表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/53

第16話:天界の記録官と、規則違反な一行(第3節)

「ゆうゆう。はい、あーんですわ」

「悠真様、こっちもおいしいですよ」

「お兄ちゃん、次はドナのケーキも食べて」


 悠真が三人の少女にすり寄られ、交互にケーキを差し出される様子を、天界人の記録官エーテラは必死に冷静を装いながら観察し、激しく羽根ペンを動かす。


(非常に……非常に、非合理かつ不愉快な規則違反だわ)


 エーテラが手にする記録本が、無駄にガリガリと音を立てていた。


 そんな車内に漂う甘いカオスを眺めながら、リリアーナはミント色のストレートロングの髪を指先で弄り、赤紫色の瞳にいたずらっぽい光を宿した。


「……ふふふ」


 常に冷めたようなジト目で周囲を観察している彼女だが、天界の使いを困惑させる絶好の機会を逃すほど、お人好しではない。


「悠真さん、紅茶のお替わりはいかがですか? ケーキばかりでは喉が詰まってしまうでしょう」


 リリアーナは立ち上がり、優雅に悠真へと近づいた。


「ああ、ありがとう……」


 悠真がカップを差し出そうとした瞬間、リリアーナはわざとらしくポットを大きく傾けた。


「そうだよ、ドナも悠真にお茶を飲ませてあげたいなー!」


 ドナは面白がって悠真の腕に抱きついて固定する。


(……これ、わざとだろ!)


 悠真はリリアーナの不自然な動きと、ドナの反応に違和感を感じた。


「……あ、危ない! リリアーナさん、ポットが傾いてるよ!」


 悠真はドナの手を振り払い、ひっくり返る直前のポットをひらりと奪い取った。いたずらが失敗し、ドナは露骨に頬を膨らませて舌打ちする。


「ちぇっ。せっかく面白くなりそうだったのに」


「そんなことに気を使わせないでよ。ほら、ちゃんと戻しておくから……」


 悠真が苦笑いしながら、ポットを中央のテーブルへ戻そうとした、その瞬間だった。


ガクンッ!


「……えっ?」


 スレイプニルの脚が深い窪みに嵌まり、車体が大きく跳ね上がる。


 悠真の「不運」が戦車を揺らし、宙に舞ったティーポットは、真正面に座るエーテラの胸元へ真っ逆さまに吸い込まれた。


「――熱っ!?」


 純白の装束に琥珀色の染みが広がり、エーテラが驚きで目を丸くして声を上げた。


「な、何をするのですか、貴方は!」

「ご、ごめん! 待って、今すぐ拭くから!」


 パニックになった悠真は、反射的に布でエーテラの胸元を拭ってしまう。


ふにゅっ!


 悠真の手が、衣装越しでも分かる柔らかな感触を捉えた。


「あ……」


 一瞬の静寂。


 エーテラの白銀の髪が逆立つかのように震え、その透き通るような肌が、一気に沸騰したような深紅に染まった。


「……この、破廉恥な規則違反者ぉぉぉ!!!」


パチィィィンッ!


 車内に乾いた音が響き渡り、悠真の頬には鮮やかな手形が刻まれた。



「ううっ……ごめんなさい……」


 頬を押さえてうずくまる悠真の背中に、更なる殺気を感じる。


 振り返ると、セレスティアとリーファが「零度の微笑」で睨みを利かせていた。


「ゆうゆう? 混乱していたとはいえ……手が、随分と大胆でしたわね」

「そうですよ悠真様。拭くなら私たちがやれば済む話でしょう……?」


 悠真に冷たい視線を浴びせたセレスティアとリーファは、手早くエーテラの服を拭き清めていった。


「まあ、ひどい染みですわ。それにエーテラ様、お肌に赤みが……。熱くはございませんでしたか?」


 セレスティアが母親のような慈しみでエーテラの顔を覗き込み、火傷がないか細かく確認する。

 そのあまりに自然で温かな気遣いに、毒気を抜かれたエーテラは「あ、いえ……」と小さく毒づくのが精一杯だった。


「私にお任せください。……『癒光ヒール』」


 リーファが優しく手をかざすと、柔らかな光の粒子がエーテラの胸元を包み込む。巫女の清浄な魔力が浸透し、熱を持っていた肌が一瞬で引いていく。


「これで痛みも引き、跡も残りませんわ。……悠真様には、後でたっぷりとお灸を据えておきますからね?」


 セレスティアたちの介抱を受け、エーテラはようやく我に返る。


(……これは怒りではない。熱による反射だ。そう、反射にすぎない)


「……失礼。取り乱したわ」


 エーテラはそう言うと、無理やり表情を消して背筋を伸ばした。


「今のは不測の事態による、ただの生理現象よ。忘れてちょうだい」


 だが、その耳たぶは未だに真っ赤に染まったままで、記録本を持つ手は先ほどよりも激しく震えていた。

設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。

https://www.pixiv.net/users/119429388

評価・ブックマークして頂けると、とても嬉しいですわ。

毎週、火・金の夜21時30分に最新話をUPしてますの。

是非、お待ちしておりますわ♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