むように、さらに顔を近づけてきた。
その真剣すぎる眼差しに、僕は言葉を失った。
「……見えたのは、僕が鍾乳石に潰される未来……だ」
僕がそう絞り出すと、リーファは「なるほど!」と声を上げ、神聖な予言でも聞いたかのように顔を輝かせた。
「その鍾乳石は、救世主様の命を狙う呪いの具現化! ですが、聖なる予言に記されております! 救世主様は、呪いを反転させ、幸運へと導くお方……!」
リーファは、僕を導くように洞窟の奥へと歩き始めた。
「さあ、参りましょう救世主様! 呪いは、幸運に反転させることができますわ!」
僕は呆然としたまま、リーファに手を引かれるままに歩き出した。
(いや、違う……。僕は、これから起こるであろう最悪の未来が見えただけで……)
僕がそう心の中で呟いた瞬間、足元の石につまずき、リーファに覆いかぶさるように倒れ込んだ。
「きゃっ!?」
リーファの小さな悲鳴が響く。
僕の顔は、彼女の柔らかな胸元に埋もれ、甘い香りが鼻腔をくすぐった。
僕が慌てて起き上がろうとすると、逆に彼女のローブを引っ掛けてしまい、白い肩が再び露わになる。
「な、なんだ、今の……?」
僕は慌てて体を起こし、謝罪の言葉を口にした。
「ご、ごめん!大丈夫か、リーファ!」
僕とリーファは、お互いの顔を見つめ合ったまま、しばし時が止まったかのようだった。
僕の視界いっぱいに広がる、透き通るような青い瞳。その距離は、僕が少しでも動けば、唇が触れそうなほどだった。
心臓が警鐘のように鳴り響き、僕は思考を停止した。
そのとき、僕たちがまさに足を踏み入れようとしていた場所の真上に、轟音と共に鍾乳石が突き刺さった。
ゴウッ!
「あ、あああああ!」
紙一重で難を逃れた僕とリーファは、互いに顔を見合わせ、安堵の息を吐いた。
「まさか……僕が石につまずいて転んだおかげで……?」
「流石でございます、救世主様! 救世主様の『呪いを反転させる力』が、あの不運な転倒を、私たちを救う幸運へと変えたのですわ!」
その言葉を聞くやいなや、リーファは僕に勢いよく抱きついてきた。
「救世主様! あなたは、わたくしの命の恩人です!このリーファ、あなたの導きを信じ、どこまでもお供いたしますわ!」
熱烈な抱擁に、僕は一瞬呼吸が止まった。柔らかい胸の感触が、僕の思考をさらに麻痺させる。
しかし、リーファは僕を抱きしめたまま、その瞳をうるうると輝かせている。
「ほ、本当に偶然なんだってば……!」
僕は恥ずかしさのあまり、慌ててリーファから距離を置こうとした。だが、彼女は僕の肩にしがみついたまま、しばらく離れようとしなかった。




