第14話:最高の武器と禁忌の魔法(第1節)
「グルルルオオオオッ!」
目の前には、坑道の入り口を塞ぐように、巨大な岩石の巨体を持つモンスター、ロックゴーレムが立ち塞がっていた。
「さあ、凡人。出番よ」
「お兄ちゃん、頑張って♡」
賢者二人はそう言うと、悠真の腕から手を離し、後ろから背中を前に押し出した 。
「おい、お前ら、嘘だろ?!僕を守ってくれるんじゃ無かったのかよ!!!!」
腹の底に響くような咆哮を上げ、ゴーレムがドシンドシンと足を踏み鳴らす。
「悠真殿、私が前衛を務めます!後ろへ!」
護衛騎士ボニーが、悠真を庇うように剣を構えて前に出る。
「皆様、私が援護します!聖なる光よ、我らを守りたまえ!」
リーファも即座に杖を掲げ、光魔法の詠唱に入った。セレスティアも剣を構え、迎撃の態勢をとる。それを見た悠真も、慣れない手つきで剣を抜いて構えた。
四人が臨戦態勢に入ってもなお、賢者二人は相変わらず、後ろで楽しそうに話し合っていた。見かねたセレスティアは、二人に苦情を告げる。
「あら、お二方、どうかされまして?怖くて戦えないのなら、お家に帰ってもよろしくてよ」
ドナは、キラキラした目で笑うと、人差し指を立てて言った。
「ちっちっち。ドナの武器は、飛び道具なんだよ。ちょうど新兵器を実験したかったんだ」
そして、背中からリュックを下ろし、ガサガサと漁りはじめる。
「フフ、奇遇ね。私もちょうど、遠隔魔法で試したい事があったのよ」
リリアーナは杖を弄びながら、冷酷な目で悠真たちを見つめると同時に、悪巧みめいた笑みを浮かべた。
賢者たちが話し込んでいる間にも、ロックゴーレムは巨大な拳を振り上げ、悠真たちに向かって突進してきた。
「グオオオオッ!」
「あっ、危ない!悠真殿、下がって!」
ボニーは叫ぶと、悠真を庇いながら、片手剣でゴーレムの岩の拳を受け止めた。
ゴオオッ!キンッ!
「ぐっ!」
ボニーの剣とゴーレムの拳がぶつかり、岩が砕ける音と火花が散る。しかし、ゴーレムの硬度は予想以上で、ボニーは攻撃を止めるので精一杯だった。
「硬い!まるでミスリル鉱石のようですわ!」
セレスティアが驚愕の声を上げ、剣を構え直す。
「私も援護を――」
リーファが杖を掲げようとした、まさにその時。
「いっけー!ドナ特製、『キャプチャー・ランチャー』!」
ドナがリュックから奇妙な筒状の魔道具を取り出し、トリガーを引いた。
ボシュッ!
その銃口から、勢いよく砲弾が発射され――
「へ?」
悠真が振り返った瞬間、謎の粘着質の液体が直撃した。
「うわっ!?な、なんだこれ!ネバネバする!」
それは、トリモチのように強力な粘着力を持つ特殊な樹脂だった。悠真がバランスを崩してよろめくと、悠真の声に振り向いたボニーと正面から激突した。
ベチャッ!
「ひやっ!?ゆ、悠真殿!?いやぁ、離れて!!」
ドナの放ったトリモチによって、悠真とボニーは、まるで抱き合うような恥ずかしい体勢でガッチリくっついてしまった。
「と、取れない!ボニー、くっついて離れないよ!」
「へ、変なとこ触らないでください、変態!!」
大きな胸が肘に密着し、むっちりとした太ももが足に絡まる。やわらかいほっぺが顔に引っ付き、吐息が鼻をくすぐる。手にした剣と剣は、ベッタリと重なり合い、まるで身動きが取れない。
「あははは!お兄ちゃんたち、トリモチに捕まって、変なの~!」
ドナが腹を抱えて笑う。
「ドナァァァ!敵を撃てよ、このメスガキ!」
悠真が絶叫する。
接着し身動きが取れなくなった二人目掛けて、ロックゴーレムが再び岩の拳を振り上げた。
「危ない、悠真様!聖なる光よ、神罰の矢!」
悠真の危機に、リーファはパニックになりながらも、助けようと渾身の光魔法を放とうとする。
その瞬間、リリアーナが涼しい顔で杖を振るった。
「次は私の番ね。実験を始めましょう――風よ、渦を巻け(トルネード)!」
ビョオオオオッ!
リリアーナが呪文を唱えると、地面から局地的な突風が巻き起こり、リーファとセレスティアの足元から真上に吹き上がった。
「きゃっ!!」「いやんっ!!」
リーファのスカートと、セレスティアのローブが、突風によって盛大にめくれ上がる。
「ちょっと、リリアーナ!何を――」
セレスティアが抗議しようとするが、リリアーナは意に介さない。
リーファは羞恥で光魔法のコントロールを失い__
ズドォォン!
リーファの杖から放たれた閃光は、ゴーレムではなく、悠真とボニーが接着し重なり合っていた「剣」に向かって飛んでいった。
「きゃあっ!悠真様、ごめんなさい!」
リーファの援護もむなしく、ロックゴーレムの岩の拳が、再び悠真たちにめがけて振り下ろされた。
「うわぁ!もうだめだ!!」
「ひいぃ、死にたくないですぅ~!!」
その瞬間、悠真の首にかけた運命の石が激しく光り、リーファの光魔法が、トリモチで密着した二人の剣へと流れ込んだ。
「え……?」
悠真とボニーの剣が、眩い光を放ちながら輝きはじめる。
ズバァァァァァァァァァン!!!
光を纏った剣は、迫りくるロックゴーレムの巨体を、まるで豆腐のように真っ二つに切断した。ゴーレムは断末魔を上げることもなく、崩れ落ちる。
「た、助かった…?」
悠真とボニーは、べっちょりと密着したまま、剣と腰を地面に下ろして放心している。
「完璧ね。光魔法と剣、そして救世主の不運の力の融合による『光の剣』。狙い通り、リーファの魔法を剣に誘導できたわ」
リリアーナは、とても満足そうだった。
「ねえ、そろそろ風を止めてくれないかしら?」
その隣で、セレスティアとリーファが、顔を赤らめながらスカートを押さえていた。
「どう?トリモチの粘着力は」
ドナも、魔道具の大筒を肩に担いで、満足そうにしている。
「……なあ、このトリモチ、どうしたら取れるんだ?」
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