第10話:勝利の美酒と、月明かりの美女(第1節)
魔物の巣穴を完全に制圧した傭兵団の野営地は、勝利の熱狂に包まれていた。山奥の暗闇の中、焚き火がパチパチと音を立て、荒々しい傭兵たちの笑い声が響く。
彼らは、王女一行の奇妙な同行者――異世界から来た救世主である悠真が、その「不幸な予知」で魔物の本拠地を偶然発見し、大勝利をもたらしたという奇跡を称え、急遽、盛大な宴を開いていた。
中央の大きな焚き火の傍には、王女一行のために特別な席が用意されており、テーブルに並べられた豪勢な料理を前に、リーファは目を輝かせた。
「まあ、ルナ様!燻製肉に川魚まで、こんなにも豪華なおもてなしをありがとうございます!素晴らしいご馳走ですわね!」
ルナは、リーファの純粋な喜びの声に対し、軽く鼻を鳴らすだけで返答すると、ぶっきらぼうな態度を崩さないまま、悠真の隣に座ることを選んだ。
彼女は、鍛え抜かれた体が引き締まった革鎧に包まれ、そのクールな表情には月光のような銀髪が映えていた。ルナが座り、身を乗り出すと、背後から銀色の尻尾が優雅に垂れ下がった。その尻尾は、彼女の銀髪と同じ色で、獣人族の誇り高き狼の特徴を強く示しており、毛先が地面に無防備に横たわっていた。
「さあ、飲め。お前らのおかげで、この一帯はしばらく平和になる。よくやった」
ルナは、珍しく素直に悠真の功績を褒め、大きな木製のジョッキに入った酒を悠真に差し出した。
「あ、ありがとうございます、ルナさん。でも、お酒はちょっと……」
悠真は丁重に断った。
「フン。そうか、ひ弱な男は酒も飲めないか」
ルナはそう言ってジョッキを引っ込めた後、肉汁が滴る巨大な骨付き肉を悠真の皿に置いた。
「ならば、肉を食え。遠慮するな」
悠真は骨付き肉を手に取り、遠慮なくかぶりついた。慣れない豪快な食事に夢中になるうち、悠真はつい力加減を誤った。
ズルッ――。
骨から肉が滑り落ち、悠真の手から離れた肉片は、ピンポイントでルナの背後の地面に落ちた。それは、彼女の腰から垂れる獣人の特徴である銀色の尻尾の付け根の、すぐ隣だった。
「あ、すみません!」
悠真は慌てて肉を拾おうと前のめりになった。その瞬間――
ふにゅっ。
何かを踏んだ感触。柔らかくて、でも確かに何かを...。
「っ……アン!♡」
時が止まった。
ルナの全身がビクッと硬直し、その口から想像もできない、 甘く、切なげな声が漏れた。
周囲の傭兵たちの喧騒が、一瞬にして静まり返る。
悠真は顔面蒼白で自分の足元を見下ろした。そこには、銀色に輝く美しい尻尾が、自分の靴の下で無残に踏みつけられていた。
ルナは一瞬で顔を真っ赤にして飛び退くと、すぐに「コホン」と咳払いをして、何事もなかったかのように周囲の視線を遮断する。
「な、何ともない、大丈夫だ!しっぽを踏むなんて、不注意だぞ!」
ルナは、照れを隠すように軽く注意した。
その時、横に座っていたリーファが、杯を片手にフラフラと立ち上がった。リーファは、またしても酒を飲み過ぎたらしい。その白い頬は桜色に染まり、瞳は潤んでいた。
「何をいちゃついてるんですかぁ、ルナしゃん!ふしだらですわ!」
リーファはルナと悠真の間に割って入ると、ルナの肩を酔った勢いでグッと押しやり、舌足らずな口調で絡んだ。
「おやめなひゃい!わたくしの悠真しゃまなのに!悠真しゃまは、わたくしのものなんですぅ!」
リーファは、ルナを押し退けると、次の瞬間には悠真に猛烈に抱きついた。
「う、わあ!リーファさん、ちょっ、酔ってるよ!」
リーファの抱きつきは強烈で、悠真の顔はリーファの豊かな胸に埋もれた。
その様子を見ていたセレスティアは、憤怒の表情を浮かべ、席から飛び上がった。
「まあ!リーファ、あなたという方は……このような場で、なんて破廉恥な真似を!」
セレスティアは嫉妬に駆られ、リーファの華奢な肩を掴み、悠真から強引に引き剥がそうとした。
「離しなさい、リーファ!」
リーファはセレスティアの抵抗を無視して、悠真にしがみつく。
「いやですわ!返しません!」
悠真を挟んで二人が、派手なもみ合いとなった。
「ちょ、二人とも、やめてって!」
悠真は思わずバランスを崩し、三人はドタドタと音を立てながら後ろへ倒れかかる。
ドンッ!ガタガタガタ...!
衝撃で、背後の酒樽の山が揺れた。一番上の巨大な樽が、不吉な音を立てて傾き始める。
「あ、危ない!姫様!」
その瞬間、遠くでこの騒動を見ていたボニーが飛び込んだ。その小さな体で、三人と酒樽の間に割って入る。
次の瞬間――
ゴロゴロゴロ...ドスン!
「きゃあああああ!」
樽が地面に激突。勢いで栓が抜け、大量の酒がボニーに降り注ぐ。
ドバーーーーッ!
「ひっ...冷たっ...!」
ボニーは冷たい酒を全身に浴びて、思わず目を閉じた。
悠真は、その場にへたり込んだまま、酒でびしょ濡れになったボニーの姿を見た。ボニーが身につけていた騎士の制服と白いシャツは、酒に濡れたことで肌に張り付き、胸元の生地が透けてしまっている。悠真は、その向こう側に見えてはならないものを見てしまい、顔を真っ赤にして固まった。
やがて、悠真の視線に気づいたボニーは、自分の胸元の異変に気づいた。
「い、いやああああ!み、見ないでください!」
月明かりに照らされた勝利の宴は、美女たちによる非常識な大惨事へと変貌したのだった。
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