第13話:残念なぼくを罵る、容赦なき賢者たち(第1節)
ドナと名乗る少女の、作業着越しの絶望的に平坦な胸元。
それを両手でしっかりと捉えたまま、悠真は硬直していた。少女は顔を真っ赤に沸騰させ、全身をワナワナと震わせている。
「ゆうゆう……」
「悠真さん……」
背後から突き刺さる、セレスティアとリーファの絶対零度の声。
それでようやく我に返った。
「あ、ご、ごめんなさ……ぐはあっ!?」
顔面に、渾身の正拳突きがめり込んだ。
「な、何しやがる! この変態クソざこがぁ!」
少女は落としたハンマーを拾い上げると、羞恥と怒りに任せて振りかぶる。
「まてまてまて! 人違いだ、本当にごめん! でも無理もないんだ! あんたが――」
悠真は尻餅をつきながら必死に弁解する。
「はあ? 誰が妹のコハルだ、ざーこ! あたしの名前はドナだよ! ドナにお兄ちゃんなんていないんだよ! さっさと失せな!」
その生意気で容赦のない毒舌。元の世界の妹と同じ種類の懐かしさに、悠真は思わず口元を緩めた。
「そのピンクのツインテールも、顔も、目つきも、小柄な身長も、全部俺の妹にそっくりなんだ! だから思わず……」
そして、無意識のうちに、先ほど触れた自分の手のひらを見つめ、ぽつりと呟いた。
「……それに、このぺったんこな胸も、あいつとそっくり……ぐはあっ!?」
今度は顔面に、強烈な頭突きを喰らわされた。
「い、今なんつった!? ぶっ殺すぞ、このくそザコがぁぁぁ!!!!」
ドナの顔が、真っ赤な溶岩のように爆発した。豊満な胸への強いコンプレックスを抱える彼女にとって、それは絶対に許されない禁句だった。
「このドナが、粉々に砕いて窯の燃料にしてやる!」
凄まじい怒気を放ち、本気で悠真の頭を叩き割ろうとハンマーを振り上げる。
その瞬間、事態が手に負えなくなると判断したセレスティアが、有無を言わせぬ視線をボニーへ投げた。
(ひ、ヒィッ! 私?!)
ボニーは顔を真っ青にして、慌てて二人の間に割って入った。
「お、お待ちください、ドナ様! そ、そのハンマーを下ろしてくださいましっ!」
泣きそうな顔で、震えながら叫ぶ。
「こ、このお方は……異世界から召喚された『救世主』で! 首の石が『運命の石』に他なりません! 賢者様がこれを破壊してしまっては、使命がっ!」
悲鳴に近い必死な訴えに、ドナのハンマーがピタリと止まった。
「え、賢者? あ、ああ! そうか、いもうと……じゃ、ないのか?」
悠真がようやく理解すると、ドナはハンマーを下ろし、まだ怒ったまま悠真を睨みつけた。
「フン。やっと気づいたか、ざーこ」
頭のてっぺんから爪先まで、品定めするように観察する。
「そんなことより、このザコが『救世主』だと? この軟弱そうな、へなちょこが?」
ドナは罵りながら、悠真の首元に下げられた石に手を伸ばし、乱暴に引っ掴んだ。
「っ……!」
ドナの指先が『運命の石』に触れた瞬間。
彼女の瞳が、劇的に変貌した。
「こ、これは……この、すごい魔力は……何? それに、この石、見たこともない素材……?」
生意気だった表情が純粋な探求心に変わり、やがて、獲物に対する異常な執着へと濁っていく。
「うふ、うふふふふ……」
不気味な笑みを浮かべた後、その表情が甘く蕩けるように崩れ、瞳に星が輝きはじめた。
そして――。
「お兄ちゃん♡」
ドナは、まるで甘える子猫のように、悠真の腕にすりすりと頬を擦り寄せた。
「……は?」
「もぉ、しょ〜がないなぁ、お・に・い・ちゃん♡」
先ほどの狂暴さは微塵もない。兄に甘える幼い妹、そのものだった。
「はあ!?」
「わかった! このドナが、ぜ〜んぶ協力して、あ・げ・る♡」
潤んだ瞳で上目遣いに訴えかけてくる。
「そんなに言うなら、このドナが、お兄ちゃんの『妹』になってあげる! だから、この石、ドナにも見せて! お兄ちゃん!」
「はあぁぁぁぁ!?」
極端すぎる豹変ぶりに、悠真は思わずドン引きした。
背後では、セレスティアとリーファが口をあんぐりと開けて言葉を失っている。
ドナは悠真の腕に頬をなすり付けながら、さらに続けた。
「ふふん! 約束だよ、お兄ちゃん! これからは、ドナの言うことは絶対聞く、ドナのわがままは聞いてもらう。絶対だぞ……あいてっ!」
限界を超えてドン引きした悠真は、無言でドナの頭上に空手チョップを振り下ろした。
「いや、気持ち悪いって。離れろドナ……あいてっ!」
今度は背後から、セレスティアの錫杖が悠真の頭をポカンと叩いた。
「ゆうゆう……。わたくしはもう、どうでもよくなりました」
完全に理解を超えた目で二人を見ると、半ばあきらめの表情で息を吐く。
「この際だから、そのドナ様のお兄さんになっておあげなさい。目的のためには、いた仕方ありませんわ」
「さっすが、お姉ちゃん! じゃあお兄ちゃん、これからよろしくね♡」
「いや、兄になれって。さすがにそれは……」
抗議の視線を送るが、セレスティアは斜め上の解釈を始めていた。
「お姉ちゃん……。ゆうゆうがお兄さまということは、つまり、わたくしはドナのお姉さま。……それも悪くないですわね、うふふ」
何やらおかしな独り言をつぶやいている。
その隣で、リーファが悲鳴のような小さな声で呟いた。
「悠真さん……その運命の石、なんだか恐ろしいものを引き寄せていますね……」
悠真はあきらめて、ドナのお兄さんになることにした。
設定・イメージイラストは、ピクシブに掲載中です。
https://www.pixiv.net/users/119429388
評価・ブックマークして頂けると、とても嬉しいですわ。
毎週、火・金の夜21時30分に最新話をUPしてますの。
是非、お待ちしておりますわ♡




