第14話:最高の武器と禁忌の魔法(第3節)
トリモチ騒動から数日間、一行は宿屋の一室で待機していた。
「ドナとリリアーナの研究が終わるまで、しばらく待つしかありませんわね…。あら、リーファさん。そのお洋服……」
セレスティアが声をかけると、そこにはセレスティアから借りていた旅装ではなく、見慣れた、しかし真新しい装束に身を包んだリーファがいた。
「はい。宿に教団の支部から新しい巫女服が届いていたんです。やはり、こちらのほうが落ち着きますね」
リーファは安心したように微笑み、白と青を基調とした清楚なミニ丈の聖装の裾を、少し照れくさそうに整えた 。
そんなリーファをよそに、悠真はふと、不安を口にした。
「ところで、あいつら信用できるの?本当にあの二人に、地図の正確な位置や、アイテムの使い方が解明できるのかな?」
リーファは真剣な表情で続けた。
「でも、もし解明されれば、王女様。古文書にある『呪いの源』の封印を解き、この世界の危機が救われるのですよね?」
セレスティアは毅然と頷いた。
「ええ、その通りよ。そして……それが異世界への扉かもしれない、とエメリアお姉さまがおっしゃっていたわ」
リーファはパッと顔を輝かせた。
「すごい!そうすれば、悠真は元の世界に帰れるのですね?」
セレスティアは視線を伏せ、うつむき加減に小さな声で続けた。
「……そうね」
そして、何かを振り払うように、セレスティアはすぐに顔を上げ、明るく宣言した。
「ですので、待っている間も、有効に使わなくてはね!さあ、わたくしがデートして差し上げますわよ、ゆうゆう!」
セレスティアは優雅な仕草で悠真の腕を掴み、悠真を部屋から連れ出そうとした。
「デ、デート?」
王女の強引な誘いに戸惑う悠真を前に、扉付近で護衛していたボニーは、慌てて首を横に振る。
「せ、セレスティア様、今はその時ではございません!世界の終焉を救うための調査なのです!浮かれて街へ出るなんて……」
すると、リーファが明るく笑って仲裁に入った。
「それはいい考えですね、セレスティア様。行きましょう!ボニーさんも一緒に、気分転換いたしましょう」
結局、セレスティアとリーファの勢いに押され、悠真たちは街へ出かけることになった。
「悠真さん!あそこ、美味しそうですよ!」
市場に着くやいなや、リーファは悠真の腕を引っ張り、早速デートを楽しんだ。セレスティアは、街で評判のおしゃれな菓子店を見つけると、
「まあ可愛い。素敵なお店ですわ、ゆうゆう。この街で一番格式があるのは、ここですわ」
と優雅に悠真を伴い、上流階級風の散策を楽しんだ。
隣を見れば、セレスティアもリーファも、王女や巫女の立場を忘れ、ただの少女のように無邪気に笑っている。
(元の世界に帰ったら、もうみんなとは会えなくなるのかな……)
悠真が物思いにふけていると、セレスティアが優雅に歩みを止め、悠真の左手を掴んだ。
「何をボーっとしているの、ゆうゆう!次はあちらの大きな噴水ですわよ!」
負けじとリーファも、悠真の右手をそっと握って引っ張る。
「ゆうゆう、こっちですよ!あっちの広場では、素敵な音楽が聞こえます!」
両手に美女を引き連れ、悠真は思った。
(こんな可愛い美少女たちに囲まれて、このままこの世界にいるのも悪くないな……)
だが、そうした穏やかな時間が永遠ではないことを、彼は心のどこかで理解していた。
その後、リリアーナからの呼び出しが届いた。
悠真たち一行が、リリアーナの山麓魔導研究所の応接室に入ると、リリアーナは黒いローブ姿で重厚なデスクの前に座り、その横には、ドナが足をぶらぶらさせながら椅子に座っていた。
「入りなさい、凡人たち」
リリアーナは、いつものように冷たい声で一行を迎え入れた。悠真、セレスティア、リーファの三人が揃って席に着くと、リリアーナは資料を広げた。ボニーはいつも通り、扉の近くで護衛をしている。
「貴方から預かった『古びた地図』、『奇妙な形をしたナイフ』、そして私が収集した古文書……全ての調査結果が出たわ」
リリアーナは資料を指し示しながら、淡々と続けた。
「まず、地図についてね。この地図が指し示す場所は、この大陸の北『魔王領グラキオス』にある、人跡未踏の秘境『ヘルヘイム山脈』の深淵よ」
セレスティアが驚愕の声を上げた。
「ヘルヘイム山脈!?あそこは、かつて『神の遺物』が眠るとされた伝説の地では!?」
「ええ。古文書によれば、その『神の遺物』は……」
リリアーナは一瞬言葉を区切り、古文書を指さした。
「『別世界への扉』だと記されているわ」
「別世界……!」
リーファが息を呑む。
「つまり、貴方の地図が示す場所には、この世界とは別の世界を繋ぐ扉が存在する可能性が極めて高い」
リリアーナは悠真を真っ直ぐに見つめた。
「貴方が求める『元の世界』……その扉が、ここにあるかもしれないわね」
悠真はゴクリと唾を飲み込んだ。
(本当に……元の世界に帰れるのか?)
「次に、ナイフについてよ」
リリアーナは古文書の別のページを開いた。
「古文書には、そのナイフは『扉を閉ざすもの』として記述されている。おそらく、これが扉を開く――あるいは閉じる『鍵』なのでしょうね」
セレスティアがハッと顔を上げた。
「つまり、このナイフが、ゆうゆうを元の世界へ帰還させるための『鍵』である、と……?」
「そう考えるのが合理的ね。ただし……」
リリアーナは古文書の挿絵を指さした。そこには、光を放つ宝石のようなものが描かれていた。
「『世界を導く者、その力を解放せんと欲すれば、運命の石の導きを受けよ』……鍵を起動させるには、貴方の持つ『運命の石』が必要だということよ」
悠真は、リーファ、セレスティア、ボニーの顔を見渡した。皆、真剣な眼差しで悠真を見つめている。
「ヘルヘイム山脈……。極寒の地『魔王領グラキオス』と、『ヴァルハラ傭兵団国』を隔てる国境。危険な道のりになるでしょうが、行くしかないわね」
セレスティアが毅然とした声で言った。
「はい!この世界の終焉を救うため、そして、悠真さんの故郷へ帰る扉を見つけるため、たとえ魔王領であっても、リーファはどこまでもご一緒いたします!」
リーファも力強く頷いた。
「ま、魔王領の近く…?行きたくないけど、仕方ないよな……」
悠真は、皆の真剣な表情を見て、肩を落とし青ざめた表情で決意を新たにした。
その決定を聞き、ドナは椅子から飛び降り、嬉しそうに悠真の腕に抱きついた。
「わーい!冒険だ、冒険!がんばろうね、お兄ちゃん」
「私も行くわ。『鍵』の発動には、私の魔力で伝説の魔道具を起動させる必要がある。それに、古文書に記された『神の遺物』を、この目で直接確かめてみたいもの」
リリアーナは静かに杖を構えた。
「え、ちょっと待って。君たち二人も来るの?…嫌な予感しかしないんだが……」
と顔を引きつらせて、声にならない悲鳴を上げたが、リリアーナは無表情のまま無視した。
「いよいよ、ドナがミスリルを使って完成させた、伝説の魔道具の出番だ!」
ドナはそう言うと、張り切って指示を出した。
「じゃあ、みんな!明日の朝、ドナの鍛冶屋に集合ね。出発前に、とっておきのいいものを見せてあげるからさ!」
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