第13話:残念なぼくを罵る、容赦なき賢者たち(第3節)
「ね、お兄ちゃん!ドナの宝の地図が示す場所へ、一緒に連れて行ってよ!」
ドナは悠真の拘束を解くやいなや、悠真の腕にすがりつき、顔に頬を寄せて訴え始めた。だが、つい先ほどまで二人の賢者に苛烈な「拷問」を受けていた悠真の顔は、絶望に歪んでいた。
「嫌だよ!何で僕が、ひどい目に遭わせてきた君たちの手伝いをするんだよ!また何か変なことをする気だろう!」
そこへ、先ほどまで隣の部屋でまったりとお茶をしていたセレスティアが、悲痛に訴える悠真の前に立ちはだかる。
「何を言っているのですか、ゆうゆう」
セレスティアは、王国の姫として冷徹な判断を下す。
「ドナ様。リリアーナ様。そのミスリル鉱が国力増強に役立つ魔道具の素材であるならば、この計画は我が国が全面的に承認し、援助いたします」
セレスティアは、ミスリルという伝説の素材の価値を即座に見抜いた。
「勝手に承認するなぁ!!!!」
悠真は、信頼する婚約者であるセレスティアのあまりにも事務的な言い方に、ショックを受けた。
「悠真様。これも、救世主としての使命です。可愛い妹のためにも、頑張りましょう」
先ほど二人の賢者に絡まれ、まだ嫉妬しているのか、リーファも少し意地悪く賛同する。その様子を見ていたリリアーナは、静かに笑みを浮かべた。
「フフフ。面白そうね。私も同行するわ」
リリアーナは、紫色のローブに身を包み、肩にかけた麻布の鞄に水晶玉をしまい込んだ。
「この運命の導きとやらが、本当に古い魔導書が示す通りなのか、自分の目で確かめたいものだわ」
それから、リリアーナの拠点である西の街はずれの山麓魔導研究所に、明日の朝に集合することを約束した後、悠真はセレスティア・リーファ・ボニーとともに、元の宿屋へ戻った。
宿泊しているのは、技術都市クロノスの高級ホテル『銀の剣亭』だ。磨き上げられた白大理石造りの三階スイートの一室に戻ると、悠真はすぐにベッドに倒れ込んだ。工房での拷問のせいで、全身の筋肉が痙攣し、頭が酷く重い。
「ゆうゆう、大丈夫ですか?」
セレスティアは、実験中とは打って変わって、婚約者としての優しさを見せ、悠真の傍に座り、濡れた布で悠真の額を拭っていた。
「まったく、ひどいですね、悠真様。いくら何でも、少しやりすぎです」
もう傍らからは、リーファが魔法で癒しをかけている。
「お前ら…それ、さっき言えよ…」
すると、コンコンと控えめなノックが響き、扉のそばで待機していたボニーが、セレスティアへ向けて静かに声をかけた。
「姫様、ココネ殿がお飲み物をお持ちになったようですが」
セレスティアが頷くと、ボニーが扉を開け、猫耳のメイド、ココネが銀のトレイに乗せた紅茶を運んできた。
「にゃあ!お客たま、お疲れのところ失礼するにゃ。お休みの前に、特製のリラックスティーをお持ちしましたにゃ!」
ココネは尻尾をブンブンと振りながら、心配そうにベッドの悠真を覗き込む。
悠真は目を閉じながら、弱々しい声で呟いた。
「ココネちゃん……ありがとう。さっきまで、ひどい目に遭っていたから、助かるよ……」
その言葉を聞いたセレスティアとリーファは、顔を見合わせたが、ココネの子猫のような愛らしさに目を奪われ、顔がほころんだ。
「ココネちゃん、これで遊びましょう」
セレスティアは、おもむろにローブの内側から、一本の羽根ぼうきを取り出した。
「その羽根ぼうき、さっきの…」
それは、悠真が先ほど工房で使われた、おそるべき羽根ぼうきだった。
「リーファもご一緒にどうかしら?」
セレスティアはもう一本取り出し、リーファに手渡した。二人は羽根ぼうきを猫じゃらしのように振り、甘い声で呼びかける。
「「ココネちゃん♡こっちへ、いらっしゃ~い」」
すると、ココネの猫耳がぴこぴこと跳ね、羽根ぼうきに向かって無邪気に跳びかかった。
「うにゃっ?」
ココネは、顔面蒼白になっている悠真をよそに、小さな愛らしい手を前足のように丸く握って、チョイチョイと不器用に羽根を叩く。
「可愛い……!」
「ココネちゃん、こっちですわよ!」
ココネは、尻尾をフリフリと小刻みに震わせ、床に伏せて獲物を狙う子猫のように丸い瞳をキラキラと輝かせる。セレスティアとリーファの瞳は、ココネの愛らしい反応に釘付けになり、夢中で羽根ぼうきを振り続けた。
