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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第2章:『残念で不幸な僕を、異世界美少女が欲しがる件について』
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第11話:南方への旅路と、見つめる影(第3節)

「グガアアア!」

悠真の異変とともに、行く先に禍々しい黒い光が現れたその直後、山道に張り詰めていた空気が、数十、数百という魔物の咆哮によって引き裂かれた。

土煙が舞い上がり、周囲の茂みから、ゴブリンやオーガといった魔物の群れが、怒涛の勢いで一行を取り囲み始めた。彼らの数は、われわれ四人だけではとても勝ち目はない。

「なっ!まさか、待ち伏せを!?」

セレスティアの顔から、先ほどの嫉妬の怒りが一瞬で消え去り、緊張の色に変わる。

「ゆうゆう、立てるかしら?ほら、わたくしが肩を……」

「う、うん……」

セレスティアは即座に行動し、よろめく悠真を馬に乗せようとする。

「わたくしも、お手伝いをいたします」

リーファも手を貸そうとするが、

「いいえ、あなたも早く馬に」

セレスティアは拒絶し、隣にいるボニーへ鋭い目配せを送った。

「リーファ様!は…早くこちらへ!」

その声に、リーファはハッと我に返り、慌ててボニーの馬へ飛び乗った。

「ゆうゆう。今は黙って、わたくしに掴まっていらっしゃい!」

馬の背にまたがった悠真は、今度はセレスティアの腰にしっかりとしがみついた。今は素直に、セレスティアの指示に従うべきだろう。

ボニーは、背後で体勢を整えたのを確認すると、背中のリーファに声をかける。

「リ、リーファ様。援護をお願いしますっ…!」

リーファは、ごくりとつばを飲み込むと、錫杖を強く握りしめ、覚悟を決める。

「はいっ!いつでも、どうぞ!」

「姫様、我々が進路を切り開きます!」

と叫ぶと、魔物の群れの中で最も手薄そうな方向へ狙いを定め、馬を突進させた。

ボニーの馬が、その恐怖を乗り越えるかのように群れに突っ込むと、剣を振り回し、先頭のゴブリンを切り倒す。

「ボニー様、そちらへ!」

リーファは、即座に詠唱を終えると、ボニーが切り開いた進路の前方に、風のウィンドブレードを連続して放ち、魔物の動きを鈍らせ、その進路を広げる。

「追従しますわ!悠真様、しっかり掴まっていらっしゃい!」

セレスティアも、必死にボニーの後に続き、魔物の包囲網を見事に突破した。

なんとか魔物の包囲網から逃走に成功した一行だが、魔物の群れはすぐには諦めない。二頭の駿馬により、魔物との距離は少しずつ広がるものの、後方からは弓兵が追いつき始めている。

「セレスティア様!わたくしが殿しんがりをお引き受けします! 悠真様とリーファ様は、構わず先に!」

ボニーが剣を血に濡らしながら叫んだが、セレスティアは即座に拒否した。

「いけません!構わず先に進みなさい!とにかく逃げるのよ!」

セレスティアは叫び、逃走に専念するよう強く命令した。

その時、後方から魔物の弓兵が放った数本の弓矢が飛来した。

ヒュッ!

そのうち一本の弓矢がセレスティアの頭のすぐ横をかすめ、悠真は間一髪でその危機を察知した。

「うわっ!」

驚きと恐怖で慌てた悠真は、セレスティアを両手でぎゅっと掴みしがみつき直した。

「ひゃっ!どこを触ってるの!」

悠真は必死のあまり、無意識にセレスティアの脇腹を両手でつかんでいた。

「うわっ、ご、ごめんなさい!」

くすぐったさと驚きで、セレスティアが思わず体をよじる中、後方の魔物により、弓矢と投石による攻撃が続き、雨あられのように飛来してくる。

「ゆうゆう、くすぐったいわ!離しなさい、キャッ!」

その結果、馬は大きく左右に蛇行し、飛んできた弓矢や投石の攻撃を、偶然にも次々と回避する。馬の激しい蛇行に振り落とされまいと、悠真はさらに力を込め、セレスティアのお腹をきつくつまむようにしがみついた。

「いけません、そこは!ああっ...んん!」

セレスティアは体をよじった。昨夜の宴で、同じようなハプニングがあったばかりなのに、また…!

