第14話:最高の武器と禁忌の魔法(第2節)
ロックゴーレムの打倒後、静寂が戻った坑道の入口で、悠真は、ふくよかな胸に自分の体を密着させたまま、赤面している護衛騎士ボニーに尋ねた。
「おい、ドナ。これ、どうやったら取れるんだ?早く何とかしてくれ!」
トリモチの粘着力は異常なほど強力で、悠真とボニーの身体は、びくともしない。
ドナは、そんな二人の様子を、面白そうに観察しながら言った。
「ああ。そのトリモチはすごい強力だから、ドナの工房にある薬剤でしか分解できないよ」
「なっ!じゃあ、街まで戻らないと……」
悠真は焦る。
「ええ。ですが、採掘が先よ」
リリアーナは淡々と言い放った。
「今から工房まで戻ったら、ミスリルの採掘は明日になるわ。明日になればロックゴーレムが復活してしまうから、しばらくそのままで我慢してちょうだい」
悠真は、目の前が真っ暗になった。男と女の肌が、ぴったりと触れ合う密着状態で、このまま採掘作業を続け、さらに街まで帰るというのか。
「うそだろ……。ボニー、ごめん、ちょっと動くよ」
「ひゃあ!ゆ、悠真殿!や、やめてください。胸を押さないで……!」
ボニーは顔を真っ赤にして悲鳴を上げるが、トリモチのせいで悠真と離れることができない。悠真の肘に密着したふくよかな胸は、僅かな隙間もなく押し付けられ、太ももは不自然な角度で絡み合っている。悠真が少し体を動かせば、柔らかい頬の感触と、女性らしい甘い香りが鼻腔をくすぐる。
ドナはそんな二人の様子を見て、面白そうにニヤニヤ笑う。
「あはは!お兄ちゃんとボニーのお姉ちゃん、ラブラブだね!」
セレスティアは、腕を組み、憤然として一歩前に出た。
「ゆうゆう!わたくしの前でボニーに密着して恥ずかしくないの?!離れなさい!」
セレスティアは、ボニーの背中と悠真の背中に付着した粘着質の塊を、直接素手で引っ掴んで引き剥がそうとした。
ベチャッ!
「あ…」
セレスティアの手がトリモチに触れた瞬間、彼女の手もまた、強烈な粘着力で悠真の背中に吸い付いてしまった。
「は、離れないですわ!ちょっとドナ、何とかしなさいよ!」
ドナは肩をすくめ、愉快そうに笑った。
「だから言ったじゃん、工房の薬剤じゃないと取れないって。早くミスリルを回収して、工房に戻るしかないね!」
リリアーナは、冷静に頷いた。
「ええ、採掘を急ぎましょう。リーファ、そこで遊んでる凡人たちを、見張ってて頂戴。魔物の餌にならないようにね」
数時間後。ドナは、貴重なミスリル鉱石を大量にリュックに詰め込み、リリアーナの山麓魔導研究所の前まで帰還した。悠真たちは、始終密着したままの体勢により、疲労が限界を迎えていた。
「やったね!リリアーナ!最高の素材だよ!」
ドナは、ミスリルで一杯のリュックを背に、満足げに手を叩く。
「このミスリルがあれば、秘伝の設計図にあった魔道具が完成するよ!お兄ちゃん、楽しみに待ってろ!」
ドナは悠真にウインクをするが、悠真はトリモチの不快感と密着から早く解放されたい一心で、それどころではない。
その時、リリアーナは杖を軽く地面に突いた。
「では、私はこのミスリル鉱石の分析と、古文書の研究に戻るわ。貴方たちも今日は疲れたでしょう、解散よ」
リリアーナは悠真たちに背を向け、研究所の重厚な扉を開けようとする。
「じゃあね、お兄ちゃん。またねー」
ドナも手を振って、別れを告げる。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
悠真は、セレスティアとボニーに密着したまま、必死に二人を引き止めた。
「トリモチですよ!溶解薬はどうするんですか?!工房にあるって言ったでしょう!」
悠真の言葉に、セレスティア、リーファ、ボニーの視線がリリアーナに集中する。
リリアーナは、扉に手をかけたまま、ああ、というように無関心な声を漏らした。
「ああ、そういえば……まだくっついていたわね」
彼女は面倒くさそうに振り返り、杖を軽く一振りした。
「無へ帰せ、イレイザー!」
リリアーナが淡々と詠唱すると、杖の先端から青白い魔力が放たれ、悠真、セレスティア、ボニーの三人に付着していた強力な粘着性のトリモチが、一瞬にして蒸発し消え去った。
「えっ……」
悠真とボニーは、自由になった体と、清潔になった衣服に驚き、呆然とする。
「溶解薬なんて、いちいち手間がかかるじゃない。分解魔法で十分よ」
リリアーナはそう言い放つと、赤紫色の目で悠真を一瞥した。
「貴方たちを観察する為に、わざとそのままにしておいたのよ」
リリアーナの冷酷な告白に、悠真は怒りと疲労で声を震わせた。
「な、なんだと……!僕たちは、あの状態で必死に……!」
横で聞いていたドナも、ニヤニヤと笑いながら、両手を腰に当て、無邪気に言い放った。
「ドナも知ってたよ!でも、お兄ちゃんたち、めっちゃ面白かったから、ずっと黙ってたんだ!」
悠真は、自由になったボニーとセレスティアと顔を見合わせ、三人同時に、絶望的な表情で呟いた。
「……薄情者!」
「……悪魔ですわ!」
「……人でなしです」
リリアーナは、三人の罵倒を無視し、楽しそうに笑うドナと共に、研究所の奥へと消えていった。
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