セレスティアは、懐から更に二本の羽根ぼうきを手に取ると、ボニーと悠真に差し出した。
「あなたたちも一緒にどうぞ」
ボニーは羽根ぼうきを快く受け取ったが、悠真は顔を引きつらせた。
「う、受け取れない!あの羽根の感触は……さっきのトラウマが!」
悠真が恐怖で羽根ぼうきを拒否する隣で、ボニーは、ココネを羽根ぼうきで無心にあやし始めた。
「かっ、可愛すぎる!ココネ殿……」
ボニーは、騎士としての冷静さを失い、満面の笑顔でココネを追いかけ回す。ついさっきまで拷問の疲労で心配されていた悠真は、三人から完全に放置されてしまった。
「…お〜い。僕のこと、誰か構ってくれよ」
悠真は、一人寂しく紅茶をすすりながら、明日の探索を思って憂鬱になった。
(また、あの二人の賢者に何されるんだろう……)
夜が明け、悠真たち四人は宿屋から、リリアーナの山麓魔導研究所へと向かった。
研究所は、街の西の外れの山の麓に位置していた。その建物は、周囲の木々の間に、質実剛健な石造りのシンプルな研究棟として建っていた。窓は少なく、外部からは内部の様子が窺い知れない、いかにも賢者の隠れ家といった雰囲気だった。
「これが、リリアーナ様の研究所ですか……」
セレスティアは、その厳めしい外観に、やや眉をひそめた。
「ふむ、結界が何重にも張ってありますね。魔導士の研究施設としては完璧な構造です」
リーファは冷静に分析する。
研究所の入口前には、既にリリアーナとドナが待っていた。
ドナは、昨日着ていた作業服の上から、体よりも大きな麻布の大きなリュックを背負い、まるでこれから遠足に行く子供のような様子だ。彼女のリュックからは、怪しげな工具の柄がいくつか飛び出している。
ドナは悠真の姿を見つけるやいなや、リュックをガサガサと揺らしながら駆け寄り、腕にしがみついた。
「お兄ちゃん!遅いよ!ドナ、待ちくたびれちゃった!」
そして、ドナの後ろにいたリリアーナは、紫色のローブを風になびかせながら、退屈そうにため息をついた。
「全く、凡人は優雅なものね。もう一時間以上待っているわ。さあ、時間がない。私の最高の実験台が体調を崩さないうちに、早く出発しましょう」
リリアーナはそう言うと、ドナと反対側の腕を絡める。
「離せぇぇ!また変な実験台にされる!」
悠真は、ドナとリリアーナに左右から腕を組まれ、山へと引っ張られていく。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん!ドナがちゃんと護ってあげるから!」
ドナは上機嫌だ。
「ふふ、ご安心なさい。私は研究のためなら、少々の危険は厭わない主義だわ」
リリアーナは、実験体を手に入れた研究者のように笑う。
一方、セレスティアとリーファは、悠真の隣を歩くのが自分たちではなく、賢者二人であることに、頬を膨らませていた。その様子を見たボニーは、面倒ごとを避けるようになだめる。
「ま、まあ…。目的の洞窟まで、賢者様にご案内してもらいましょう…」
一行は賢者の案内により、鬱蒼とした森の山道を、賑やかに登り続けた。
数時間後、断崖に阻まれ山道が途絶えたあたりの岩肌に、かすかに掘削の跡が見える場所にたどり着いた。
「お兄ちゃん、ここじゃない?水晶玉に映っていた場所って」
ドナが興奮して指さす。
「どうやら、着いたようですね。伝説のミスリル鉱脈の入り口に」
セレスティアが杖を握りしめる。
「グルルルル……」
しかし、その洞窟の入り口の前には、巨大な岩石のようなモンスターが、唸り声を上げて立ち塞がっていた。
「坑道の守護者ね。これも文献通りだわ」
リリアーナが不敵に笑い、そうつぶやいた。
「文献通りって…、何しれっと言ってるんだ。モンスターがいるって知ってたのかよ!」
悠真はそう言って、後ろに下がろうとすると…、
「さあ、凡人。出番よ」
「お兄ちゃん、頑張って♡」
賢者二人はそう言うと、悠真の腕から手を離し、後ろから背中を前に押し出した。
「おい、お前ら、嘘だろ?!僕を守ってくれるんじゃ無かったのかよ!!!!」
悠真は、絶望的な顔で叫んだ。
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