恥ずかしさと怒りと、そしてくすぐったさに艶めかしい声を漏らしながらも、その不規則な蛇行運転によって、飛来する攻撃をかわし続けた。

十数分ほどの逃走の末、ボニーとセレスティアの駿馬によって、魔物の弓矢が届かないほど、距離は広がった。

セレスティアは、安堵から深く息を吐き出すと、すぐさま背後の悠真に囁いた。

「……よかったわ。これで、一旦は逃げ切れたようね。ねえ、そろそろわたくしの横腹から手を離していただけるかしら?」

悠真はハッと我に返った。自分の両手が、先ほどまで艶めかしい声を上げさせていた、セレスティアの柔らかな横腹に食い込んでいたことに気づき、顔を真っ赤にして手を離した。

「す、すみません!無我夢中で……!」

「よ、よろしくってよ。それより、まだ油断できません。なるべく先に進んで、距離を取りましょう」

そう言って、再び馬を走らせると、視界が開けた場所で、馬たちは悲鳴を上げて一斉に脚を止めた。

「な……っ」

眼の前には、まるで大地が引き裂かれたかのような、幅数十メートルにも及ぶ巨大な地割れが出現していた。その谷底は見えず、地割れの向こう側へは進めない。

「嘘でしょ……行き止まりですの!?」

セレスティアが絶望の声を上げた。逃げ場は完全に断たれた。

「あわわわ……完全に袋のネズミです!このままでは…!」

ボニーの顔は恐怖に引きつり、その肩は小刻みに震えていた。

背後からは、先ほどの魔物たちの群れが、弓矢や投石の構えを取りながらゆっくりと迫ってきている。

ボニーの大きな瞳には今にも零れ落ちそうな涙が浮かび、声も震えていた。

「こ、こうなったら、私が囮になって逃げるしか方法が……。まさか、ソフィア王女の冗談が、現実になる日が来るなんて……。お、お母さま、先立つ不孝をお許しくださぁい…」

絶体絶命のその時、ポツ…ポツ…と、空から雨粒が落ちてきた。

セレスティアは、自分の頬に当たる雨粒の冷たさを感じながら、その雨粒が地割れの空間に落ちるのを見つめていた。

ポツ…ポツ…パチィン!

地割れの谷間を落下するはずの雨粒が、地面に触れた瞬間に水滴のように弾け飛んだ。セレスティアは、その異常を見逃さなかった。

(水が……弾け飛んだ?まるで透明な壁にぶつかったような。これはつまり――)

セレスティアの目が鋭く光った。

「ボニー、あなた見かけによらず勇敢ね。でも、その必要はないわ。」

セレスティアは、迷うことなく強く手綱を握りしめ、皆に向かって叫んだ。

「わたくしを信じ、馬を走らせなさい! 雨粒が地面で弾けました!これは何者かによる幻術ですわ!」

「えっ!?セレスティア様!?」

ボニーとリーファが驚きの声を上げる中、セレスティアは、強く手綱を握り、愛馬『銀狼』に命令した。

「さあ『銀狼』、行きますわよ!」

『銀狼』は一瞬たじろいだが、セレスティアの強い意志に押され、巨大な地割れに向かって勢いよく駆けた。

リーファとボニーは、一瞬の躊躇のあと、セレスティアが地割れに消えるのを見て、信じられない光景に目を丸くしながらも、その後に続いた。一行は、無事に地割れを通り抜け、そのまま逃走を再開した。

後方から駆けつけてきた魔物の群れは、眼前の巨大な地割れに面し、幻覚を本物と信じて立ち往生した。魔物たちは、自分たちが必死に追い詰めた獲物が、なぜ目の前の谷に落ちていかないのか、理解できずに混乱していた。


その頃。

一行から遥か遠く、ヘルヘイム山脈のふもと近くに建てられた、寂れた古い塔の内部。

無数の奇妙なランプが灯る薄暗い部屋で、魔王軍幹部のひとり『幻影のブルーメ』が魔法の水晶玉を眺めていた。彼女の背後には、深淵の輝きを放つ幻影の獣が、まるで彼女の影のように寄り添っていた。

水晶玉の中には、地割れを突破し、逃走を再開した直後の悠真たち一行の姿が映し出されている。

「フフフ……。早くお会いするのが楽しみだわ」

彼女は静かに水晶玉を見つめると、薄く、不気味な笑みを浮かべた。

「残念な救世主様……」

読んでいただき、ありがとうございます♡

評価・ブックマークして頂けると、とても嬉しいですわ。


毎週、火曜日と金曜日の、夜9時30分ごろに投稿予定ですので、

次回も是非、お待ちしておりますわ♡

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